第205話 大規模魔法実技大戦 9

【side白チーム】


 聖女ティアが黒チームによって討伐された知らせが白チームに届いたのは、勇者ダンが退却して陣地に戻った時だった。 


「なんだと! 回復師が倒された?!」


 ダンの叫びにリンシャンや、エリーナが悲痛な顔を見せる。

 重要な知らせだけは、伝達されることになっており、回復師撃破は両陣営が知ることになる。


「まさか、敵の兵士がこちらに潜んでいるとは思いしなかったわ。作戦を考えている私の責任ね」

「それは違う。指揮をとっているのは私だ」


 ジュリアとリンシャンが責任を感じていた。


「二人とも、今は自分を責めている場合ではないわ。誰かの責任を追求したとろこで意味がないの、全員がそれぞれの責任を果たしているのだから。それにティアさんの護衛はちゃんと置いていた。それでも敵は護衛を突破できる人員を割いて奪いにきたのだから、今回は白チーム全員がリュークにしてやれられたと思うしかないわ」


 王であるエリーナの言葉に、責任を感じていた二人は顔を引き締める。


「今は、当面の問題と五日目に向けて何をするべきか考える時よ」

「ふぅ、さすがはアレシダス王国の王女ね。正しい意見ね。冷静になれたわ。今は責任問題を考えるよりも今後の方針を、確かにそうだわ」


 ジュリがエリーナを認め、冷静に今後のことを考え始める。

 リンシャンもエリーナを見て頷き、その姿は互いに冷静に今後を考えるように気持ちを切り替えられていた。


「今日、脱落したのは何人?」


 ジュリの質問に後ろで控えていたタシテが立ち上がる。


「聖女を入れて、18名ほどです」


 タシテの報告に指揮官たちは顔を暗くする。


「結構脱落していたのね」

「これもリュークがわかっていたからこそだろ。攻勢を強めてきたということだ」


 エリーナは落胆して、リンシャンは悔しそうな顔を見せる。


「流石に強いな」

「ええ、思っていた以上にね」


 ジュリは冷静に状況を分析して、エリーナはリュークの強さを思い知る。


「だけど、ここで焦って奇策に走るのは愚の骨頂だぞ」

「それでは正攻法で攻める?」

「いいえ、防御を固めます」


 リンシャンが意見を言えば、エリーナが質問をして、ジュリアが答える。

 三人の指揮官はそれぞれの役割を全うしていた。


「防御を取るのか?」


 ダンの質問にジュリが頷く。


「ええ、そうよ。敵は、こちらが巣穴から飛び出してくるのを口を開けて待っているだけでいい。相手は死なないゾンビ兵。こちらは一度で死んでしまう普通の兵士」


 集まっていた者たちが全員落胆した顔を見せる。


「今重要なのは、相手よりも先を読めるのか」

「先を読む?」


 ジュリの発言にダンが聞き返す。


「ええ、三年間を過ごしたあなたたちならリュークの性格もわかるんじゃないかしら?」

「どういう意味かしら?」

「リュークがやる作戦を予想して、こちらはその上を行く」


 ジュリの発言によって、全員でリュークについて議論をすることになった。


「リュークの作戦か、俺はそういうのはわからないから全くだな。性格は真面目だと思うぞ」

「性格ですわよね? う〜ん、面倒くさがりとか?」

「ああ、それはあるな。基本的に本を読んでいるか、寝ているばかりだ」

「部屋ではダラシないにゃ。メイドさんがなんでもしてくれるから、自分のことをしたがらないにゃ」


 エリーナ、リンシャン、ルビーとリュークのダメ出しをするように発言する。


「気配りが出来て色々考えるのが好きだと思うっす」


 ハヤセが見かねてリュークの良いところを発言する。

 三人は少し気を取り直した様子で……


「まぁ、そうね。案外優しいわね」

「そうだな。人の世話を焼くのが好きだと思うぞ」

「本当に困った時は頼りになるにゃ」


 ダメ出しをしていた三人も、リュークのいいところを言い出した。

 ただ、この場で発言していない最後の一人に、全員の視線が向けられる。


「私も言うのですか?」


 タシテの問いかけに全員が頷く。

 最もリュークの側で、女性には話さないようなことまで話をしてそうなタシテの存在は、ヒロインたちにとって特別なことが聞けそうで興味をそそられる。


「そうですね。リューク様は多くを語られる方ではありません。ですが、大切なことや、重要なことがあるときは必ずそこにおられます。それが必要なことだと本能的にご理解されているように感じます」


 タシテの発言に、女性陣が大きく頷く。

 ダンだけは首を傾げていた。


「う〜ん、なんとも掴みどころがない男だ。面倒くさがりなのに、重要なところは抑えている? ダラシないのに真面目で気遣いができるタイプ? ちょっとどんな相手なのか理解し辛い。だけど、一つだけわかったことがある」


 全員の意見を聞いていたジュリが結論を出す。


「リュークは、一気にこちらを攻めることが出来る状況でも、面倒なことを嫌うため攻勢をかけてこない。こちらの行動を見てから行動をするタイプだということだ。だから防御を固めれば、何か企んでいると勝手に判断するはずだ。そこで元帥殿」

「なんだ?」

「今後は、一進一退の攻防が続く、王と元帥にも動いてもらう必要が出てきた」

「ああ、そのつもりだ。なんでも言ってくれ」


 集まった全員の視線がジュリへと向けられる。


「こちらの兵士を減らすことなく、相手の指揮官を倒していく。全兵士は防備を固め、少数精鋭で相手陣地に切り込み、指揮官の撃破。これに全てをかけます。それにはタイミングが命です」


 ジュリの案に全員が頷き、唾を飲み込み。


「ですが、この場ではお伝えしません。私が任せられると思った人に遊撃隊を任せるつもりです。よろしいですね?」

 

 ジュリが最終的な結論を口にしなかったことで、互いに顔を見合わせる。

 リンシャンが代表してジュリに問いかける。


「それはどうしてこの場では言わないんだ?」

「裏切り者の存在を疑っているからです」

「裏切り者?」

「ええ。回復師を捉えるために、敵が潜伏するためには、こちらの協力者が必要だと考えます。ですが、それが誰なのか今の私ではわかりません。ですから、この場で全てを言うことは控えさせて頂きます。ただ作戦の内容を知ったとしても、誰が攻めてくるのか、そしていつ来るのかは謎のままにしておいた方がいいと判断しました」


 不満そうな顔をする者もいるが、今反論を口にすれば自分こそが裏切り者だと言っているような気がして、誰も声を上げることができなかった。


「よろしいですね?」

「承知した」


 再度の問いかけにたいして、リンシャンはジュリへ承諾を口にした。

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