第229話 地下迷宮ダンジョン侵略 2
《sideアンナ》
あの日、リューク様の訃報が伝えられ、私は世界の終わりを知りました。
生きる糧を失うというのは、あのような状態をいうのでしょうね。
それもこれも我が主人様がアホすぎるため、リューク様に事前にご連絡いただけなかったという信頼のなさが原因です。
私がリューク様の訃報を知った時、クロマが知らせにきてくれました。
「会長! リューク様が皇国のヤマトさんに首を刎ねられてお亡くなりになりました」
「えっ?」
クロマは悪気があったわけではありません。
リューク様に、我が主人様が側にいるかもしれないから、公の場ではそうのように報告するようにいわれていたそうです。
ですが、その時の私は自分の身分も忘れ、泣き崩れてしまいました。
我が主人様は呆然として、クロマのいった言葉を噛み締めておられるようでした。
「クロマ、詳細を詳しく教えて頂戴」
クロマは、私が設立したリューク様親衛隊の会員です。
全世界にリューク様を普及するために立ち上げた親衛隊は、私でも把握しきれないほど様々な方が入会されておられます。
それだけリューク様の魅力が飛び抜けておられました。全世界のご婦人だけでなく、男性にもファンを作り、男女の垣根を超えて、崇拝の対象にまでなられておりました。
後日、エリーナ様のおられない場所で、クロマが私だけに伝えてくれた内容に、私は怒りと安堵を味わうことになるのです。
「生きて、生きておられるのですね?」
「はい。リューク様はダンジョンの中で潜伏されております。私の変身魔術でヤマトを騙し、リューク様の魔術で相手の集中力を削いだといっておられました」
「そうですか」
私はエリーナ様への怒りと、リューク様が生きていたという安堵で自然に笑顔と涙が溢れ出しました。
「会長、申し訳ありません」
「クロマさんは何も悪くありません。リューク様のご命令をお聞きになられた。それは親衛隊の鏡です。誇ることがあっても謝ることではありません」
「そういっていただけると」
「罰するべきは我が主人様です。主人様には葬儀が終わるまでは内密にお願いします」
「よろしいのですか?」
「もちろんです。あの方は少し真面目なところがあるので、嘘をつくのがあまり得意ではないのです。ですから、今回は本当に悲しんでいただきましょう」
葬儀が進むにつれて、エリーナ様は我慢の限界が来た様子で、涙を流しリューク様が入っておられない棺に抱きついて大泣きされました。
国民には愛する人を失った王女様として、新聞にも取り上げられて話題になっておりました。
私は、エリーナ様が公の場に出ている間に、仮面の冒険者として参列しておられた、彼の方を見つけて胸が張り裂けそうなほどの幸福を感じました。
やはり彼の方は生きている。
存在を感じることができて、心からの安堵を得られました。
仮面をつけているのによくわかった?
はっ!?
私を誰だと思っているのですか? 彼の方の指の動きや骨格。果ては髪の毛一本であってもリューク様を見分けられる自信がございます。
それでなくてはリューク様親衛隊会長を名乗る資格はございません。
その後は、リューク様が寝泊まりされているダンジョンへ招待していただきました。
リューク様との話し合いの末に。
カリン様を筆頭にエリーナ様、リンシャン様、アカリ様は、貴族派のマークが強く、しばらく身を潜めた方が良いということになりました。
カリン様は領地に戻っても危ないと言うことで、リューク様と共にダンジョンの中で。
リンシャン様、アカリ様は、カリン様の代わりにカリビアン領へ。
そして、目立つ上に意味のわからない動きをするエリーナ様は、私の提案でご自身の部屋へ監禁することにしました。
「リュークは生きているの?」
葬儀も終わり、リューク様からご許可もいただいたので、やっと我が主人様に事実を告げると、呆然とした顔をしておられました。
死んだのが本当で、生きているのが嘘のように感じているのかもしれません。
「なら、どうしてリュークは私に会いに来てくれないの?」
我が主人様は、悲痛な顔になり、流石の私も居た堪れない気持ちになりました。
「それは、エリーナ様にはお立場があるからでございます」
「立場?」
「はい。リューク様は言わば死人。死人を追いかける王女と聞いて、他の人々はどのように思うでしょうか?」
「だけど、リュークは生きているのでしょ?」
「世間的には死んでおられます」
「死んでいるのに生きているの?」
「はい。物理的には生きておられます」
「じゃどうして会いに来てくれないの?」
まるで駄々っ子のようになってしまったエリーナ様。
私はどうしたらいいのだろうと悩みます。
そんな時、扉がノックされました。
エリーナ様を黙らせて、扉の方に向かいます。
「どちら様でしょうか?」
「会長。私です」
「クロマ?」
メイド服に身を包んだ女性は見慣れない相手でした。
ですが、その声と呼び方からクロマだと推測できます。
「中に入っても?」
「ええ。どうぞ」
クロマはリューク様が認めた女性です。
拒否をする権利は私にはありません。
「誰? あなた初めて見る顔ね」
部屋に入ると、エリーナ様が警戒した声を出しました。
私とクロマは面識がありますが、エリーナ様とはそれほど接点がありません。
「改めまして、アレシダス王立学園一年次クロマと申します。本日はリューク様から伝言を預かってきました」
ナイスタイミング! さすがはリューク様です。
サスリューです!!!
「リュークから?」
「はい。愛するエリーナ」
「まぁ、愛するだなんて」
一文目から照れて声を出すエリーナ様。ちょろ。
「今は、王国内が騒々しくてボクも君も、簡単には外に出れない状況だ。そこで、君とアンナにプレゼントを用意した。その詳細はクロマに伝えてある。改めて君と会える日を楽しみにしている。リューク」
「リューク! やっぱりあなたは私を愛してくれているのですね。ふふ、いったいどんなプレゼントなのかしら?」
クロマが持ってきていたマジックポーチから、ある物を出しました。
それは私にも同じ物があり、二人で唖然とプレゼントされた物を見ました。
そして、もう一度クロマを見ます。
「これは?」
「使い方をご説明します……」
説明を聞いても、意味がわかりません。
「まぁ、そんな方法で会えるなんて、素敵ね」
「私も協力します」
なぜかノリノリのエリーナ様。
そして、リューク様から密命を受けているクロマも楽しそうだ。
プレゼントを見て、リューク様にどんな顔で会えばいいのか思案しながら、リューク様に踏まれるのを恋焦がれてしまいました。
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