第207話 大規模魔法実技大戦 11

 ボクに攻撃をしようとするジュリアへ向かって、止めるように手を挙げる。


「なんだ? 負けを認めるのか?」

「いいや、勝利条件は今のところ五分だ。白チームは回復師に続いて勇者が倒れた。黒チームは砦が破壊されて、台座がないから宝が奪われたも同然。王を撃てば白チームの勝ち」

「リュークとそちらの元帥を倒して、速やかに王を見つけて倒す」


 この話をしている最中も時間が惜しいのだろう。

 ジリジリとジュリアが距離を詰めてくる。


「指揮官勢揃いで来たのはいい考えだと思うよ」


 ボクは最後の仕掛けを発動する。


 白チームの砦だった場所に火柱が上がり、砦が瓦解する。

 爆炎と巨大な火柱に、森ダンジョン全体が明るくなり、ジュリアたちの意識が白チームの陣地に向けられる。


「台座を奪うぐらいなら、砦を潰した方が早い。同じ考えだったとは驚いたよ」


 最終手段として用意していた仕掛けをここで使ったのは、彼らの意識を奪うためだけじゃない。


「バルニャン!」


 ボクとリベラを連れて、バルニャンが飛び上がる。


「それはもう見たよ。リューク」


 そう言ってジュリアの横にいたルビーがバルニャンを掴んで、ボクらを地面へと引っ張り下ろす、風の力を利用されて、飛び上がることもできない。

 

「リュークを逃さないにゃ!」

「やるな!」


 ボクの目の前にジュリアが立つ。


「さぁ決着をつけよう。DARCはリュークを倒して、残された王を白チームが見つければ、終わりよ」

「どうかな?」

「まだ仕掛けがあるとでも?」

「いや、仕掛けはさっきの砦を破壊するので使い切った」

「なら、余計な時間稼ぎをしているだけね。リュークの羽を」


 ジュリアの命令にルビーがボクにとどめを刺す。

 戦うことを禁止されているボクは無抵抗でダメージを受け入れた。

 軍師リュークは死んだ。


「王を探すんだ!」


『ウオォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!』


 それは誰もが予想していなかったタイミングでのモンスター出現。

 大量のモンスターが生徒たちが交戦する戦場へ押し寄せてくる。


「なっ! 何が起きているの?!」

「何を驚くことがあるんだい? あれはモンスターパニックだ。ダンジョンが活動を再開すると、ダンジョンは異物を取り除くために貯まっていた魔力を放出して、モンスターが溢れ出す。二年間も貯めていた魔力を放出するんだ、いくらレベル2のダンジョンだと言っても半端じゃない量のモンスターが押し寄せてくるぞ」


 ボクの説明に全員が慌て始める。

 羽を奪われた生徒は命の危機もあり、モニターを見ている学園側、王国側もこの状況に慌てて救援に向かってくることだろう。


「お前はわかっていたのか?」

「何を?」

「ダンジョンが再開をして混乱が生まれるということだ」

「どうだろうね? これだけの生徒がダンジョン内で魔力を撃ちまくって、ダンジョンを荒らせばダンジョンコアが起きるかなって思ったぐらいだよ」


 実際にその予兆は朝から確認は取れていた。

 あとはきっかけを与えてやれば、自ずと……結果は予測できた。


「そろそろだな」

「何を言っているの?」


 ボクはサーチとオートスリープを発動する。


「なっ、何を?」

「軍師リュークは死んだ。そして、今この場は緊急事態。戦うことを禁じられていたルール外の存在であるボクは堂々と魔法が使える」


 迫るモンスターをボクが魔法で眠らせていく。

 ルールに則り、選手には一切魔法攻撃が発動しないように配慮するのは面倒だけど、それでも勝負に関係している以上は守るしかない。

 ルビーやリンシャンは慣れた様子で、眠ったモンスターを討伐していく。エリーナやアンナも二人を見習って参加する。


 タシテ君は状況を見て、どこかに行ってしまった。

 彼は彼の仕事をしているのだろう。

 混戦する戦場では、ナターシャと皇国一行が指揮をとってモンスターの脅威に対応している。

 

「俺もいるぞ!」


 羽を奪われたダンが、砦を破壊した瓦礫から体を起こして現れる。

 さすがは絆の聖騎士殿、傷は負っているが元気な姿をしている、ダンの登場に対して聖女ティアが現れて、ダンに回復を施す。

 勇者と聖女が戦場に加わり、ハヤセがダンの元へ駆けつけたことで、光の刃がモンスターを殲滅していく。


「モンスターパニックは、どうにか対処できそうだな」


 ダンの光の刃。

 ボクのオートスリープ。


 三年次の者たちが下級生を守り、自然に隊列が出来上がっていく。

 

 戦いは数分ほど続いていた。


 鳴り響くブザーの音と、雪崩込んでくる教師陣。


「現在をもちまして、DARCの勝敗が決しました。勝者黒チーム」


 それはジュリアにとっては無慈悲に鳴り響く敗北通知。


「どうして?」

「ジュリアは、エリーナを連れて敵陣に来てくれた」

「あっ!」


 ジュリアもルールを思い出してくれたようだ。

 宝は、台座から一定時間外すだけで奪ったことになる。

 王も、一定時間敵陣へ連行すれば、羽は自然に消滅する。


「これが狙いか?!」

「本当はエリーナや君ごと砦を瓦解させて一日目で終わりにしてもよかったんだけどね。それじゃ面白くないだろ? ジュリアがどんな戦略を披露してくれるのか楽しませてもらったから、君の聞きたい情報は教えるつもりだよ」

「私は貴様の掌の上で踊らされていたというわけか……、初めてだ。ここまで屈辱的で完全な敗北をしたのは」


 ジュリアはもっと悔しがるかと思っていたけど、意外にも清々しい笑顔で握手を求めてきた。


「教えてほしい」

「何?」

「白チームには裏切り者がいたはずだ。回復師を奪う黒チームの潜入者を隠し通す役目を持った者だ」

「ああ、そういうこと。だけどハズレ」

「えっ?」

「潜在的には知らないけど、今回チームを別れた時にボクが気持ちを伝えられる人には裏工作を一切禁じて正面から戦ったよ」


 今回は、そうじゃないと面白くないからね。


「ジュリアは敵陣で孤立して全員から武器を向けられることすらあったんだよ。それじゃボクも楽しめないしね。エリーナやタシテ君にはボクを楽しませる敵として真面目に戦ってもらうように伝えてあるよ」

「ならどうやって隠れていたんだ?」


 裏切り者がいるとするならば、ボクは頂上付近へと視線を向けた。

 この森ダンジョンをボクは散歩コースとして誰よりも熟知している。


「この森はボクの庭なんだ」

「どういう意味だ?」


 どう説明しようか考えていると、モンスターパニックに変化が起きる。


「どうやら、あっちも大詰めだね」


 ボクの言葉にジュリアが視線を追う。

 そこには真っ黒でドロドロとしたスライムが出現していた。


「ボスモンスター!」

「ああ、それもこれだけの人数を相手にするために、レベルをカンストさせているレアボスモンスターのデススライムさんだね」


 本当に見れば見るほど気持ち悪い。

 スライムは、有名なゲームやアニメのように可愛い方がいいのにな。


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