第240話 開戦

 テスタ・ヒュガロ・デスクストスによる皇国への宣戦布告がなされた。

 それは王国内だけでなく、帝国、教国も注目する出来事であり、小さな国々からも注目を集めた。


 テスタ兄上はアクージ家を先遣隊として、皇国最南端の領地に攻め込んだ。

 

 本来は、ベルーガ辺境伯領と隣接する皇国だが、アクージ家は越えられないと言われた巨大な山脈を超えて、帝国、皇国との境界線に城を作って侵略を開始した。

 

 侵略を成功させるために、数十年もかけて作られた山城は、全長10,000マイル(16093.44キロメートル)に及ぶ、アレシダス王国史上最も大きな城として完成した。


 それは何十年もデスクストス家がアクージ家に支援して作らせた物であり、他国からの侵略を見越して用意したものであった。


 此度は、皇国の領内へ攻め込む足掛かりとして、使用されることとなった。


「タシテ君の情報はすごいね」


 今朝届いた手紙を読みながら、僕らは船に乗ってカリビアン領を目指していた。

 マーシャル領、チリス領は、互いに迷いの森から溢れた魔物の行軍の被害が大きく。

 テスタ兄上の侵攻に待ったをかける余力を持ち合わせていなかった。


 アレシダス家だけが余力を残していたが、唯一の私兵である近衛騎士は数が少なく。

 デスクストス家や他の貴族たちに対抗できるだけの兵力を持ち合わせていなかった。

 王家は、有事の際は貴族たちから兵を募るのだが、その貴族が挙兵してしてしまえば抑える手立てがなかった。


「テスタ兄上の統率は流石だね」


 ここまでの侵攻に一切の手抜かりはなく、皇国側の侵略を受けた街の降伏した者たちは、すぐに山城に送られたそうだ。


「判断も早いか」


 戦争一家のアクージ家が綻びを補い。

 ブフ家が、後方の支えを補う。


 この二つの家は、率先してテスタ兄上を支えている。


 何よりも、アイリス姉様が聖女でありながらも、率先して戦争を協力していることで、通人至上主義教まで、今回の王国に参加した。


 そのため信者の支援で勢いが増していた。


 アイリス姉さんは、なぜか皇国のヤマトを倒すと叫んでいるそうだ。


「アイリス姉さんをここまでやる気にさせる方法ってなんだっただろ?」


 タシテ君の報告を聞いても、ここだけは疑問が残った。


「リューク。そろそろカリビアン領に入りますよ」

「ありがとう。カリン」


 カリンが操作する船のソファーに座って礼を述べる。

 ボクは遠くに見えるカリビアン領を見つめていた。


「ねぇ、リューク」

「どうしたんだい?」

「大丈夫?」


 この場にはカリンとボク、それにバルニャンだけ。

 シロップはデッキに降りているので、邪魔する者は誰もいない。


「どういうこと?」

「あなたは外に出るのは嫌う人だから、これから大変なことがたくさん待っていると思う。それはしんどくて面倒で、嫌なことがいっぱいある。もしも、リュークが望むなら、このまま四人でどこか遠くへ逃げてもいいと思うの。船には燃料も積んでいるし、食料は十分。嵐に襲われてもバルちゃんが助けてくれるでしょ?」


 カリンと、シロップ、それにバルニャン。四人だけでどこか遠くへ。


「それもいいね。カリンがそれを望むなら、行こうか」


 本当にそれでもいいと思う。

 カリンが料理をしてくれて、シロップがボクの世話をしてくれて、バルニャンがボクを運んでくれる。

 ボクの手の中に収まる幸せは、これで十分に思える。


「否定しないのね」

「本当にそれでもいいと思っているからね」

「ごめんなさい。少しだけ、弱気になっていたみたい」


 ボクは立ち上がって、カリンを抱きしめた。


「ボクはね。怠惰であることは変わっていないよ。カリンとシロップが一番大切なのも変わってない」

「ええ、あなたはいつもあなたのままだってわかっているの。だけど、不安になってしまうの。もしも、あなたを失ってしまうんじゃないかって」

「約束するよ。絶対にカリンより長く生きるから、君を残しては死なない」

「それもそれで嫌ね。私もあなたよりも長く生きて、あなたを看取ってあげたいのに」


 カリンは船をゆっくりと走らせて、ボクに体を預ける。


「でも、ありがとう。私の迷いは無くなったわ。どんな結果になっても、あなたについていくわ」

「うん。ありがとう。カリン」


 そっと唇を合わせる。


 しばらく船をゆっくり走行させてていると、シロップが上がってきた。

 ボクらは海の上で三人だけの時を過ごした。


「さぁ、リューの街へ急ごう」


 シーの街へ到着すると、カリビアン家の人々が荷物の受け取りにきてくれた。

 必要な物はマジックバッグに全てを入れているので、断って義父上に手紙だけを渡した。


「ふふ、あなたがやる気があるなんて珍しいわね」

「ああ、これも将来の怠惰な生活のためにね」

「嬉しいわ。こんなにも生き生きとしているあなたを見られて」

「そうですね。主様が楽しそうで何よりです」


 ボクにとっては一番気心が知れて、落ち着くメンバーで旅が出来て楽しかった。


 だけど、ここからはダンジョンマスターとして、深海ダンジョンの攻略に入る。


 リューの街へ到着すると、五人の女神と街の人たちが出迎えてくれた。


「おかえりなさい」

「「「「おかえりなさいませ!!!」」」」


 リンシャンの言葉に続いて、リューの住民が声を揃えて出迎えてくれる。


 やっぱりリューの街はいいね。


 帰って来たって気分にさせてくれる。


「ただいま! みんな」


 ボクの声に歓声が上がる。


 仮面をつけているのを取りたいけど、誰が見ているかわからないからね。

 宮殿に入ったら、たくさん話をしよう。


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