第236話 事件の解決と出世
《sideダン》
俺が目を覚ますと、そこは地下迷宮ダンジョンではなく、騎士や兵士が運ばれる医療所だった。
「俺は……」
「気が付いたか、ダン」
隣のベッドに寝ていたムーノ団長に声をかけられる。
「ムーノ団長。俺たちは一体?」
バルを先に行かせてしばらくすると、大量の虫が地下迷宮ダンジョンに現れた。俺とムーノ団長は食い止めようとしたが、あまりにも大量な虫に、なす術なく虫の群れに飲み込まれた。
全身に這い回る虫の感触は……、なんとも言えない。
「思い出したようだな」
「うっ!」
口の中や耳の中で虫が動く音がして、しばらくはトラウマになりそうだ。
「どうやら我々は、あの仮面の男に救われたようだ」
「バルにですか?」
「ああ、ダンジョンボスを倒した彼が外にいた兵士に我々のことを伝えてくれたようだ。すでにスケルトンは消滅して、地下迷宮ダンジョンは沈黙している。しばらく魔物の行軍は起きないだろう」
あの大量の虫はなんだったのか、それはわからないが街が平和になったことは素直に喜ばしい。
「これでしばらくは地下迷宮ダンジョンについては頭を悩ませることはないだろう。森ダンジョンの方もデススライムをダンが討伐してからは、また静かになっている」
ムーノ団長は報告を受けたことを俺に語り聞かせてくれた。
騎士になってから、結局俺は活躍できていない。
「それと今回の件は第一騎士団の手柄となった」
「はっ? ダンジョンボスを倒したのはバルです。あいつは冒険者ですよ。うちとは関係ありません!」
「わかっている。だが、我々が寝ている間にそのバル本人が、私とお前でダンジョンボスを倒したと吹聴して回ったようだ」
「なっ! 何を考えているんだあいつは!」
俺は怒りに任せて立ち上がったが、怒りの矛先を向ける者がいない。
「落ち着けダン。あの仮面の男、バルといったな。彼はリンシャン様の婚約者だと言う話じゃないか。もしかしたら、現状ではあまり目立ちたくないと考えたのかもしれん」
「どう言うことですか?」
「現状の貴族派と王権派は、皇国の戦争問題で一触即発の状態だ。貴族派からすれば、王都を衰退させたい状態で、それを救ったのがリンシャン様の婚約者となれば、貴族派が狙う恐れがある」
ムーノ団長の言葉に、納得はできないが状況を理解した俺は大きく息を吐いてベッドに座った。
「つまり、バルは自分が標的にならないように、我々の名を語ったと言うことですね」
「そうだ。王権派の第一騎士団が活躍した方が、貴族派は面白くない。何よりも一人を標的にすることもない」
バルのやつは気に入らないが、よく考えれば全ての辻褄が合ってくる。
「むかつくが、まるでリュークのようなやり方だぜ」
「リューク? リューク・ヒュガロ・デスクストスか?」
「そうです。リュークは戦闘を嫌いで、自分が動くことを滅法嫌がるやつでした。そのくせ効率的というか、俺が半年かけて習得した闘気をたった1日で習得してしまう天才ですよ。陰で動いて、無駄がなく、俺には絶対できないことをしてしまう」
俺の口から出るリュークの評価は、奴が死んだからこそ素直に賞賛できてしまう。
「ダンはリュークのファンなんだな」
「悔しいだけです。アレシダス王立学園に入った時、俺はリュークに絶対勝つって目標を持っていました。結局、一度も勝てないまま、リュークは死んじまった」
「ダン、私は父上の言葉で好きな言葉があるんだ」
「いきなりなんです? ムーノ団長の父上ってことは、王様ですよね?」
「ああ、皆が父上を愚鈍で凡庸な王だと言う。だが、父上の持論でね。生き残った者こそ勝者なのだ。私はこの言葉が好きだ」
「生き残った者が勝者?」
「そうだ。死んだ者には、もう何もできぬ。生きているからこそ、悔やむことも、戦うことも、悩むこともできる。だからダン、お前はリュークよりも長く生きているだけで勝者なんだよ」
ムーノ団長の言葉に、俺は自分を納得させることにした。
「そうですね。俺は生きている。死んでしまったやつのことをいつまで言っても意味がないのかもしれない」
「そうだ。競うのではなく学ぶようにすればいい」
「競うのではなく、学ぶ?」
「そうだ。私は子供の頃からユーシュン兄上と比べられてきた。だが、いくら私が頑張ろうともユーシュン兄上には何一つ勝てなかった」
ユーシュン様は、才色兼備、文武両道、眉目秀麗と称賛が並べられるお方であり、勉強や政治、人格だけでなく武道でもガッツ様などにも引けを取らない。
ムーノ団長も挑んだことはあるが、一度も勝てたことはないそうだ。
「私はユーシュン兄上よりも長生きをする。死んでしまえば、そこまでだがユーシュン兄上よりも一日でも長く生きれば私の勝ちだ」
目標としては低いのかもしれない。
だが、ムーノ団長の言葉に、俺は納得してしまった。
絶対に勝てないと思うやつはいる。
だけど、そいつよりも長く生きていれば勝ち。
そう思うだけで気持ちが楽になるような気がした。
「ありがとうございます。気持ちが楽になった気がします」
「ああ、だから受け入れろ。今回はダンの功績として、あの冒険者が吹聴していた。近々ユーシュン兄上から勲章を授かるだろうからな」
「なっ!ムーノ団長、はめましたね?!」
「別に嘘は一つもついていないぞ」
「それはそうですが!」
ムーノ団長に丸め込まれ、バルが行った功績を俺が受けることになり、俺は騎士爵から出世を果たして、男爵を授かることになる。
第一騎士団に勤めて一ヶ月もしない間に、出世を果たしたことになる。
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