第203話 大規模魔法実技大戦 7
【実況解説】
【実況】「はい。本日もやってまいりました。大規模魔法実技大戦DARC。一日目は互いの勇者が脱落すると言う衝撃のスタートでした」
【解説】「そうですね。激しい戦闘から始まりましたが、二日目、三日目は静観を決め込む両陣営の軍師もまた、静かな戦いを繰り広げているのでしょう」
【実況】「そうですね。共に策略を巡らせ。観客としては、大規模な戦いを期待してしまいます。ですが、初日の落とし穴の仕掛けは素晴らしかったですね」
【解説】「魔法の仕掛けと、落とし穴の仕掛けの合わせ技でしたね」
【実況】「古典的に見えて、学生同士とは思えない大胆なやりとりでした。ここまで高度な応酬が見られるとは思いもしませんでした」
【解説】「一日目は互いの力を示しながらも、後一手及ばないかった感がありますからね。互いに水面下で探りを入れながらも相手の出方を伺い。互いに決着をつけるタイミングを図っているのかもしれませんね」
【実況】「なるほどですね。それでは本日は、四日目の大規模魔法実技大戦です。どのような動きをするのか興味深いですね」
【解説】「一週間という区切りがある以上。悠長に相手の出方を見ていられる時間はそろそろ少なくなってきますね」
【実況】「それでは、選手たちの四日目の様子をご覧ください!」
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【sideリューク】
戦場は小競り合いが続いている。
アカリが用意してくれた仕掛けは落とし穴以外に後二つあるが、使うタイミングではなかった。
白チームは、ダンとルビーを遊撃隊として使い。ゲリラ戦法を主軸として使ってくる。これは本来のゲームの戦法の一つで、主人公ダンが敵の指揮官を各個撃破することで相手を弱体化させる戦法だ。
本来は、ユーシュンやガッツが苦戦した際に、ダンが自主的に行うようになるのだが、ジュリアは戦術の天才だけあり、早々にこの方法をとってきた。
三年次実技の主席と次席が部隊をそれぞれで率いることでこちらの陣営では対応できる者が限られる。皇国組が相手をしなければ抑えきれない。
戦闘においては皇国組は他の貴族たちよりも優れていて、ダンやルビーとも戦える強さを持つ。
「戦力的には、同格。されど戦術があちらが上だね」
ジュリアが選んだゲリラ戦は、集団戦に不慣れな王国貴族たちを翻弄してみせた。王国は一対一の対人戦か、魔物を相手にするチーム戦は優れているが、小規模の集団戦を不得手にしている節がある。
その点、皇国はメイ皇女が突出して攻勢に出るが、ヤマトとくの一たちがフォローに入って連携を取っている。
深追いしないのは、ココロが占いを使って危険を知らせているようだ。
「ナターシャさんが、防戦してくれているので、なんとか持ち堪えています」
「ふむ。今日までの三日間、リベラは何が人の注目を集めていると思う?」
「注目ですか?」
「うん。みんな何を見たくてこの大きなフィールドを見ているんだろうね」
「それは、リューク様やジュリさんの戦術では?」
「違うと思うよ。そういうのは成功した時は面白いけど。それまでは何をしているのかわからないからね。見ていても面白くない。考察はしても最初だけなんだよ」
「それでは、戦場でしょうか?」
「そうだね。それも一つの戦場の華と言えるだろうね」
ボクの答えにリベラは考えるように戦場を見る。
自分がモニターを見ていれば、どこに目が行くのか。
「申し訳ありません。わかりません」
「人の顔だよ。表情や心情と言ってもいい」
「顔ですか?」
「ああ、例えば戦場で守備をしている者たちは、どこから敵がやってくるのか常に警戒した表情で引き締まった緊張した顔をしている。ナターシャがそうだね」
リベラが視線を向ければ、いつもは飄々とフワフワしているナターシャが緊張で顔を強張らせている。
「ゲリラ戦を挑む者。戦場で敗者となり悲しむ者。勝って笑顔になる者。それぞれの表情を見て戦場外の者たちは共感する。そして、戦場にいる者たちは、自分たちの状況に視野を狭くしていく」
「共感ですか? 視野狭窄?」
「ああ、人はね。自分の意思でしたことでなければ罪悪感を持たないんだ。戦場で敵を倒す姿を見ても酷いと思っても、自分が悪いとは思わない」
「それはそうです。自分は何もしていないのですから」
リベラの答えにボクは頷き、そして笑う。
