第213話 最上位貴族会談

【sideテスタ・ヒュガロ・デスクストス】


 王や宰相など最高権力者だけが出入り出来る謁見の間から繋がる通路は、ダンジョンクリスタルから作られた特殊ガラス張りで、王都を見下ろすことができる。

 廊下を抜けた先には四人がけの円卓のテーブルがあり、給仕をしているユーシュンの従者がお茶を用意していた。


「改めて久しぶりだな。皆、かけてくれ」


 ユーシュンの言葉によって三人が腰を下ろしたところで、我はこの状況について思案する。


 現在、王権派の筆頭は間違いなくユーシュンだ。

 補佐としてガッツが控えているが、こいつに物事を考える頭はない。

 貴族派は、父が地下に潜り暗躍をしており、中立派筆頭であるベルーガ辺境伯も王国の動向を注視していることだろう。


「こうして同級生が集まれたことを喜ばしく思う。セルシルがいないのが寂しくはあるが、今回は自治領の平定に忙しいようだ。チリス領は何かと不便を強いているからな」

「そうですわね」

「おう、うちも親父殿がなんとかしてくれてるぞ」


 先の魔王襲来によって、魔王が襲来したチリス領。

 迷いの森の大規模魔物の被害を受けたマーシャル領。


 二領は当主自ら平定に動いているため、王都にすら来れていない。

 

「テスタ、君が参加してくれたことは嬉しく思うよ。やはり、弟の騎士授与は君も気にかけていたのか?」

「別に、我は貴族として、当然の義務を果たしたに過ぎない」

「そうか、だがこうして集まれるのは、これからいったいどれだけあることか、テスタに聞いておきたい。デスクストス公爵を止めることは無理なのか?」


 ユーシュンはあまり口数が多い方ではない。

 ガッツの方がバカみたいな話をして、我がガッツを嗜め、ユーシュンが微笑むような関係だ。

  

 現在は、ユーシュンが話をしてガッツが黙り、オリガが微笑んでいる。

 

 このような学友同士の馴れ合いをする日が我に来るなど思ってもいなかった。


「無理だな。すでに父上は準備を終えられた。あとは引き金を引くだけで全ての事は動き出す」


 そう、もう遅いのだ。

 全ての準備は終わってしまった。

 リュークが卒業して、カリビアン嬢との結婚を終えた日。全てが始まる。


「起こると分かっていても止められぬか」


 青白い顔をしたユーシュンは、これまで多くことを成そうと無理をしてきたのだろう。あまり良い顔色とは言えない。

 ガッツも、いつも通り元気な様子に見えるが、ここまで口数が少ないのは無理をしてきたのだろう。


「あなたたちは相変わらず強情なのね」


 そんな男性陣を呆れた様子で問いかけるのはオリガだ。従姉弟に当たり、我としては面倒な相手でもある。


「ユーシュン、テスタはテスタなりに動いてくれた。それでもダメだった。受け入れるしかないことよ」

「ああ、分かっている。だが、朕が政治と関係を持てるようになって現状を見て愕然とした事は皆も知ることだろう」


 王は、無能で愚鈍だった。

 我が父上の理想も理解できる。

 このままでは王国に未来はない。

 新たな力ある者が王にならなければ、帝国の脅威や魔王の出現に対処はできない。その役目を父上は宰相の地位で支え続けてきた。


「デスクストス公爵には感謝している。だが、反乱はあまりにも短絡的だ。こちらも抵抗しないわけにはいかない」

「どちらが生き残るにしろ。勝った者は強い王国を作るだけだ」


 我はこれ以上話すことはないと立ち上がることにした。


「テスタ! 朕ではダメなのか? 君が支えるに足る人物にはならぬのか?」


 王族の中で、ユーシュンは唯一優秀な男だ。

 だが、優秀だから王になれるという者ではない。

 平和な世であり、力など求めなくて良い時代であれば、愚鈍な王でも、優秀な王でもどちらでも良かったことだろう。

 

「今の世に必要なのは、強い王だ」


 訪れる動乱は王国内でとどまるものではない。

 王国は手に入れなければならないのだ。

 強さを、それを率いる者を……。


「お前は補佐には向いているかもしれないが、強い王にはなれない。むしろ、もっとも邪魔な存在ですらある」


 我は、歩いてきた道を戻って廊下から王都を見下ろす。


 ユーシュンの優秀さ。

 ガッツの強靭な肉体。

 オリガのカリスマ性。


 全てが羨ましく、妬ましい。


「父亡き後も国を守るために強くならなければならない。我自身が、誰にも負けぬほど強くならなければ」


 廊下の先に待ち受けるエリーナ王女は美しい。年齢を重ねるごとに綺麗になるアイリスに負けぬほどだ。

 弟を選んだと聞いた時は、妬ましくサンドラをめちゃくちゃにしてしまったほどだ。


「テスタ様、ご機嫌麗しゅうございます」

「うむ、エリーナ王女様におかれましては、本日も美しい」


 我は弟への嫉妬の対象であるエリーナ王女を見て、感情が抑えられずに魔力が溢れ出してしまう。

 緑色の魔力がエリーナ王女に届きそうになる。


「テスタ? 何をしているのかしら?」


 我を追ってきたのか、オリガの声で魔力が引き込んでいく。


「エリーナ王女に挨拶をしていただけだ」

「そう、これはエリーナ様、お久しぶりです」

「オリガ様。お久しぶりです」

「積もる話もあるわね。エリーナ王女をお借りしても?」

「ああ、我は先に失礼する」

「テスタ、出来ればあまり無茶なことはしないでほしいわ」

 

 オリガの言葉に、我は答えることなく王城を後にした。

 我自身も感情の歯止めをかけることが、難しくなってきていた。

 

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