第220話 三年次剣帝杯 7

【実況解説】


【実況】「今年度の学生剣帝杯も決勝戦を迎えて、いよいよ大詰めになって参りました。ここまで様々な戦いを見せてくれた選手に感謝を伝えたいです。ここまで勝ち上がった二人。決勝を戦う二人を出迎えたいと思います」


【解説】「皇国からの留学生たちは、皇国の強さを十分に見せてくださいました。【荒ぶる侍】ヤマト選手は決勝まで上がってきた【我儘令嬢】セシリア選手に実質は勝利していました。武器破壊されたことで、敗北を認めていなければここにいたのはヤマト選手だったでしょう」


【実況】「準決勝では、【妖艶くノ一】カスミ選手が皇国の強さを見せて、主人へ勝利を譲るという主従関係を見せました」


【解説】「もう一つの準決勝では、実力の差とでも言えばいいのか、【千の顔を持つ者】クロマを力で圧倒して見せたセシリア選手の実力に偽りなし」


【実況】「それではいよいよ入場です。皇国の【戦巫女】メイ・カルラ・キヨイ選手対【我儘令嬢】セシリア・コーマン・チリス選手の入場だ!!!」


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【sideヤマト】


 皇国を出る際に、皇王陛下より俺が承った仕事がいくつかある。

 その中には、二人の皇女を護衛するという当たり前の仕事だけでなく、王国全体の情報調査、聖なる武器に選ばれし者の力量。


 そして、最も重要な仕事は、皇国に匹敵する力があるのか、判断することだ。


 皇国人というだけで目立つ俺という存在を隠すためには、常にメイ皇女の影に隠れる必要があった。注目はメイ皇女が勝手に集めてくれる。


 メイ皇女は不思議な人だ。

 どこにいても勝手に目立つ存在になってくれる。

 そういう人間の後ろに隠れることほど簡単なことはない。


「ココロ様、占いの結果はいかがですか?」

「皇国を出る前と同じです。王国には凶兆が出ております。決して手は出してはなりません」

「……聞き方を変えます。五大老に匹敵する存在はどれだけおられますか?」


 いくら手を出すなと言われても、俺には俺の役目がある。

 メイ皇女が皇国からの留学生として目立つ存在であるならば、ココロ様は俺と同じく使命を帯びて王国にやってこられた。


「皇国にいた時の段階で、四つでした。ですが、最近になって一つ増えて今は五つです」

「やはり、私の神刀も同じ反応を示しています」


 神刀が反応している時期。

 相手も特定できている。


「ヤマト、悪いことは言いません。やめておきなさい」

「何をやめろとおっしゃるのですか? ココロ様」

「あなたが今、しようとしていることです」

「私がしようとしていることが、ココロ様にわかるのですか?」


 このような問答をしても無駄なことはわかっている。

 だが、これは皇国のためなのだ。

 魔に染まるということは、その年数によって魔はより深く濃く染まっていく。


 染まったばかりの今ならば、脅威になる前に排除できるかもしれない。


「あなたはリューク・ヒュガロ・デスクストス様へ危害を加えようとしています」

「ココロ様、お言葉ですが、今を逃せば次に邂逅した際、リューク・ヒュガロ・デスクストスは皇国の脅威になっているかもしれないのです。今ならば、染まってすぐであり、我が刀を持って打つことができるでしょう」

「私はそれをしては行けないと申しておるのです」

「何故ですか? ココロ様は我が力量を信じておられないのですか?」

「そういうことではありません。リューク様に手を出しても、あなたにとっても皇国にとっても良いことは起きません」


 ココロ様はわからないだろう。

 魔に侵食されていくということがどういうことなのか、五大老の脅威をココロ様はわかっておられないのです。

 

「どうか、早まった行動は謹んでください」

「はっ、承知しました」


 俺はココロ様の元を離れて、神刀に導かれるままある場所へと辿り着く。


 大規模魔法実技大戦が行われた森ダンジョンと呼ばれる場所で、俺はリューク・ヒュガロ・デスクストスの姿を見た。


「やぁ、ヤマト。君一人かい?」

「失礼仕る」

「君は武士という感じがしていいね。それで? 物々しい雰囲気だけど、なんの用かな? 君から恨まれるようなことはしていないと思うけど」


 こんな森ダンジョンからでも巨大なモニターの光が届き、メイ皇女がセシリア・コーマン・チリスと対峙する。


「恨みはございません。ただ、世界のため、あなた様の命頂戴致す」

「ふむ。やっと会話をしたと思えば、命を頂くか、あまりにも不躾だね。それはメイ皇女の命令? それともココロが?」

「お二人の皇女には俺がここに来たことは言っており申さぬ。ここに来ることをココロ様にはやめよと止められ申した」

「そうか、面倒な話だ。君は結構重要な人物だからね。ボクとしても手に余るよ」


 面倒だと言いながら、存在が濃くなる。

 どんな動きにも対応できるように構える。

 結界を張り、抜刀術で対応する。

 カウンターでは負ける。

 だから、最速で最強の一撃に全てを込める。


「バルニャン」


 リューク・ヒュガロ・デスクストスの背後から紫の髪をした美少女が飛び出して来て刃を交える。


「くっ、ふん」

「やりますね!」


 数合打ち合って、美少女が距離をとる。


「へぇ〜凄いや、バルニャンの攻撃に対応したのは君が初めてだよ。しかもバルニャンを押し返した。ふむ、これからはこのレベルの相手と戦わなければいけないわけか、マーシャル公爵クラスがゴロゴロいるというわけだね」


 納得した顔をするリューク・ヒュガロ・デスクストス。


 力量は互角、負けぬまでも、勝つためには命を賭して挑まねばならぬ。


「ヤマト、もしも君が魔王のテリトリーに一人で入っていたら、勝てると思うかい?」

「何を?」

「ふふ、ダンよりも、聖なる武器に長けてはいるが、それはわからないか。うん、まだまだ君はボクと戦う力はないようだ。よかった。力量は、素晴らしい。だが、聖なる武器を使えていない」

「何を! 俺は誰よりも修練を積んできた」

「ああ、別にその修練を否定はしない。だけど、聖なる武器とは、人の想いの強さを具現化したような武器だ。意思の強さと想いの多さに比例する」

「知ったような口を聞くな! 貴様に何がわかる! 神刀は俺が一番よくわかっているんだ」


 次で決める。


「奥義 魔・断絶」


 俺は刀術に全ての力を込めるために、陰陽術を全身に刻み込んでいる。

 鎧など必要ない。この身と神刀があれば全てを斬ることができる。


「確かにダンなんて、比べられないね。だから、それ相応の技を見せてあげるね。一対一とはまるで剣帝杯のようだね」


 楽しそうに笑いリュークに向けて命を賭ける。


 全身全霊で刀を振るう。

 リューク・ヒュガロ・デスクストスと交差する刹那。

 

 俺は奴の首を落とした……


 

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