第241話 良妻

 リューの宮殿に着いたボクは三日が経過していた。

 家でダラダラするって、最高だよね。


「リューク。今日は会議があるぞ」


 リンシャンが常夏のカリビアン領に似合うワンピースを着て、膝枕をしながらボクへフルーツを差し出してくれる。

 領主の仕事はカリンが行うようになり、飲食店街の経営と共に領地運営を開始した。リンシャンは領主代理の仕事がなくなって運送業だけを担当している。

 

 時間に余裕ができたので、ボクのお世話をしてくれるようになった。


 専属でメイドであるシロップは、リューの街にあるメイド養成所の教官として新人育成の指導にあたり。

 宮殿内には、メイドや執事が溢れるほど多くいる。


 他のヒロインたちも日々忙しそうにしているので、手が空いているリンシャンがボク専属になった。


「そうだね。あまりにも居心地が良くて、動くのが嫌になってきたよ」

「そんなことばかり言って、そろそろみんなの報告が来る時間だぞ」

「ハァ、仕方ないね。そろそろ仕事をするとしようか」

「そう言いながら、私のお尻を撫でるんじゃない」


 咎めながらも、止めたりはしない。

 誰に咎められることもない状況になって、リンシャンが誰よりもボクを甘やかしている。

 学園が始まった頃には考えられないほど、優しい顔をしたリンシャンが魔物の羽を加工した団扇でボクを扇いでくれる。


「リンシャンとこんなにも穏やかな時間が送れるなんて思わなかったな」

「私もだ」


 ボクは体を起こして、リンシャンにキスをしてから立ち上がる。


 手紙を送って仕事を頼んでいたけど、ボクらが思った以上に早く到着したため、間に合わなかったので時間を潰していた。


 巨大な円卓が置かれた会議室に入ると、すでに各部門のトップたちが席について、ボクを待っている。ボクが席に着くと、全員が立ち上がって礼をする。


「そういうのはいいって、言っているだろ。さぁ、報告を聞かせてくれ」


 ボクは席に座るそれぞれへ視線を向ける。


・メイド隊

・執事隊

・鍛治師組合

・飲食店組合

・運送物流組合

・冒険者ギルド

・医療ギルド

・アイテムギルド

・諜報機関


 リューの街に住む者たちは、基本的には何かの職についている。

 それぞれの長はボクの妻たちがしているが、実際にまとめるものや、中間管理職というものはどこにでも存在する。

 全てのことを一人で把握するなど到底無理なことだ。

 

 そのため各部門の補佐となる者たちも入れてると、円卓には30名以上の人間が席についていた。


 カリンが領主として実務をしてくれるが、今後の方針や、これからの指針的なことはボクに聞いてくるので適当に答えている。

 一応はそれなりのことを言っているけど、専門的なことは専門家に任せた方がいいというのがボクの考えだからね。


 考えて口を出してもいいけど、やるのは彼らだからそれぐらいはしてもいいかな。


「なるほど、そのようなアイディアが!」


 鍛治職人のドワーフがボクの案に何やら感心している様子で、図面を作成を始めてしまう。

 他にも医療ギルドは、薬学ギルドが最近になってできて、医者と薬剤師の分業をしていく準備を始めている。


 冒険者ギルドは、鍛治師、医療、アイテム、それぞれから素材集めの依頼が多いため、仕事がかなり多くなっているようだ。

 

 ボクが発案した、運送業は王国内でも人気で、マーシャル領からエナガ達を連れて来て温かい環境でも仕事ができるように魔法陣で体を冷やす方法を開発してあげた。


 一応、リンシャンはそこの管理を任されているが実質は、リンシャンの部隊長だった者が実務を仕切っている。


 諜報機関に関しては、未だに長は決まっていないが、タシテ君と連携して育てているところであり、クロマが卒業したら任せようかと思っている。


 街一つだけでなく、王国全土に商売やアイテムを広げつつあるリューの街は、王国内でも注目を集めていたりする。


 そして、最も注目を集める理由として海運業にある。


「カリン、義父上には許可をとってくれた?」

「もちろんです。しばらくこの辺りの海域は漁を禁止にしています」


 リューの街も海に面しており、深海ダンジョンへの足掛かりとして、この海域一帯の漁師侵入を制限してもらったのだ。

 

「なら、みんなにお願いしていた答えも聞いたから、早速明日から始めようか。みんなにも協力してもらうから、よろしくね」


 ボクが声を掛ければ、一斉に立ち上がる。


「「「「「私にお任せを!!!!」」」」」


 うん。なんで、こんなにもみんなやる気あるんだろうね。


 ボクは部屋に戻るとベッドへ倒れ込んだ。


「あ〜怠い。ダンジョンを出てから少しずつ怠さが」


 怠惰を克服したと思っていたのに、ダンジョンを離れてから怠さがぶり返した。


「リューク」


 リンシャンの細い指が、ボクの背中を押してくれる。

 細いのに力強くて、気持ちがいい。


「リンシャン」

「今は身を任せていればいい」


 最近は、いつもリンシャンがマッサージをしてくれる。

 

 大罪魔法、それは宿した者に大罪に属した呪いを与える魔法。

 

 それは同時に自分の体を呪い。


 最後は……。


「ありがとう。もう大丈夫だよ」

「本当か? 無理をしていないか?」

「そんな心配そうな顔をしないで、本当に大丈夫だから、この地のダンジョンを手に入れればもう少し体も楽になると思う。そのためにもみんなには頑張ってもらわないとね」

「ああ、この街の者たちは、リュークによって救われた者が多い。メイドや執事は、奴隷として虐げられてきた。飲食店を営むものはカリンやリュークに食事を与えられた孤児たちだ。鍛治師や医師、アイテム職人はスラム街で生きる目的を失っていた者たち。皆、リュークへ恩を返したいと思っているんだ」


 いつの間にか大勢の人生を背負ってしまっていたんだな。


「ボクのことなんて気にしなくてもいいのに」

「ダメだ。リュークの夢は怠惰に生きることなんだろ?」

「うん。そうだよ」

「なら、リュークの夢を叶えるために、我々は全力でリュークの代わりに働いてみせるさ。それが彼らの喜びにもなる」


 大袈裟な話だね。

 

「私だって、お前に何度も助けられた。塔のダンジョンでも、マーシャル領でも、もうお前なしで生きていくのは嫌だ」


 リンシャンは着ていた肩紐を外す。


 本当に君は、心から良妻だよ。

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