第232話 地下迷宮ダンジョン侵略 5

 ダンに地下一階を押し付けて、後からやってきた銀狐と黒豚を連れてボクは地下三階まで降り立った。


「二人とも、会いたかったよ」

「リューク!」


 地下三階まで降りたところで、銀狐の仮面をつけたエリーナが抱きついてきた。


「こらこら、その名で呼ぶなよ。ここではボクはバルだ」

「そうでしたね。今の私は銀狐のシルバーと名乗るように冒険者ギルドで登録しました。バル、会いたかったです」

「シルバー?」

「はい。私もエリーナと呼ばれるわけにはいきませんから」

「そうか、アンナは?」

「私は、ピグと申します」

「ピグ?」

「はい。私はバル様の下僕である豚です」


 うん。アンナは相変わらず徹底しているね。


「二人とも、上手くアイテムを使ってくれたみたいだね」

「はい。今頃は、コピー人形が私たちの代わりに部屋で寝ていると思います」


 エリーナを殺すわけにはいかなかったので、身代わりになる物を作り出すことにした。

 クロマの変身能力を応用して、人形に魔法陣を描いて、触れた者の魔力を感知して、魔力を流した者と同じ姿に変化させる方法を編み出した。動かない上に人形なので、話もできない。


「そうか、よくきてくれた」


 ボクはエリーナの頭を撫でて褒めてあげる。

 エリーナの瞳がウルウルと潤み出して、優しく抱きついてくる。


「本当に生きておられてよかったです」


 ボクが死んだと報告を受けてから、エリーナと顔を合わせるのはこれが初めてだ。他のヒロインたちには、旅立つ前に別れの挨拶をしたので、顔を合わせた。


「うん。ごめんね」


 抱きしめながら頭を撫でると、アンナも嬉しそうな顔をしているのがわかる。


「君たちの仮面には、認識阻害の魔法陣が描かれているから、自分から話しかけたりしなければ、姿を認識される確率も減るから城から抜け出す時は使ってね」

「ありがとうございます。これで堂々とリュークに会いに行けますわ」


 久しぶりに会ったからか、エリーナはいつも以上にベタベタと擦り寄ってくる。それに対して、遠くから二人を見ているアンナにボクは手を伸ばす。


「アンナ」

「わっ、私は」

「いいから」


 伸ばした手をとってアンナがボクの肩に頭を乗せる。


「良い子にしていたかい?」

「はい。ご主人様」


 ボクは左手でエリーナの頭を撫でて、右手でアンナのお尻をつねってあげる。


「ハウっ! ありがとうございます。ハァハァハァ」


 嬉しそうなので正解なんだろう。


「そろそろダンジョンブレイクを解決しようか」

「はい!」

「名残惜しいですが」


 二人がボクから離れて、地下三階を進み始める。

 三階まで来ると、魔物はそれほど多くはない。

 一階、二階は弱い魔物が溢れるほどだったが、三階は量よりも質を大切にしている様子だ。一体一体が強くなって数が減った。


「二人とも戦い方を変えたんだな」


 ボクは魔導銃を撃ちながら、二人の戦い方を観察する。

 エリーナは、繊細な魔法が苦手で属性魔法を派手に撃っていた記憶がある。アンナは主武器は折りたたみの槍だった。


「はい。自分たちの素性を隠すに当たり、得物を変えることにしました。私は、元々こちらも得意でしたので」


 アンナが胸の前で鞭をビシッ!と音がするように伸ばした。


「アレシダス王立学園に三年次まで通って、私だって成長したのよ。皆がそれぞれ己を鍛える中で、私は魔法をコントロールすることを重点的に鍛えましたわ。今なら、呪文を唱えなくても氷を一定の場所に出現させることできるようになったのよ」


 現れたゴーストに向かって手を翳したエリーナが手を握りしめると魔物が消滅した。レベルはマーシャル領でカンストしていたので、魔力が高くなっていることはわかっていた。ただ、ここまで成長しているとは嬉しい誤算だね。


