第218話 三年次剣帝杯 5

【実況解説】


【実況】「ベスト4が出揃いました。今大会もいよいよ大詰めに入ってまいりました。準決勝は、皇国対皇国、王国対王国という組み合わせが組まれました」

【解説】「決勝戦は、皇国対王国が決定致しましたので、上がって来る者たちは、その国の代表戦のようになりますね」

【実況】「はい。どのような結末になろうとも、受け入れる覚悟をしたいものです」

【解説】「王国のお二人には頑張って欲しいと個人的には応援してしまいますね」

【実況】「気持ちはわかりますが、我々は実況として公平に頑張りましょう!それでは皇国対決から見ていきたいと思います。両者入場です」


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 ボクは剣帝杯の優勝者など、興味がない。

 剣帝杯が始まる前から姿を消していた人物の情報が掴めたことを、タシテから伝えられたので、そちらに向かうことにした。


 モニターには皇国の二人が対決するために入場してきていた。


「ジュリア、どこに行くんだい?」

「リュークか、やっぱり君が来るんだね」

「わかっていたのか?」

「ああ、私は大規模魔法実技大戦では、軍師として働いた。それ以外では一人で過ごしていることが多かったからね。話した人間も少ない。留学生といっても、三年次はアレシダス王立学園を楽しんでもらうように、配慮がされていて、半年間は楽しい学校生活だったよ」

「情報は得られたということかな?」

「ああ、この国は平和で良い国だ。だが、王権派と貴族派の者たちは歪な関係のまま、綱渡りが続いている」


 アクージ家の手引きとしてやってきた彼女は、帝国の将軍という地位に戻るのだろう。

 王権派がそれを理解しているのかは知らない。

 ユーシュンならば、それぐらいは理解しているかもしれない。貴族派のテスタは、タシテやアクージによって情報を得ていることだろう。


 ここまで泳がせたのは、彼女に加担する者がいないか見張るためだ。

 彼女が帝国に帰るのを選んだのも内部からでは、クーデターは成功しないことを悟ったからだろう。


 相変わらず賢い。


「それで? 帝国は王国に攻め入るのか?」

「……否定はしない。現在は魔王の脅威があるが故に放置も考えられる。だが……」


 ジュリアが、巨大なモニターに映し出される皇国の二人が戦う姿を見て、笑みを浮かべる。


「あの程度の力しか持たない者同士ならば、簡単に帝国は他国を滅ぼすことができるだろうな」

「だろうね」

「だが、リューク。君は違う」

「ボク?」


 ジュリアが真剣な目でボクを見る。


「ああ、君の力は我々に匹敵する力を持つ。力だけじゃない。その知力や戦略も面白い。どうだ? 私と共に帝国に来ないか?」

「魅力的な誘いだね」

「なら、一緒に行こう。私の夫として出迎えてもいい。帝国は才ある者を歓迎する」


 彼女が手を差し出す。

 いつもは目立たないようにワザとくすんだ化粧をしている。

 今は化粧を取って彼女本来の美しさが現れており、闇夜でも光り輝いて見えるほど美しい。

 彼女から、夫への誘いは魅力的なお誘いだ。

 ジュリアと過ごした夕食も、軍略を競い合った大戦も楽しかった。


「ごめんね。ボクも王国で守りたい人がいてね。王国全土なんて言わない。だけど、君がボクの大切な人を傷つけると言うなら、戦うことを選ぶことになる」


 ジュリアが差し出した手は空中で行き場を失う。

 彼女は顔を俯かせて、手を引こうとする。

 その手をボクは掴んだ。


「それよりも、君がボクの元へ来る気はないかい?」

「なっ!」


 モニターでは、薙刀を持った鎧武者が、くノ一の幻術によって翻弄され、壁へと激突する。

 モニター越しに衝撃音が王都中に響き渡る。猪武者は、能力は高いのかもしれない。

 だが、戦闘において未熟であるところを、くノ一が上手く対応していた。


 敗北を嫌う猪武者は、荒ぶる力を暴走させて七色の陰陽術式によって、くノ一に迫った。

 

