第223話 色欲の覚醒
【sideアイリス・ヒュガロ・デスクストス】
アレシダス王立学園を卒業したわたくしは、通人至上主義教会の王国支部最高権力者である聖女として、現在の地位と仕事をすることになりましたの。
それもこれも全ては弟のリュークのせいですの。
リュークは、わたくしに仕事を任せて、たまにしか会いに来ませんの。
わたくしにこのような激務を押し付けましたのに。
「なんですの! どうしてこんなにも孤児院が汚いんですの」
わたくしが最初に始めた改革は、孤児院や教会の清掃活動でしたの。
綺麗な物が大好きなわたくしには汚い環境が我慢できませんでしたの、全てを綺麗にするんですの。
綺麗な環境、美味しい食事、整理されたルール。あまりにも
一年も続けていれば、随分と見違えるほどに教会や孤児院が綺麗になりましたの。
そんなわたくしの元に、三年次が始まる前の挨拶だとリュークが久しぶりに会いに来ましたの。
聖女は激務すぎて、疲れますの。
「リューク! 約束が違いますの! あなたはもっとわたくしに会いに来て労うべきですの」
「ごめんね、アイリス姉さん。今日はアイリス姉さんを労おうと思って、アカリに作ってもらったある物で癒しに来たんだ」
リュークはわたくしの部屋に入って、肌を晒すように言いましたの。男性に肌を見せたことなどありませんの。わたくしの美しい肌を見られるなんて、一生の宝にできますの。
「始めるね。シロップや、カリンにはしているから上手いと思うんだけど」
リュークの暖かくて大きな手がわたくしの背中を摩りますの。
暖かくて良い匂いがするアロマオイルをつけて、ゆっくりと滑っていくリュークの手はわたくしの体をほぐしていきますの。
リュークとの触れ合いはわたくしの心を癒してくれますの。
「回復魔法を同時にかけているから、疲れだけじゃなく、体の筋肉を痛めているところも治しておくね。それにしても、アイリス姉さんは聖女様に向いていたんだね」
「何を言っていますの。こんな大変な仕事したくありませんの。もっと綺麗なところで、綺麗な物を見て、綺麗な仕事がしたいですの」
不満をリュークに言って、辞めたいけれど。
聖女という仕事は不思議ですの。
絶対にしんどくてやりたくない仕事ですの。
だけど、わたくしが命令したことで、孤児院が綺麗になって、教会の考え方もスラム街の整備もできましたの。みんなが喜んでくれて、笑顔でわたくしにお礼を言いますの。
もう少しだけ、大変だけど、この仕事を続けてもいいと思いますの。
「痛くない?」
リュークの優しくて温かい手が背中から足に移動しましたの。とても気分が良いですの。
「随分と手慣れているですの。いったいどれだけの女性にしてきたんですの?」
「う〜ん、疲れている子たちにはしてきたかな? もちろん、無理やりは絶対にしないよ。相手がしてもいいっていう人だけ特別」
リュークは狡いですの。
いつも、わたくしが会いたいと思った時にフラッとやってきては、わたくしを癒していきますの。
だけど、今の悩みは解決できませんの。
「ねぇ、アイリス姉さん」
「なんですの?」
「ボクが死んだらどうする?」
「何を馬鹿なことを言っていますの。あなたは若くて才能も溢れているんですの。戦争でも起きない限りは……どこまで知っているんですの?」
お父様、お兄様がやろうとしていることをリュークは知らないはずですの。
だけど、リュークの口調は……わたくしの悩みに問いかけているようですの。
「ボクはね。争いが嫌いなんだ。面倒でしょ? 戦うって、だからみんなが幸せであればいいって思うんだよ」
「それは難しいですの」
「うん。わかっている。だけど、ボクの大切な人だけでも、そうであってほしい。アイリス姉さんのことも大切に思っているからね」
嬉しいですの。リュークがわたくしを大切だと言ってくれましたの。
「だからさ」
「もう言わなくてもいいですの。あなたがそれを願うなら、わたくしはお父様に賛同しませんの」
「うん。アイリス姉さんありがとう」
本当に、わたくしが悩んでいることをリュークはわかっていたんですの? わたくしは戦争が起きて、街が汚くなるのが嫌なんですの。
やっと王都も綺麗になったのに……
そう、これはリュークとわたくしの約束ですの……でも、それはリュークが生きていればの話。
「リュークが死んだ?」
「はい。昨日、皇国留学生であるヤマトから決闘を受け、首を刎ねられたと連絡が……遺体はダンジョンに……アイリス様!!!」
嘘ですの! 嘘ですの! リュークが死ぬはずがありませんの!
わたくしはどこに行けばいいのかわからないまま教会を飛び出して歩き続けましたの。
辿り着いた場所はカリンの元でしたの。
「カリン!」
わたくしがたどり着くと、カリンは料理を作りながら、涙を流していましたの。
あなたもリュークの死を聞いて悲しんでおりますの! わかりますの! あなたの気持ち! 誰よりもリュークを愛した者同士、気持ちが痛いほどわかりますの。
「アイリス」
わたくしはカリンを抱きしめましたの。
カリンが泣いていますの。
リュークはもう…… わたくしは決めましたの。
皇国をわたくしは許すことができませんの。
「カリン。わたくしに任せるんですの。必ずリュークの仇はわたくしが討ちますの」
「アイリス、落ち着いて」
カリンは健気ですの。
こんなにも辛い時にわたくしのことまで考えてくれますの。
「落ち着いてはいられませんの、どうやって皇国に仇を討つか考えますの。今までわたくしは家の方針に反対してきましたの。だけど、もうわたくしが大切にしたいものはありませんの」
自分でもわかりますの。力が漲ってきますの。
「アイリス?」
「ふふ、あ〜、どうして魔法省の方は教えてくれなかったんですの? そういえば後天的に属性魔法を宿す者がいると聞いたことがありますの。そうですのね」
わたくしからピンク色の魔力が吹き上がっていく。
これは色欲の魔法。大罪魔法。
リュークや、テスタ兄様が使っていた魔法はこれだったんですの。
この力があればリュークの仇が討てますの。
だけど、すぐにはダメですの。
リュークは、この力を持っていても討たれましたの。 力を強めて皇国を討ちますの。
「カリン、気持ちをしっかり持つんですの。必ずわたくしがあなたの願いを叶えますね」
カリンはわたくしを見て唖然としていましたの。
だけど、もうわたくしは止まりませんの。
これは聖戦ですの。
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