第233話 地下迷宮ダンジョン侵略 6
《侵略戦》は、三つのパートに分かれているとボクは考えている。
一つ、相手の領地を侵略するということ。
一つ、相手が領地へ攻めてきた時の防御をすること。
一つ、戦いが始まる前に相手の情報を掴んでおくことだ。
この三つのパートに対して、バランスをどう振り分けるのか、それが勝利を呼び込む秘訣になる
力押しで侵略だけをしていればいいのか? ノーだ。
王者の戦いだという奴もいるかもしれないが、新参者のボクがそれだけで勝ち続けられるとは思えない。
それでは守りを固めて、相手のDMPが尽きるのを待つか? ノーだ。
確かに初心者なら、それも一つの方法かもしれないが、DMPは相手の方が多い場合、物量で押し切られたらDMPがこちらの方が無くなる確率が高い。
どちらかに100%力を注ぎ込んだとしても、良い結果は生まれない。
もちろん、それらに特化した戦術が全て悪いかと言えばそうじゃない。
ダンジョンの性質や特性、マスターの戦術にあっていればそれは構わない。
要は戦略と戦術、そしてダンジョンマスターが持つ能力やポイントが関係している。
そこで情報が勝負を分ける。相手の能力や戦力、魔物の特性を理解していれば、勝利はグッと近くなる。
「バル、ここではリュークと呼んでも?」
「うん。大丈夫だよ。だけど、この部屋を出たらバルって呼んでね」
「わかりました。それでは今の状況を説明していただけますか?」
女性三人、カリンとエリーナは困惑した様子で、ボクを見ている。
アンナだけは、動じた様子もなく表情が変わっていない。
「エリーナもわかっていると思うけど、ボクはバルニャンを介してダンジョンマスターになったんだ」
「それはアンナから聞いております。ですが、ダンジョンマスターとは、そもそもなんなのですか?」
ボクもそうだが、ダンジョンとは自然にできるものだと思ってきた。
それは生活と密接に関係していて、魔導具を使う際に必要な魔石や素材をとる場所として、そして魔物を溢れさせないように調整しなければいけない管理が必要だ。
それは決して人の手で管理ができる場所だとは思われていなかった。
「ダンジョンマスターについてはボクも今は研究中かな。ただ、ダンジョンで得られるDMPを使って様々なことができるんだ。その一つが他のダンジョンへの侵略行為でね。現在、地下迷宮ダンジョンに対して宣戦布告を行った。相手がそれを受託したから、領土戦が開始されたんだ」
画面に視界を移すと、ボクらを表示する森ダンジョンのマップは緑で表示され、魔物は白い点として表示されている。
敵を表す地下迷宮ダンジョンは赤く表示されて、魔物は黒い点として表示されている。
「つまり、相手のダンジョンコアに攻撃を加える。もしくは奪えば、勝利となるのですね」
「そういうこと。そして、ダンジョンマスターや、その味方として選ばれた者の参加は認められている」
「つまり、我々も参加できるのですね?」
「ああ、参加できるよ」
ボクの言葉を聞いて、エリーナが仮面をつけた。
「ならば、リュークの力になりたいです。アンナ、行きましょう」
「もちろんです」
「エリーナ。嬉しいけど、少しだけ待って」
「私たちでは力不足だと?」
「ううん。むしろ、逆。強すぎるから」
「えっ?」
ボクが調査した地下迷宮ダンジョンは、二年前と変化がない。
つまり、レベルをカンストさせたエリーナやアンナが出向けばほとんどの敵が相手にならない。
ダンジョンマスターやダンジョンボスクラスならば、エリーナたちと戦えるだろう。
だけど、普通の地下迷宮ダンジョンの魔物たちじゃ相手にならない。
「ボクにとって、これは侵略戦の初戦でね。色々と試して、実験をしたいんだ。だから待って欲しい。カリン、食事を作ってくれる?」
「わかったわ。とびきり美味しい物を作るわね」
「二人とも、カリンの作ってくれた食事でも食べながら、しばらくは動向を観察してくれないかい?」
二人は顔を見合わせて、ボクのいうことを素直に聞いてくれる。
「わかりましたわ」
「主のご命令のままに」
ボクは4人掛けのテーブルと椅子を出して、カリンが出してくれる料理を楽しむ。
モニターの中には森ダンジョンとして組み込んだ学園の一部がマップ含まれているが、学生はいないようだ。
どうやら、余計な物を排除することまでしてくれるらしい。
ダンたちが排除されなかったのは、ボクらと行動を共にしていたからか? それとも別の理由があるのか、まだまだ検証のやりがいがあるね。
「観察と言われましたが、リュークは、この戦いをどう見ているのですか?」
「エリーナは、指揮官として戦略戦術の勉強もしていたんだよね? 逆に君ならどう思う?」
「そうですわね。戦力がイマイチわかりかねますが、森ダンジョンに生息している魔物は、スライムやラビット、ウッドツリーなど、それほど強い魔物はおりません。他には小さな虫の魔物でしょうか?」
「うん。あってるよ。こっちのダンジョンボスは、デススライムだね」
森ダンジョンで召喚できる魔物と、地下迷宮ダンジョンで召喚できる魔物の相性は悪い。
「相手は、スケルトンにゴースト、レイスですわね」
「そうだね」
「こちらの分が悪いように感じます」
「それはどうして?」
「森ダンジョンの魔物たちは、物理攻撃を得意としている魔物が多いと感じます。それに対して、ゴーストやレイスなどは、物理攻撃無効化があり、魔法を得意としているので、森ダンジョンの魔物たちでは攻撃が通らないのでは?」
エリーナの指摘は、最初の相手に地下迷宮ダンジョンが侵略できると知った時に考えた。
そして、ボク自身で地下迷宮ダンジョンに行って魔物と対峙もしてみた。
結果、エリーナがいうことは正しいと判断した。
「うん。だからね、ボクはダンジョンマスターになって侵略ができると知った時に魔物たちを選別したんだ」
「選別ですか?」
「うん。スライムでも魔法が使えるもの、ラビットでも闘気が使えるもの、ウッドツリーでも精霊魔法を使えるものにね」
「えっ?」
画面では大量のスケルトンや、ゴーストが侵入を開始している。
だけど、ボクが選別した魔物たちが、大量のスケルトンをデススライムが、ゴーストを選別した魔物たちが一掃していく。
「なっ!圧倒的ですわね」
「相手は、思っているだろうね? どうして相性が良いはずの森ダンジョンに手こずるのかってね」
これは侵略戦じゃない。情報戦だ。
相手を知り、相手を倒す手段を講じれば、難しい戦いじゃない。
「さて、防御はこれで十分だ。次は侵略に移ろうか、その前に食事にしよう」
ボクらは防御をしている魔物たちを見ながら、美味しい食事に舌鼓を打った。
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