第238話 手紙

 ダンジョンレベルが四になって、他のダンジョンから攻め込まれることを危惧していた。

 だけど。ルールに書かれていた侵略の拒否が選択できる以上は、すぐには侵略は開始されない。

 それに古参のダンジョンマスターたちが、何を考えているのかわからない。


 ボクはボクにできることをやるだけだ。


 そのためにもカリビアン領のダンジョンは、支配しておきたい。

 各上位貴族の領地には大小は様々だがダンジョンが存在する。


 強く有名なダンジョンは誰もが注目しているが、小中のダンジョンは王国でも知られていない場所も存在する。


 森ダンジョンの名前も改めた。


 静かな眠りダンジョン。

 

 ボクが死んで森ダンジョンで寝ていることと、地下迷宮ダンジョンの属性を合わせて、そう呼ぶことにした。


 他のダンジョンマスターには、その名で知られていくようだ。そして、王国に存在するダンジョンをボクは知ることになる。


「そういうことだったのか」


 王国内に現存するダンジョンは、上中合わせて八つ存在していた。

 だが、僕が森ダンジョンのマスターになって、地下迷宮ダンジョンを吸収したことで、七つへと王国内のダンジョンは減少した。


 ただ、《迷いの森》と《魔王の住処》と言われるダンジョンは最高レベルのダンジョンであると同時に、そのダンジョン同士が繋がっている。

 つまり、《迷いの森》は《魔王の住処》の派生ダンジョンである可能性が高い。


 あの時、魔王が、迷いの森の主をペットと言ったのはそういうことだったんだ。


「ふぅ、これはゲームをしていたプレイヤーでも知らないことだぞ」


 ゲーム製作者はどこまでこの世界を作り込んだのだろう。


「リューク様、タシテ様からお手紙が三通ほど届いています」

「三通? 珍しいね。リンシャンたちに送った手紙の返事にしても、三通も送ってくるかな?」


 シロップが渡してくれた手紙の宛名には、リンシャンの名前が書かれた物と、他二通には宛名がなかった。


「タシテ君のことだ。意味があるんだろう」


 優秀な彼のことだ。何か意味があるのだろう。

 僕は、リンシャンたちからの手紙を横に置いて、一通目の手紙を開封した。


「これは、辺境伯?」


 手紙の冒頭に、オリガ・ヒレン・ベルーガ辺境伯の名が記されていた。

 内容としては、ボクが生きていることを理解しているようだ。生きていることを知らせた人物がいると記されていた。


 その人物の手引きで、この手紙を送っているとも記されている。


 ヒロインたちである妻たちにはボクの死の真相は知らせてある。現在連絡が取れていない人物を想像すれば、自ずと一人の人物が浮かんできた。


 そして、オリガ・ヒレン・ベルーガ辺境伯はボクの味方として、何かしてほしいことはないかと言う質問と。協力してくれるという宣言が書かれていた。


「これは罠だろうか? ボクはオリガ・ヒレン・ベルーガ辺境伯を知らないから判断ができないや」


 ただ、気がかりなことも記されていたので、近いうちに確認が必要になるだろう。

 ボクの名ではなく、カリンの名を借りて手紙を送り返すことにした。


「これでいいの?」

「ああ、上出来だ。カリン、ありがとう」


 ボクはカリンに礼を言って、シロップからタシテ君に渡るように手紙を送ってもらう。


 そして、最後の一通を送ってきた相手に意外感と、そして内容にボクは新たな決断を迫られる。


「テスタ兄上?」


 手紙の最後に記された名前は間違いなく、テスタ・ヒュガロ・デスクストスの物であった。

 今までは、兄弟としての交流などほとんどなかった。


 いや、家族としても接していないと言ってもいい。


 家で数度、船上パーティーで一度。

 最後に見たのは、ボクが騎士職を授与される式典だった。


 そんなテスタ・ヒュガロ・デスクストスが何を思って、ボクに手紙を渡したのか不思議だ。


『愛苦しき我が愚弟、リュークよ。


 貴様は死して魔の道へ進むことを選んだ。

 それは険しくもあり、辛い修羅の道であることはわかっているか? 本来であれば、その道を歩むのは、父上であり、我であった。


 これまでデスクストス家が抱え、守り続けてきた真実をお前に記す。


 そして、お前がどんな道を選ぼうと、我々はお前が選んだ道を許す』


 それは、本来ゲームでは語られない。

 デスクストス家が、王国転覆を企み。

 ゲームの主人公、ダンによって阻止させれる真実の理由。


 そこには、デスクストス家の滅亡が含まれており、それは同時に魔王討伐ともう一つの意味が込められていた。


「歪みすぎているだろ」


 どうして父上はボクを、リューク・ヒュガロ・デスクストスに毒を盛り、数度も殺そうとしたのか、その理由が記されていた。


「どこまでも罪を背負い。歪み、バカな一族だ」


 手紙を置いたボクは、それが誰にも見られないように燃やした。


 部屋の中で一人。


 自分用に作った椅子は頭までもたれられる背もたれにしてある。その椅子に体を預ける。


「ボクが選んだ道を許すか、本当に傲慢で勝手だね」


 知りたくもなかったデスクストスの真実に、ボクはこれからのことを考えなければならない。


「リューク様、失礼します」

「どうかした? 今は考え事をしたいんだけど」

「申し訳ありません。ですが、テスタ・ヒュガロ・デスクストス様が兵を上げました。向かうは皇国。すでに各貴族へ伝令も送られたようです」


 手紙を読み終えた頃に始まるテスタ兄上の挙兵。


 テスタ・ヒュガロ・デスクストスの手の中でボクは踊らされている。


「くくく、凄いな。ゲームを知っているはずのボクの知識すら凌駕してみせるなんて、やるじゃないか。テスタ兄上」


 このゲームの悪役が本格的に動きを開始した。


「シロップ、カリンと共にカリビアン領に移動する。それと、カリンにテスタ兄上に物資の提供をお願いして」

「よろしいのですか?」

「もう、戦争は止められない。むしろ、早く終わらせて被害を少なくすることを考えよう」


 クウとシーラスにダンジョンの管理を任せ、ボクはカリンとシロップ、バルニャンと共にカリビアン領へ向かうことにした。


 できるだけ早く。ダンジョンの攻略を進めなければならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る