「何を馬鹿なことを言っているんだ。私が帝国を裏切ることはない!」

「君の母君は帝国に滅ぼされた国の姫じゃないのか?」

「それがどうした? 父上は帝国の皇帝だ」


 ジュリアは、ボクの手を振り払って距離をとる。


 暴走する猪武者に黒い影が伸びて、猪武者の動きを拘束する。影が猪武者の体を縛り付けて、身動きができないように動きを封じた。


「父上を裏切るつもりは、私にはない」

「……そうか。ジュリアがそれを選ぶなら、ボクらの道が重なり合うことはない」

「聞きたいことがあるなら、教えるという約束をしていたな」

「ボクは今、君に聞きたいことはない」

「もうこんな機会は」

「あるさ」

「えっ?」

「ボクとジュリアの運命は繋がっている。そう感じるんだ。必ず、もう一度ジュリアとは出会う。だから、その時に君に聞きたいことを聞かせてもらう」


 暴走した力によって、魔力を使い果たした猪武者はくノ一によって敗北するはずだった。

 

「降参する」


 だが、くノ一の発言によって、勝負は猪武者の勝利となる。それは主従の関係を表しているようで、忠臣は力を示して、主君へ勝利を譲った。


「……バカね。リューク、あなたと過ごした時間は楽しかったわ。多分、私の人生で一番穏やかで、心休まる時間だった。だけど、次に会ったときは敵同士よ」

「どうかな? ボクはもう君と戦いたくないよ。ゲームなら良いけど、本気ではやりたくない。ボクは怠惰でね。君はとても面倒だから、相手にしたくない」

「私も、あなたを敵にするのは嫌ね。面倒そうだから」


 互いに笑みを作る。ジュリアの後ろに人影が現れ、それは巨大な体を持っていた。

 巨人族という言葉が浮かんだが、何も聞かないことにした。


「迎えが来たみたい」

「ジュリア。また」

「ええ、またね。次は戦場で」


 ジュリアは美しい微笑みを残して、巨大な影と共に暗闇に消えていく。


 ボクはジュリアを見送り、新たに現れた人影に視線を向ける。


「本当によろしかったのですか? 行かせても?」

「君は……趣味が悪いと言われたことはないかい?」

「言われたことがありませんね。国では、誰もが私のことを尊敬してくれますので」

「そうか、聖女様に苦言を呈するのは、ボクも面倒だから嫌だね。ただ、君のことは好きになれそうにないよ。ティア聖女様」


 ボクが聖女を視線を向ければ、二人の護衛が武器を持ってこちらを威嚇する。


「どういうつもり?」

「絆の聖騎士ダン。いえ、シン・変態性犬ダンでしたでしょうか? 聖剣の使い手としての実力は知ることができました。人柄も性癖に関しては、我々が関与することではありません。魔王を倒す役目さえしてくれればいいのです」


 聖女とは思えない妖艶な笑みを浮かべるティア。


「ですが、あなたから魔の気を強く感じます。あの大戦以降はさらに強くなった」


 大罪魔法に侵され、さらにダンジョンマスターになったことで魔の気配が強くなったと言うことか?


「そんな方を生かしたまま、聖都に帰るわけにはいきません。魔王になり得る人物として特定させて頂きます」

「そう? それで、ボクを殺すの?」


 ボクの言葉に聖女ティアは、手を挙げて護衛を下がらせる。


「ジュリアさんと同じです。我々の元へいらっしゃいませんか? 我々の元で力をお貸しいただけるのであれば、教会はあなたを敵とは認定しません」


 白く細い手が伸ばされ、慈愛に満ちた瞳に、たわわな胸が暗闇でもわかるほど揺れる。


「君は最初から、意味がわからないね。ボクは君にそこまで気に入られる理由が知りたくなるよ」

「協力者になってくれるのであれば、いくらでもお教えしますよ」


 ボクは深々とため息を吐いて、聖女の顔を見る。


 モニターには、セシリアとクロマが相対して対決を始めるところだった。


 

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