「魔王を見て、あの時のままでは行けないと思ったのよ」

「少しでも、ご主人様のお力になれるようになりたいと思いました」


 褒めて欲しそうな顔をする二人に、ボクは魔導銃で賛美を送る。


 僕が引き金を引くと地下ダンジョンに綺麗な花火が咲き誇る。


「偉いね。このまま二人の力を見せてもらうよ」

「はい!」

「ご主人様の命に従います」

 

 ボクらはダンジョンボスがいる部屋へと入った。


 薄暗い部屋の中は、青白い炎が灯り、一体の魔物が中央で立ち上がった。


「グフフ、よくぞおいでくださいましたお客様、歓迎いたしますよ」


 三百キログラムを超える巨漢、太き屍となった亡者の姿であり、ボクにとっては醜く思い出したくもない人物と重なる。


「我が名はシータゲ・ドスーベ・ブフでございます。これはこれは麗しい乙女が二人もいるなど、私への供物でしょうか? グフフ」


 亡者だというのに、腐った肉を揺らして愉悦に浸る姿は、怠惰とは思えないほどの元気な様子をしている。


「どうなっている? 貴様はボクの魔法を受けたはずだ?」

「はて? あなたは誰でしょうか? 私はあなたのような顔を隠した御仁は知りませぬな。ですが、面白いことを言うあなたに教えてあげましょう」


 シータゲが指を鳴らすと、亡者が大量に生まれ始める。

 

「どうです? これほどの圧倒的な力を見たことがありますか? これを授けてくれたことに感謝しかありません。我が感謝の対象は、リューク様と言うのです。グフフ、彼の方がここにもう一度いらしてくださるなら、この列に加えて一生崇め奉りたいと思っておるのです」


 うん。キモい。

 

「なんとなくわかったよ。お前はこの地下迷宮ダンジョンに選ばれたんだろうな。これから起きる激動の時代に必要なパーツとして」


 ボクの前にダンジョンマスターの選択肢が現れる。


《侵略を開始しますか?》


 自分のダンジョンじゃなくても選択ができるのか?


《目の前に地下迷宮ダンジョンのダンジョンマスターがいます》


「ダンジョンマスター? なるほどね、なら始めよう。ここからはダンジョンマスターとしての戦いを」


《侵略を開始します》


「ほう、あなたもダンジョンマスターなのですね。よろしいでしょう。この力を持ってあなたを我が亡者の列に迎え入れてあげましょう」


《森ダンジョン 対 地下迷宮ダンジョン の侵略戦が合意されました。ここからは二つのダンジョンの空間を繋げます。それぞれのダンジョンは、己のDMPを使って敵ダンジョンコアを奪取した方の勝ちとなります。ダンジョンマスターの参入は可能です。また、DMPがある限りダンジョンコア以外の全ては復活可能です》


 システムの声なのか、神の声なのか、どうやらボクらとは違う概念が決着を決めてくれるようだね。

 地下迷宮ダンジョンのボス部屋にいたはずなのに、いつの間にかボクら三人は森ダンジョンのダンジョンコアルームに戻された。


「リューク? これはどうなっているの?」


 カリンもダンジョンコアルームにいると言うことは、ダンジョン内に存在する物で、敵味方は開始時にスタート位置に戻されると言うことかな?


「つくづく面白いね。なら、ダンたちもいても良いはずだけど?」


 ボクが思考を開始すると、バルニャンが仮面から姿を見せる。


「マスター。よろしいでしょうか?」

「うん。何?」

「モニター画面を表示できるようなのです」

「それはありがたいね。つけて」


 命令すれば、巨大な立体モニターが浮かび上がりマップが表示される。

 マップには、敵味方、そして中立らしきが表示され、各地が映像として映し出されるようだ。


「なるほどね。ダンとムーノはどっちの味方でもないから。中立、つまりNPCというわけか、ちゃんと見極めもできているわけだ」


 初めてのダンジョン侵略だ。

 

 あのシータゲを相手に僕はどこまでできるかな?

 

 



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