第224話 葬儀
【sideダン】
俺がリュークの訃報を聞いたのは、葬儀が行われる前日だった。
剣帝杯を終えて、騎士になった俺はガッツさんの元で今後の仕事について話し合いを行なっていた。
「リュークが死んだ?」
ガッツさんも驚いて二人で顔を見合わせる。
「そんなバカなリュークが殺されるなんてあり得ない。あいつは殺しても死なないやつだ! あの黒龍にだって勝ったんだぞ!」
「ダン先輩、事実っす」
ハヤセは悲痛な顔をして、ナターシャから聞いた情報であることを告げる。
「でも、どうやってリュークが死んだって言うんだ?」
「リューク様の婚約者であるアカリ・マイド様の公式発表によればっす。皇国の侍ヤマト様と決闘を行ったっす。リューク様が敗れて首を刎ねられたっす」
証拠の映像もあり、森ダンジョンで死んだリュークはダンジョンに吸収されて遺体も発見されなかったという。
ただ、いつもリュークが身につけていた。アレシダス王立学園の制服が残っていたそうだ。
「ヤマトに会ってくる!」
「ダン! ヤマトに会ってどうするつもりだ?」
ガッツさんの問いかけに、俺はテーブルを叩いた。
「俺がリュークの仇を討ちます!」
「バカなことはやめろ! お前にその権利はない」
「権利ってなんなんですか!? リュークは俺の親友です! 親友が死んだのに敵討討ちもできないなんて!」
「すでにデスクストス家が皇国陣営に人を回したそうだ。撤退した後だったようだ」
ガッツさんの部下が持ってきた情報に奥歯を噛み締める。
「まさか、このような形でリュークを失うとはな。奴は考えが読めなかったが、頼りになる男だった。惜しい男を」
「くっ!」
俺が悔しさで口から血を流せば、ハヤセが手を握ってくれる。
「ダン先輩、気をしっかり持つっす。こんな時、リューク様ならバカなことはしないっす」
ハヤセに諭されて、俺は大きく息を吐く。
「すまない。そうだな。リュークならこんなバカなことはしない。皇国は許せない。だが、俺が動くべきじゃない。それを許されるのは家族だろう」
「そうっす。リューク様の婚約者であるカリン様が沈黙を守っているのに、ダン先輩が動くのは良くないっす」
「くっ!」
姫様は今、どんな気分なんだろうな。
俺にだって、リュークと姫様が上手くいっているのは知っている。
それなのに……
それからのことは色々と早かった。
デスクストス家が発表する葬儀の日程が王都全土に告げられて、多くの参拝者が教会へと押し寄せた。
帝国の将軍や、教国の聖女からも別れの言葉が送られることに、リュークがどれだけその名を轟かせていたのかが王都中の人々が知ることになる。
「本日は、お集まり頂きありがとうございます」
そう言って葬儀の壇上に上がったのは、テスタ・ヒュガロ・デスクストス公爵様だ。デスクストス公爵家を継いだばかりで、最初の仕事がリュークの葬儀とはあまりに悲しすぎる。
テスタ公爵の言葉に会場の空気が一変する。
人々の表情には緊張と悲しみ、憤りが交錯していた。
テスタ公爵の瞳には悲しみが深く刻まれて見える。
「我が弟、リューク・ヒュガロ・デスクストスが死んだというのは事実である。我にとって言葉にできないほどの苦しみが胸を締め付ける。リュークは、人に愛される存在だった。我の誇りであり、我の片腕として将来を担う存在だった。しかし、リュークの死を受け止め、我は自らの責任を問い直さなければならない」
テスタ公爵の声は憤りと悲しみを含んだ堂々とした声だった。
リュークの死を無駄にせず、自らの行動を見つめ直す決意を口にする。
「我が貴族としての地位を持った以上、我の子供たちには違う未来を約束しなければならない。より強い王国! 他国に侮れらない強さを持つ王国へ変革を!」
テスタ公爵は失敗を受け止め、今後は未来の人々に平和な環境を与えるために宣言する。
「私はこのような悲劇が二度と繰り返されないよう、他国との対立を解消する。王国に住まう民よ。我に続いて欲しい。皇国へ宣戦布告を申し出る」
テスタ公爵の言葉に対して、会場の人々は静かに頷き、納得の表情を浮かべた。決意に感銘を受け、多くの人々がテスタ公爵を支持した。
「我が弟の死を無駄にしないためにも、我は今後はより一層国家の発展と強固な国作りを考えることを誓う」
この場には、王太子であるユーシュン様も来られているが、テスタ公爵の言葉に反論することなく。民衆はテスタ公爵の言葉に応じるように怒声を上げる。
「皇国許すまじ!皇国許すまじ!皇国許すまじ!」
演説が終わると、会場中に声が沸き起こった。
俺は、テスタ公爵のことを悪い貴族だと思っていた。
だが、リュークの死を力に変えようとしている。
テスタ公爵の決断と決意を、俺も理解できる。
次に壇上に上がったのは、カリビアン・シー・カリン様だ。
