第208話 大規模魔法実技大戦 終

 デススライムの登場によって状況は一変する。


 一年次、二年次の生徒では相手にできない強力なモンスターに、三年次が協力して時間を稼ぐ。三年次であってもレベルをカンストしている者でも、属性魔法を持つ者しか対応はできない。それでもまだ不十分な相手だ。

 レベル三十の巨大スライムの時には、魔法・物理攻撃に対して耐性を持っていた。レベルカンストして、ダンジョンから全ての異物を排除させるためにつかわされた魔物がそう簡単に倒せるはずがない。


「リューク、君は行かないのか?」

「必要ないでしょ。勇者と聖女、それにヒロインが揃っていて、お助けキャラも豊富だしね」

「たまに、君の話している意味がわからない時があるよ」

「そう? ボクはみんなと話していると楽しいから好きだよ」

「ハァ、私は負けた。聞きたいことがあるなら聞いてくれ。ただ、戦いは終わった。今日は疲れたから、避難させてもらうよ」

「君こそ戦わないの? 軍略も素晴らしいと思うけど、本来の君は戦うことの方が得意だよね?」

「ここで力を見せるほど、私も馬鹿ではないよ」

「ボクも同じだよ。モニターで見られている状況では力を使うことはできない」


 ボクはグローレン・リサーチ先生が設置したカメラに視線を向ける。厄介な物を作ってくれた。今後、彼の立場は様々な立場から注目を集めることだろう。

 ジュリアに別れを告げて、その場を離れるために歩き始める。

 リベラは戦闘に参加してしまったので、ボクはアカリ、ミリル、クウが隠れている場所へ赴いて彼女たちと合流する。


「ミリル、頂上に行こうと思うんだけど、ついてきてくれる?」

「もちろんです」

「えっ? どこに行くん?」

「アカリ、クウもおいで」

「ええけど」

「わかりました」


 ボクは四人で森ダンジョンの頂上へ向かってバルニャンに乗って移動する。

 シーラスやダンたちが、大規模なボス戦を繰り広げられている光景を空から見ながら、ボクの意識は頂上へ向かう。

 多少の犠牲は出るかもしれないが、ボクとしてはどうでもいい。


 たどり着いたダンジョンコアの姿を見て、懐かしさを感じる。

 

 ここに来るのは二年ぶりだ。


「バルニャン」


 ボクは乗ってきたバルニャンをダンジョンコアへと近づける。


「すまないが、ダンジョンボスを鎮めてくれるかい? ダンジョンボスを倒してしまうと資源が取れる期間がまた伸びてしまうんだ」

「(^O^)/」


 バルニャンは、願いを聞いてダンジョンコアへ手を当てる。

 何をしているのか、ボクにはわからない。

 ただ、森ダンジョンのダンジョンコアから取り出されたレアメタルとの相性は悪くないはずだ。ダンジョンの調整ができるなんていう話は聞いたこともない。


 聖剣の解析もできたバルニャンなら、もしかしたらダンジョンを解析して調整ができるかもしれない。


「出来ました(^O^)/」

「えっ?」


 それは初めて聞くバルニャンの声。


「バルニャン、話せるようになったのか?」

「はい、マスター。私とダンジョンコアをリンクさせました。これよりダンジョンの改変が可能になりました。今後は会話も可能です。リューク・ヒュガロ・デスクストス様をダンジョンマスターとして登録をしました。今後は私に命令を下されば、ダンジョンマスターとしてダンジョンへ命令をすることが可能になります」


 はっ? 


 ボクはバルニャンに告げられた言葉に思考する。

 確かに大人向けゲームは自由度が高くやり込み要素がたくさんあった。

 ダンが闇堕ちして、やりたい放題するダークバージョンも存在はしていたが、ダンジョンマスターモードなど聞いたことがない。


「えー! 何それ! ダンジョンマスターってなんなん? 初めて聞いたで!」

「そうですね。私も初めて聞きました。ダンジョン研究家の本を読んでも、ダンジョンマスターなどという話は聞いたことがありません」


 アカリとミリルも驚いた様子で、バルニャンの発言を初耳だと言っている。

 商人として、情報豊富なアカリ。

 知識では誰にも負けないミリル。

 そんな二人でも知らないなら、この世界で知る者は本当に少ないはずだ。


「ふぅ、とにかく今はデススライムを消滅させて戦いを終わらせよう。できるなら、ダンジョンに魔力として再吸収をしてくれたら嬉しい」

「可能です。それではデススライムを再吸収して、モンスター排出を一旦停止します」

「ああ、お願い。それとダンジョンコアを隠すためにダミーを作ることはできる?」

「可能です。ただ、ダンジョンコアはダンジョンとリンクしているため外気との接触が必要です」

「なるほどね。密閉はできないってことか、なら入り口の位置を変えよう。天井へ入り口を設定して、普通の人が歩いて入れないようにしてくれ」

「かしこまりました」


 ボス戦を終わらせて、ダンジョンコアの偽装を進めた。

 命令に従ったダンジョンコアから設置されている洞窟から入り口がなくなり、夜空が見えている。


「う〜ん、ここはいい隠れ家にできそうだね。空間を広げて、ベッドとかも置ける?」

「可能です」


 なんだか楽しくなってきた。ダンジョンが集めた魔力、ダンジョンマジックポイント《DMP》を使ってダンジョンを操作できる。

 ダンジョンツクール系のゲームはしたことがないけど、やってみると面白いな。それにボクの思う通りの部屋が作り出せる。


「あっ、あの、リューク様?」

「うん? ごめん、ミリル。楽しくなって君たちのことを忘れていたよ。今日はこの辺にして帰ろうか。バルニャンも離れられるの?」

「可能です」

「そうか。アカリ、ミリル、クウ、ここで見たことは他言無用でお願い。いいね?」

「カリン姉さん、シロップ姉さんにも?」

「その二人にはボクから言うよ。みんなからは言わないで」

「ウチは言わへん。約束する。商売人は情報を売るから口は固いで」

「私もリューク様からのご命令であれば絶対に言いません」

「言いません」


 三人が約束してくれたので、ボクはバルに乗って全員でダンジョンコア用に作った部屋から脱出する。


 空から見下ろす森ダンジョンは、デススライムを討伐した賑わいでお祭り騒ぎだった。


「綺麗やな」

「あの騒ぎの中に下ろすのは嫌だから、このまま帰ろうか。少し夜の散歩をしてさ」

「いいですね」

「最高やん!」


 ボクは三人を連れて夜の散歩へ向かった。

 

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