第206話 大規模魔法実技大戦 10
【実況解説】
【実況】「いよいよ後半戦の幕開けとなる五日目の午前放送がやってまいりました。お仕事に行かれる皆様おはようございます。四日目に大規模な仕掛けから、白チームの回復役を奪取した黒チームの手際は鮮やかの一言に尽きますね」
【解説】「黒チームが圧倒的な優位に立ちましたね」
【実況】「黒チームの軍師リューク・ヒュガロ・デスクストス選手は、ここまでの三日間を使って、この一撃を狙っていたんですね」
【解説】「そうですね。与えられた一ヶ月という期間で、互いに連携を強め、作戦の準備をするために与えられていた時間を有効活用しましたね。ここまで大掛かりな仕掛けを使った戦術を見せてもらえるとは思っていませんでした」
【実況】「白チームはこの劣勢をどんな方法で打破するのか?!」
【解説】「戦略が重要になるので、軍師の力量が問われますね。地の利を生かした黒チームか、それとも白チームが全てを打開する一手を打てるのか?本日が天王山になることでしょう」
【実況】「目が離せない五日目のスタートです。どうぞ、ご覧ください!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【sideリューク】
森ダンジョンの空気は澄んでいて、モーニングルーティンを行っていても心地いい。
ふと、視線を向ければ角の生えた兎がこちらを見ており、ボクは目的のもう一つが達成されたことに満足する。
「こちらにいましたのね」
「聖女殿。何かご用ですか?」
「聖女殿などと、他人行儀はやめてください。聖女アイリス様はあなたのお姉様。同じ聖女として、私もあなたとは姉弟のようにしたいと思っているのです」
聖女ティアが笑えば、大抵の人間は好感を持つだろう。特に男ならば守りたくなるような衝動に駆られるはずだ。
「そうですか、ボクとアイリス姉さんはそれほど仲の良い姉弟ではないので、そんなふうに思わなくていいですよ」
「あら、つれないのですね。ふふ、ですが学園とは面白いところですね。このような戦いを繰り広げながらも、聖地のように空気は澄み切っていて心地よいです」
聖女が伸びをすれば、バルンと音がしそうなほど胸が弾む。制服を着ていても目立つほどの大きさにボクは視線を逸らして歩き始める。
「どうかされましたか?」
「あなたは何を考えているのかわからないので苦手です」
「あら、これでも世界のために頑張っているつもりですよ。そう見えませんか?」
勇者として活躍するダンの相方として来たはずなのに、ボクに絡んでくる意味がわからない。
「絆の聖騎士殿の近くにいなくていいんですか?」
「心配してくださるんですか? でも、大丈夫ですよ。いくら聖女と勇者が対の存在といっても、ずっと側にいる必要はありません。むしろ、ハヤセさんにとっては、私がダン様の側にいるのはあまりよろしくない状況に思います」
鋭い聖女にボクは深々とため息を吐く。
「それでは脱落者が集まる場所に行くか、復活ができないので、フィールドを出てゆっくりされてはどうですか?」
「そうしたいと思っていたのですが、少しだけ不穏な気配を感じます。まだ、私がこの場にいた方がいいと思いますので」
「そうですか、まぁ好きにしてください。ボクは砦に戻りますよ」
「それでは一緒に朝食と行きましょう」
後についてくる聖女にやる気が出ないボクはもう一度ため息を吐いた
午前中は意外にも膠着状態になった。
数が少なくなり復活もできない。
無謀な特攻をかけてくることも考えたが、攻勢に出ることなくじっくりと防御を固めた。
残された時間が二日半になり、このまま進めば黒チームの勝利になる。
だけど、それで終わるジュリアだとは思えない。
「どんな策を披露してくれるのか楽しみで仕方ないね」
うとうとしながら本を読んでいると、リベラが駆け込んでくる。
「敵が全兵力を突入して突撃をかけてきました」
「来たね」
それは夕食を終えたばかりの眠くなる時間。
夜襲というには少し早く、森ダンジョンは陽が暮れるのが早いのを利用した奇襲作戦だ。
「ミリルとアカリは?」
「すでに隠れてもらっています」
「そうか、ならナターシャには防備を固めさせて、それにメイ皇女には応戦を」
「命令済みです」
「そう、なら今はもうないかな?」
「大丈夫でしょうか? 相手も死に物狂いで迫ってきます」
「待ち構えた獲物が、わざわざ口の中へ飛び込んできてくれたんだ。食い尽くしてやろう。念のためにクウには二人の護衛をさせておいて」
「かしこまりました」
さて、どんな手で来るのか……奇襲のために夜を選ぶのは常套手段だ。
だが、それで終わるほど、ジュリアは簡単な女性ではない。
「リューク様!空から奇襲です!」
「空から?一体どうやって」
ボクが驚くほどの奇襲に砦からの窓から空へと視線を向ける。そこには、ダンが光る剣をふりあげて、こちらの砦に振り下ろすところだった。
「チッ!リベラ、こっちへ」
まさかの自分の必殺技を使って単独襲撃を仕掛けてくるとは、意外すぎるだろ。
しかも砦を破壊してしまうほどの威力を放ったダンの成長が素晴らしい。
「リューク様!」
「やってくれる」
「笑われておりますよ」
「そうかな?そうだね。そうなんだろうな。くく、あはははは!!!」
面白い!面白すぎる。
全員での一点突破による背水の陣かと思えば、さらにダン一人を犠牲にした強襲からの砦破壊。
ジュリア!やってくれる!
「リューク。決着をつけにきた」
リンシャン、エリーナ、タシテ、ルビー、アンナ。
そして、ジュリアがボクを見ている。
「全員で乗り込んできたのか?」
「決戦の時だ」
ジュリアが手を振り上げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます