第212話 騎士授与式の上位貴族

【sideカリン・シー・カリビアン】


 私は感無量です。


 リュークが、私の用意した鎧を身に纏い、堂々とした足取りで謁見の間へ入ってきました。


 この日が訪れるのを、私がどれだけ待ち望んでいたことか、楽しみで楽しみで仕方ありませんでした。

 リュークは自分のことは決して表に出さず、賞賛を浴びることを嫌っていました。


 ですが、私とアイリス様はリュークの優秀さを他者にも認めてもらいたいと常々思っていたのです。


 そこで、チューシンさんに相談したところ、信者の方々が協力してくれることになりました。


 それだけではありません。


 マイド大商店のモースキー会頭や、ネズールパークの人々までリュークの活躍を讃えて投票してくれたのです。


 もちろん、不正ではありません。


 ちゃんと活躍したと思う人に入れてほしいことを伝えた上で、リュークの活躍がどのようなものだったのか説明しただけです。


 それぐらいは許されますよね?


 最後まで、堂々とした雰囲気のまま、リュークが立ち去っていきます。立ち上がって一瞬だけ私を見てくれました。嬉しいです。


 今日のために、ドレスを新調しておいて良かったです。


 この場に集まっている貴族たちは、誰もがリュークを見に来ています。


 もちろん、聖剣に選ばれし絆の聖騎士ダン君も注目を集めています。ですが、それぞれの派閥の人間にとって、リュークの動向を注視しているのは明白です。


 この後はリュークと会食でもしたい所ですが、これだけのメンツが一同に集まることは珍しいので、すぐに退出もできませんね。


「テスタ、ガッツ、ベルーガ、すまないが話があるので奥へ来てくれ」

「「「はっ!」」」


 ユーシュン様は、王太子として正式に王位継承権を受けられ此度の騎士授与式も任されて、これからの王国は王権派と貴族派の微妙な綱渡りが続くことでしょうね。

 中立派のベルーガ辺境伯様一家は、普段は皇国との国境と迷いの森からの魔物流出を阻止するために、守護を任されているので、あまり王都には来られません。

 今回出席なされたのも珍しいことです。


「カリンはん。ちょっとええか?」

「ノーラ、あなたがこのような場に来るなんて珍しいわね」


 ノーラとは同級生ではあるけれど、ほとんど面識はありません。

 

「そうやねぇ〜リュークを見にちょっと来てしもうたわ。やっぱりリュークはカッコええねぇ」


 そういえば、リュークがノーラも仲間に加わったと言っていたけど、こうして話をするのは初めてね。


「リュークは素敵ね」

「カリンが羨ましいわ。リュークが一番はカリンだって言ってはったから、わっちもそれは守ります。今後、何かあればわっちはカリンの味方をするよって、それだけは覚えておいておくなまし」


 あまりにも意外な宣言に、私は一瞬何を言われたのか分からなかった。


「あなたはそれでいいの?」

「リュークが悲しむことはしとうありません」


 これは本当に意外だ。

 アレシダス王立学園に通っていた頃のノーラは、どこか危ない印象で、近づく者は全て傷つけていた

 それなのに理知的に話をして、私の味方をしてくれるとまで言われるとは、リュークは一体ノーラに何をしたのだろう。


「そうね。どうか同じ人を愛する者として協力しましょう」


 私が手を差し出すと、ノーラがそっと手を握ってくれました。


「嬉しいわ。カリンは私が今読んどる本の登場人物に似てるんよ」

「登場人物?」

「そうどす。ビックマザーってタイトルやねんけど。大勢の女性を抱える王様の正室をされている人の話でね。大奥と言われる女性たちを集めた場所で、頂点に立って女性たちを従えるんよ。ねっ?似てるやろ?」


 嬉しそうに言ってくれるのはありがたいのですが、私はそれを想像してドッと疲れが湧いてきました。

 リュークを抜きにして、女性たちと会食をしたことがあるけれど、あれは本当に疲れてしまう。


 ふと、この場に集まった人たちに視線を向ければ、上位貴族だけでなく、子爵や男爵など、派閥ごとに固まって話をしている。

 

 この場で話すべき相手は他にいないように思える。


 テスタ様がユーシュン様に呼ばれたので、貴族派はアクージ家とブフ家の元へ貴族たちが集まって話をしている。

 私のところへ来る者は数名いるけれど、それほど多くはない。ノーラのところに挨拶に来た貴族は皆無だった。色々な噂が飛び交うノーラに近づく者はいない。


「ノーラ、良ければこの後一緒に会食でもいかが?」

「お誘い嬉しいわ〜ぜひ、行かせてもらいます」


 リュークを今から捕まえるのは無理ね。

 シロップでも誘って、アイリス様と四人で食事でもしましょう。


「他にも誘いたい人がいるんだけどいいかしら?」

「ええよ。わっちは知り合いがおらんさかい。カリンについて行くよって」

「そう、ならいきましょう」


 私もそれほど友人は多くない。

 ずっと、アイリス様とリュークの側にいたので、従者をしてくれた数名しか友人がいないのです。

 同い歳のノーラが友人になってくれるのは嬉しい。


「それにしてもリュークは、強くて頭がええのは知ってたけど、軍の指揮も取れるし、戦略も考えられるんやね」

「そうなのです! リュークは何をやっても優秀で」


 ノーラがリュークを誉めてくれるので、私はこれまのでの功績をついついノーラに話しすぎてしまいました。

 ですが、リュークの話をノーラも嬉しそうに聞いてくれるので、どうやら私たちは共通の話題で仲良くなれそうです。

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