婚約者をなくされたカリン様に、会場中が同情の視線を向け、静まり返っていく。カリン令嬢の言葉を拝聴しようと民衆が視線を向ける。
どれだけの思いを胸に秘めたのだろう。悲しみと怒りを込めた言葉で語りかけると民衆は思っていた。
「私はカリン・シー・カリビアン伯爵です。私の婚約者が、決闘で命を落としました。リュークは私の未来の夫であり、愛しい存在です。しかし、リュークの死を受け止め、私は沈んでばかりではいられません」
彼女の声には悲しみが漂っていた。
だが、強い意志も感じられた。
彼女は自分の婚約者を失った悲しみを乗り越え、前を向いている。
強い人だ。
「私は、決闘や暴力を受け入れることはありません。ですが、悲しみが連鎖することも望みません。私が愛した彼は戦うことを好まず、怠惰で平和な世を望んでいました」
彼女は婚約者の死をきっかけに、平和と調和を尊重する姿勢を持つことを決意していた。慈愛に満ちた彼女の言葉に涙を浮かべる者も少なくない。
テスタ公爵とは違う道を歩むようだが、カリン様の気持ちも理解できる。
「私は婚約者の死を無駄にしないためにも、今後は平和の促進や対話の大切さを訴えていきます。私は、私の婚約者が愛したように、人々の心を結びつけ、争いのない未来を築くことを目指します」
リュークは確かに争いを嫌っていた。
俺が決闘を申し込んだ時も、戦うことに意味はないと、俺をバカにした。
彼女の言葉にはリュークと同じ情熱と決意が込められていた。
会場の人々は彼女の強い意志に感銘を受け、拍手と称賛の声を送った。
「私の婚約者の死は痛ましいことであり、私にとっては大きな喪失です。しかし、彼の死を無駄にしないためにも、私は私自身を変え、より良い未来を築くために努力していきます」
テスタ公爵との決別。
カリン伯爵の演説は多くの深い感動を与えた。
悲しみと強い意志は、人々の胸を打ちカリン嬢を支持する声も多くなる。
強い王国、争いのない世界、テスタ公爵の気持ちも。
平和と調和、争いのない世界、カリン伯爵の気持ちも。
どっちも痛いほど理解できる。
俺は……
二人ほどの気持ちを持っていただろうか? 俺にできることは、リュークの意思を注いで、絶対に王国の平和を手に入れる。
「姫様、来ていたのか?」
「ダンか、お前も来ていたのだな」
「大丈夫か?」
「うん? 何がだ?」
「いや、リュークのことだ」
俺が問いかけると、リンシャン姫様は不思議そうな顔をした。
そして、納得した顔をする。
「大丈夫だ。私もカリン様と同じ気持ちだ」
「そうか、リュークがいない今、護衛をつけた方が」
「必要ない。私にはお父様が認めてくれた婚約者がいるからな」
「なっ! リュークが死んだのに! それはあまりにも」
「ダン、何も言うな。ちょうど彼が来た」
そう言って俺の前に現れたのは、紫熊仮面を付けたふざけた男だった。
「なっ! なんだお前は」
「俺か? 俺はバル。冒険者をしている」
軽薄そうな男がリンシャン姫様の腰に手を回す。
「マイ・プリンセス、行こうか」
「ああ。ダン、私たちは先に失礼する」
「姫様!」
「どうした?」
「いいのか? 本当に?」
「だから、何がだ?」
「いや、お前はリュークを」
「ダン、黙れ」
ぐっ! 確かにリュークの葬儀で口にすることじゃない。
「もう、リュークはいない。だが、彼の意思はここにある」
姫様は胸を指し、仮面の男と共に去っていく。
俺は、これからのことを決めなければいけない。
王国の騎士として何ができるのか……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
どうも作者のイコです。
第六章、これにて完結です。
それと同時に学園パートも終了となります。
話としてはやっと4割程度が終わったかなと言う感じになります。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます
明日、明後日は、登場人物の紹介を第三弾、前半、後半をしていこうと思います。学園編に登場した全ての登場人物を書こうと思います。そのため二つに分けて投稿します。
一段と変わっているところもありますので、お楽しみ頂ければ幸いです。
第七章は、快適ダンジョン編です。
ここまで読んでいいなぁ〜と思って頂ければ、どうかレビューとコメント、いいねをお願いします(๑>◡<๑)
現在、総合年間ランキング13位 累計ランキング62位になっているようで嬉しく思っております。
書籍化作業も楽しく進行して、リュークのキャラデザ進行中です。
書籍版では、WEB版との差を明確に書き分けれたと思っています(๑>◡<๑)
楽しみにして頂けれ幸いです(๑>◡<๑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます