第202話 大規模魔法実技大戦 6

 一日目の終了を知らせるブザーが森フィールドに鳴り響く。


「どういうことですか!!!」


 怒声と共に砦に乗り込んできたのは、メイ皇女だった。

 顔は泥だらけになり、髪や服が焼けて煤けている。

 ボクはリベラと打ち合わせをしていたので、二人とも驚いた顔をしてしまう。


「うん? 脱落者になったのか? しかも、髪が少し焼けているな。女性なんだから髪は大切にしろよ」

「何を! 私を罠にハメましたわね!」

「はっ?」


 ボクはメイ皇女と一緒に入ってきた。皇国一行に目を向ける。

 全員が申し訳なさそうな顔でこちらを見て頭を下げている。

 リベラも頭を抱えてため息を吐いた。

 明らかに、一人だけ作戦を聞いていなかった様子だ。事前に伝えていた巨大落とし穴の仕掛けに落ちたことを意味している。


「ハァ、同じ留学生なのに随分な違いだな」


 落とし穴に落ちた白チームは三十名ほどで全て脱落者になった。

 黒チームは十名ほどだった。彼らは作戦通り相手を道連れにしてくれる役目をしてくれた。

 

 ただ、相手もさすがはジュリアだ。

 その後の昼休憩以降にゲリラ戦で二十名がやられて一日目は痛み分けになった。本当に優秀な人だ。


「ヤマト!」

「はっ!」

「勇者殿の面倒はお前の役目だ。お前が説明しろ。ボクは面倒だ」

「かしこまりました。お手数をおかけしました」


 状況を理解しているヤマトが、今回は素直にボクのいうことを聞いてくれる。


「いい。それとカスミといったな。お前は残って報告をしろ」

「はい」


 ボクが全く相手にせずに他の皇国一行に話をふったことで、メイ皇女の顔が見る見る赤くなっていく。


「バカにしているのですか!!!」


 怒りを爆発させたメイ皇女。

 ボクが面倒な奴だと、どう相手にしようか考えていると……


ーーーパンッ!


 小気味いい頬を張る音が部屋に響く。


「メイお姉ちゃんが悪い!」


 普段ホワホワしているココロが、感情を表してメイ皇女を叱った。

 優しいココロの行動に全員が唖然として、頬を張られたメイ皇女自身も何が起きたのか理解できないようだ。


「リューク様は、ちゃんと作戦の説明をしてくれてたよ。私はちゃんと聞いてたよ。落とし穴のことを黒チームなら知ってるよ! メイお姉ちゃんは、作戦も聞かないで、自分で勝手に戦って、勝てばいいって言って罠にハマったんだよ! 知っているはずの罠にハマって、人に当たるのはメイお姉ちゃんが悪い!」


 ここまでハッキリとココロが話しているのを見るのは初めてだ。

 メイ皇女を叱りつけたココロに、ボクは心の中で拍手を送る。


「皇女様、私も知ってた。というか、皇女も知っていてやっていると思ってた」


 ココロを援護したのは、くノ一のカスミだった。

 メイ皇女は他の皇国一行に目を向けて、全員が頷いて同意を示す。

 やっと自分がしていることが非常識であることを理解した様子で、また顔を赤くしてメイ皇女が立ち去ろうと背中を向ける。


「ダメ!」


 そんなメイ皇女を止めたのはココロだった。


「ココロ?」

「謝らないとダメ。メイお姉ちゃんが間違えた。それを謝らないとダメ。メイお姉ちゃんは立派な人でしょ? 悪い時ちゃんと謝らないとダメ」

「……」


 背を向けていたメイ皇女がボクを見る。

 屈辱に歪む顔で、深々と頭を下げる。


「わっ、私が間違っておりましたわ。申し訳ありません」


 ボクに頭を下げるメイ皇女。

 鼻息荒く腕を組んでメイ皇女が謝ったことを見届けたココロは「フンス」と息を吐く。ちゃんと謝ったメイ皇女の隣に来て、同じように頭を下げる。

 

「メイお姉ちゃんが悪いことをしてすみませんでした」

「ああ、謝罪を受け入れる。今日はもう戦場はない。ゆっくり休んでくれ」


 ボクが謝罪を受け入れたことで、メイ皇女はすぐさま頭を上げて立ち去っていった。ココロとヤマトがもう一度頭を下げてから部屋を出ていく。くノ一たちも、カスミを残して部屋を出た。


「お前は行かなくていいのか?」

「報告する」

「ああ、そうだったな」


 ボクはことの成り行きを見ていたリベラと共に深々と息を吐く。

 面倒なやつの相手をするのは本当に疲れる。


「もう一度」

「うん?」

「お姫様がご迷惑をおかけしました。もしも、不快に感じたなら私の身を好きにしてくれてもいい。だから、許してほしい」


 そう言ってくノ一衣装を脱ぎ始めるカスミ。

 ボクはリベラに目配せをして止めさせる。


「カスミさん。リューク様は怒っておりませんので、身を捧げての謝罪は不要です」

「そう?」

「ああ、恋人以外の者を相手にする気はない。ボクは覇麗夢王と呼ばれているらしいが、ボクとしては愛している者しか触れたくはない」


 そう言ってリベラを抱き寄せて膝の上へと乗せる。


「彼女のようにな」

「リューク様」


 嫌がる素振りを見せないで、頬を染めるリベラは可愛い。


「わかった。愛されるように頑張る」

「はっ?」

「なんでもない。報告」

「ああ」


 よくわからないくノ一カスミによれば、向こうの大将はダンだったそうだ。

 メイと共に穴に落ちて脱落者になったようだ。

 落ちた貴族たちは作戦通り、敵を倒すことに専念してくれて、一日目はジュリアの機転がなければ完全に勝利していたな。


「ありがとう。もう下がっていいぞ」

「わかった。また呼んでほしい。報告のために」

「うん? ああ、わかった。カスミだったな。今後は前線の報告はお前に頼む」

「ありがとう」


 カスミが立ち去っていく姿を見て、言葉数は少ないが、素直に動いてくれるのはありがたいと思えた。


「リューク様」

「うん?」

「あまり、多くの女性を誘惑してはダメですよ」


 そう言ってリベラがキスをしてくれる。

 よくわからないけど、今日もリベラは可愛い。

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