「だからこそ、戦う者の表情から悲壮感、必死さ、高揚、喜び、歓喜、感情を感じ取り一緒に共感するんだ。まるで自分がそこにいるような感覚で」
「表情に共感するために注目する。ですが、それがなんだというんですか?」
「うん。じゃ、今言った中で人はどんな気持ちに感情移入をしやすいかな?」
「それはもちろん歓喜や高揚では?」
「いいや、必死さだよ」
「必死さ? よくわかりません」
喜びや歓喜は一時的には酔いしれるかもしれない。
だけど、敗者がいれば敗者にも共感してしまう。
だけど、どちらも必死に頑張る姿は見惚れてしまう。
「人は、必死に戦う者を応援したくなる。そして、必死に戦う者を馬鹿にしたくなるんだ」
「矛盾していますね」
「ああ、だがそれだけ注目を集めるということだ。この戦場で必死に戦っている勇者ダンは戦っては負ける。挑んでは醜態を晒す。だけど、頑張る姿に人は注目する。それはこちらのメイ皇女も同じだ」
派手に魔法を放つダン。
大きな声をあげて、敵を倒すメイ皇女。
戦場のどこにいるのか一目瞭然な二人は一日目こそぶつかり合ったが、それ以降は互いの敵を葬りあっている。モニターは派手に戦う二人に注目して、たまに指揮官の僕ら。そして脱落者を移すことだろう。
「つまり、何が言いたのでしょうか?」
「人の目には死角ができるということだよ」
「はい?」
「人は見たい物しか見ない。派手で自分に共感が持てて、理解できる物に目がいく。それは大多数が同じように同じ物を見るんだ。面白いようにね。さぁ四日目は派手な仕掛けから始めよう」
ボクはダンやメイ皇女に集まる人々の注目を逆手に取り、彼らの近くで仕掛けを発動させる。
「派手に注目を集めてくれ」
ボクが指を鳴らすと、二人の間に植えられていた木が一斉に薙ぎ倒されて、二人の視線がぶつかり合う。
二度目の勇者同士がかち合えば、始まるのは戦闘に他ならない。
「注目を集め、人の視線を向けさせる。それをした時に何が起きるのですか?」
「スキが生まれる」
「えっ?」
「今、フィールドのど真ん中に大きな戦場が出来上がった。鉢合わせしたなら戦いは行われる。そして、相手の軍師も裏を描くために派手に陽動していた駒が浮き出てしまう。全てが無駄になる」
ダンに隠れて、姿を隠していたルビーの姿を発見する。
こちらを強襲しようとしていたのだろう。
ナターシャが防戦の指揮を出して退却させる。
「さて、ボクが打った一手はどうなるかな?」
「何をされたのですか?」
「もうすぐわかるよ。おっ、どうやら成功したみたいだね」
「えっ?」
モニターを見ている者たち以外でも、派手な音が戦場に響き。
数日間も平和な日々を過ごせば油断が生まれる。
戦いは戦場で起きる事であり、自分の陣地は安全だと。
何を狙い、何を求めるのか、それは互いによって違うはずだ。
「いらっしゃい」
「どうしてあなたが?!」
「こちらの方に捕まってしまいましたので」
「クウ。よくやった」
ボクは今まで身を隠していたクウの頭を撫でてやる。
そして、連れてきた相手を出迎える。
「ようこそ、聖女ティア様。あなたを真っ先に排除するのが目的でした」
この戦いで最も厄介な駒は回復士だ。
彼らがいなければ兵士を蘇えらせることができない。
「致し方ありませんね。十分にこちらの要望は叶えて頂きましたので、甘んじてお受けいたしましょう」
クウは彼女の羽を全て奪い取った。
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あとがき
どうも作者のイコです。
四月に入りご挨拶しようと思っていましたが、数日過ぎていました。
本日の話で二百話到達です。
この話を書き出して、半年が経ちました。
たくさんの方にお付き合い頂き本当にありがとうございます。
コメントでも、お祝いのコメントありがとうございます!!!
いつも皆様からのコメントは楽しく読ませて頂いておりますので。
全員に返したいと思っていますが、見落としがあれば申し訳ありません。
三月中に一先ず書籍化第一段階を終えることができました。
これからもどんどん加速していくので、進捗状況を毎月一度はお知らせしたいと思います。
どうぞこれからも、【あく怠】をよろしくお願いします(๑>◡<๑)
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