第214話 三年次剣帝杯 1
【実況解説】
【実況】「いよいよ今年度もやってまいりました。学生剣帝杯。昨年は保健室の天使が優勝という大番狂せがありました。今年は誰が優勝するのか、今年は昨年度の有力選手の出場辞退が相次いで、優勝者が読めません」
【解説】「決勝リーグに勝ち上がるほどの生徒たちは誰が優勝してもおかしくない実力を秘めております。観客を満足させる戦いは問題はないでしょう」
【実況】「そうですね。ですが、今年度は三年生が四名も残っています。例年より多めですね」
【解説】「三年生は、大規模魔法実技大戦を終えて、互いがライバルであると分かっておりますからね。それでも残るほどの強者が多かったということでしょう」
【実況】「ですね。何より三人も留学生が残っているのは、皇国の強さを象徴しているようです。それでは、今年の八強として残った者たちには二つ名がつけられます。二つ名と共にご覧くださいませ!」
【戦巫女】メイ・カルラ・キヨイ
【闘争の女戦士】マルリッタ
【荒ぶる侍】ヤマト
【妖艶くノ一】カスミ
【人間磁石】マグネット・コンボイ
【千の顔を持つ者】クロマ
【我儘令嬢】セシリア・コーマン・チリス
【好巨乳性犬】ダン
【解説】「今年も個性豊かなメンツが揃いましたね」
【実況】「そうですね。一年次として残った二人の生徒、マグネット・コンボイ君は子爵家でありながらも、一年次主席合格を果たした期待の新人です。さらに男性なのか、女性なのか、その正体を知る者はいないと言われる。クロマさんは、平民でありながら、その特殊な属性魔法により活躍を見せてくれた今回のダークホース選手ですね」
【解説】「二人の一年選手には期待してしまいます。何よりも、王国民の勝利を願いながらも、皇国の力も見てみたい。面白い大会になりそうですね」
【実況】「それでは決勝リーグ一戦目からご覧ください。【戦巫女】メイ・カルラ・キヨイ選手対【人間磁石】マグネット・コンボイ選手入場です」
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【sideリューク・ヒュガロ・デスクストス】
決勝リーグの出場選手と二つ名を見て、ボクはなんとも言えない気持ちになってしまう。年々ダンの二つ名がおかしな報告に変わっているようにしか感じられない。
「ダーリンは、ホンマによかったん?」
隣にはアカリがいて、ボクが頼んだ仕事をやり終えて報告に来てくれていた。
「ああ、アカリもいいデータが取れたんじゃないのか?」
「ふふん、わかる? ダーリンも悪い人やわ。ウチに皇国の三人に協力して、鎧を完成させろなんて言うやなんて」
「そうか? 向こうの目的を果たしてやったんだ。感謝される話だろ? 変わりに、アカリから手を引く手段を譲歩しただけだぞ」
「あれでメイ皇女が諦めるとは思えへんけど」
「諦めなければ、その時は完全に敵対するだけさ」
「ワイルドやわ! そんなダーリンも好きやで」
「ああ、ボクもだよ。アカリ」
観客席で、アカリとイチャイチャしていると、闘技場の壁に薙刀が突き刺さる。
「私の試合が始まると言うのに、いい身分ですね。デスクストス殿」
突き刺さった薙刀の上に立ったメイ皇女がボクとアカリを見下ろしている。
「メイ皇女、ボクのことなんて気にしていていいの?」
「一年次など相手ではありません。本当はこの大会で、あなたを倒して力を示すつもりでしたのに、雲隠れして逃げるなどつまらないことをしますのね。武装鎧神楽が完成した今、私本来の力がやっとお見せできると言うのに」
「この戦いで見せてもらうよ。アレシダス王立学園一年次主席を甘く見ないで頂きたいです」
ボクは登場したマグネット・コンボイに視線を向ける。三メートルはありそうなアイアンゴーレムと見間違う鉄の鎧を着込んだ巨大な選手が現れる。
「ふん。見掛け倒しでしょ」
メイ皇女は、薙刀を引き抜いて、マグネット・コンボイと対峙する。
「すぐに倒してあげるわ」
「フシュー」
マグネットは、息を吐く姿もロボットのようだ。
「見た目的にも防御は硬そうね。行くわよ!」
メイ皇女が攻撃を仕掛けようとした瞬間、マグネットが先に動いて攻撃を仕掛けた。会場中に響く、アイアンゴーレムの軋む音が、メイ皇女に迫る。
「パージ!」
ゴーレムが弾き飛んだ。
全身の鎧を吹き飛ばして鉄の塊が、メイ皇女へ降り注ぐ。
「舐めるなよ」
薙刀で迫り来る鉄の塊を捌くメイ皇女の動きは、大規模魔法実技大戦見た時よりも洗練されて素早く、無駄な動きが排除されている。これが彼女本来の陰陽術を使った動きなのだろう。
あの鎧が無い状態で、ダンと対等に戦えていた時点で、それなりの実力者であることが窺える。
「子供騙しはそれぐらいかしら?」
鉄の塊を捌き切ったメイ皇女が、薙刀を肩に担いで勝ち誇る。
だが、会場に集まる者たちは、違和感に気づいていた。
捌いたはずの、鉄の塊は、全てメイ皇女を取り囲むように浮いたまま空中で止まっている。
「コンプレッション」
アイアンゴーレムの中から出てきた小柄な男の子が手を握り締めれば、鉄の塊がメイ皇女を圧縮するため集まっていく。
「なっ! やりますね! 竜巻よ!」
メイ皇女を中心に強烈な竜巻が巻き上がり、鉄の塊を吹き飛ばしていく。
「くっ!」
「良い魔法です。ですが、未だ使いきれていない。あなたを甘く見たことは謝ります。ここからは全力で参ります」
嵐は炎を纏い、メイ皇女は真の姿を表す。
「受けとめて見なさい。真、奥義 火鳥風月」
それは嵐の中を飛ぶ火の鳥だった。
王国の人間は属性魔法がなければ、二属性の魔法は使えない。
だが、五行及び陰陽を使いこなす皇国の民は、七つの属性を使えると言う。
鉄は火の鳥に溶かされ、何重にも重ねた鉄の塊によってマグネットは吹き飛ぶだけで致命傷を免れた。
「勝者、メイ・カルラ・キヨイ」
審判の宣言に、ボクは倒れたマグネットへ視線を向けていた。
まだまだ荒削りだが、面白い人材だ。
「アカリ、マグネットに声をかけるようにタシテに言っておいてくれ」
「気に入ったん?」
「ああ、面白い人材だ」
「ふふ、ウチもメイ皇女の鎧の性能は見れたから満足やわ」
「そうか、なら次の試合に行くとしよう」
アレシダス王立学園ですることはほとんど終わりに近づいている。
これからは立身出世パートを生き抜くため、必要な人材の確保だ。
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