第204話 大規模魔法実技大戦 8

【sideカスミ】


 私の名前はカスミ。

 皇国で忍びとして厳しい訓練を受けてきた。

 訓練では血を吐き、泥水を啜り、自分だけの技を手に入れるための訓練をした。オボロやユズキも私と同じ訓練を受けて、特別な忍術を手に入れた。

 ジジ様は五大老の一人として妖怪のように強い。そんなジジ様に認められて、やっと皇族へ仕えることが許された。私は皇女の護衛として王国に行くことになった。


 そこで運命的な出会いをする。


「あなたがリューク・ヒュガロ・デスクストスですね」


 皇女様と共にやってきた教室で、不機嫌そうにする彼は全てが完璧だった。

 所作、雰囲気、見た目、実力。

 あの辛かった忍術の修行など霞んでしまうほどの圧倒的なレベル差。


 雷鳴に打たれた。

 

 この方こそ、私が使えるべき主だ。

 これからは心の中で殿と呼ぼう。


 メイ皇女とは幼馴染。

 今まで、感謝などしたことはなかった。

 私は初めてメイ皇女に感謝した。

 殿に巡り合わせてくれたこと、人生の生きる意味が出来た。


 メイ皇女は戦闘が大好きなので、少しおつむが足りない時がある。性格は悪い子ではない。皇女を巧く使ってくれる人に出会えれば絶対に活躍できる。


 二日目、三日目、メイ皇女は一日目の「汚名挽回するわよ」と言って頑張っていた。多分、汚名は返上だと思う。

 神出鬼没の敵を倒して、黒チームで一番敵を倒した。

 三日目の晩、私は殿からお呼びがかかった。


「明日は正念場だ。いつも以上に派手に戦ってほしい」

「派手に?」

「ああ、多くの者たちの注目を集めてほしいんだ」

「わかった。どこに向かえば?」

「それはココロが導いてくれるはずだ」

「承知」


 毎日報告に行くのは楽しい。殿に頼られている。

 

「敵と遭遇したら脱落者になってもいいから、全力で倒すことに集中して欲しい」

「承知。あなたのために全力で敵を倒す。だから褒美が欲しい」

「褒美?」


 活躍に対して褒賞をもらうのは皇国の習わし。


「ふむ、わかった。今回の功労者には褒美を与えよう。ボクの名で黒チーム内に伝達してくれ」

「よろしいのですか?」

「構わないさ。ただ、学生であるボクができる物で、しかも活躍に応じてだと伝えてくれ」

「かしこまりました」


 将軍リベラは強い。それに賢い。

 私とは違う力を持って、殿を支えている。

 羨ましい。


「まだ何かあるのか?」

「ない。失礼」


 殿からの報告を皇国のみんなに伝えて、四日目はメイ皇女が今までの鬱憤を晴らすように雄叫びを上げて暴れ回っていた。


「我こそは皇国戦巫女なり!勇気あるものはかかって来い!」


 目立って暴れ回るから、それをフォローするように私たちも頑張って戦う。

 いつの間にか敵がいなくなったと思ったら、地響きがして周りの木が全て勝手に倒れていく。


「なっ、なんて大掛かりな仕掛けなんですか?!」


 目の前で驚くメイ皇女。

 そして、姿を見せたのは白チームの勇者ダンだ。

 開かれたフィールドに白黒両者の勇者が揃う。


「勇者ダン!」

「メイ皇女!」


 それは互いが互いを好敵手として認めるように武器を持ち、魔法を放って戦い始める。戦を好む者同士が惹かれ合うように力をぶつけ合う。


「露払いをするぞ」

「はっ!」

 

 ヤマト隊長の指示に従って、勇者ダンの部隊を相手取る。


「くノ一カスミ。参る」

「二年次、実技試験トップマルリッタだ。受けてたとう」


 一合打ち合えばわかる。


「強い」

「あなたも強いぞ」


 王国は人材が豊富。強い者にたくさん出会う。

 それでも、彼女たちはまだ学生で彼らよりも強い人がたくさんいる。王国は恐ろしい国。


「必ず倒してみせる。相打ちでも」

「やれるものならやってみな」


 殿の命令は絶対。相打ちでも倒す。


「ぐっ、本当にやるじゃないか。羽があるから攻勢に出るやつは多いけど。あんたは一番過激だな」

「まだ。忍術、影分身」


 私は影を操ることができる。影を使って、自分の分身を作り出せる。


「なっ!」

「あなたは確かに強い。だけど、数人の私を相手に戦える?」


 力は相手が上。だけど、速さはこちらが上。

 他の兵士はこちらが倒せている。

 この子と、ダンだけ。


「舐めるなよ!力よ!」


 さらにパワーを強めて強引に私の影分身を吹き飛ばしていく。それでも本命は私自身。


「言った。相打ちでも倒すって」

「本当に相打ちとはね」


 彼女の剣が私を捉え、私のクナイが彼女の首を刈る。

 もしも、互いに魔導具の鎧を着ていなければ確実に死んでいる一撃だった。


「まだ、戦場は続くんだ。どこかでリベンジさせてもらうよ」

「もう、あなたとはやりたくない」


 私は自分の羽が全て消滅したことを確認して、メイ皇女と勇者ダンの戦いに目を向ける。


「我が奥義、花鳥風月。ご覧あれ」


 メイ皇女が奥義を出すのは珍しい。

 それだけの相手だということ。

 勇者ダンはメイ皇女の奥義に対して、側に控えていた彼女らしき女性の手を握る。戦場では意味が分からない行動に思える。

 だけど、ダンの周りに恐ろしいほどの闘気と魔力が満ちていく。


「なっ!」

「悪いな。皇女様。あんたが奥義を出すのと同じタイミングで放たせてもらう。絆の聖剣よ、俺に力を」


 ダンから巨大な光の刃がメイ皇女へ向かって飛んでいく。それはなす術なくメイ皇女を飲み込んでしまう。


 勇者対決はダンが勝利を収め、戦場の状況を見て、ダンと彼女?が立ち去っていく。


「今度は完全に負けましたわ」

「うん。ダンは強かった」

「ええ。絆の聖騎士の力を味わいました。ですが、次に繋げましょう」


 メイ皇女には、戦闘を好む以外にもう一つの顔がある。

 

「分析して、次はそう簡単に負けません」


 戦闘の研究と、武器として使う物の研究者としての顔だ。悔しい気持ちを抱えながらも乗り越えていける力を持つ。


「戻ろう」


 殿の元へ。

 マルリッタという副官らしき女性を倒すことが出来た。褒美は私がもらうんだ!

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