第201話 大規模魔法実技大戦 5 

【sideメイ】


 王ではないことは不服ですが、勇者とは英雄を意味します。皇国の戦巫女である私に相応しい称号ですね。

 黒チーム五十名を仕切るなど、他愛ないこと。


「メイお姉ちゃん。リューク様のお話聞いてた?」


 可愛いココロが、下級生代表として参加することを聞いた時は、反対しました。ですが、こうして側にいると幸せね。


「ふん、あのような者の話など聞く必要はありません。我々の力で相手を圧倒してしまえばいいのです」


 そうです。我々皇国の力があれば、王国の貴族や平民など相手になりません。所詮は学生なのですから。


「メイ皇女、今回はチームで動くのだ。隊列を乱すことはしてはいけない」


 珍しくヤマト隊長が私に注意をしました。

 私を子供扱いしているのでしょうか?


「そんなことはわかっています。ヤマト隊長。あなたでも怖いと思うことがあるのかしら?」

「そういう意味ではない。軍師殿が仕掛けを施していると言っていただろ」

「所詮は小細工に過ぎません。今は目の前の敵に集中しましょう」


 私たちの前には、我々の隊を超える人数が絆の聖騎士ダンに率いられてやってきています。ダンの実力を見る良い機会です。


「オボロ、ユヅキ、ココロの護衛をお願いしますね。ヤマト隊長、カスミ、行きますわよ!」


 今回は鎧に武装鎧神楽の一部を使用して、陰陽術を練り込んでいます。

 リュークと会った時のような無様な真似は致しません。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【sideダン】


 この戦いでは、今までの俺とは違う姿を見せる必要がある。

 

 一年次では、剣帝杯ベスト四。

 二年次では、剣帝杯準優勝。


 今年こそ、剣帝杯で優勝して騎士になるんだ。

 そのためにも自分の力を試し、証明しておきたい。


 指揮官の一人である勇者に選ばれたことは俺にとって喜ばしいことだ。

 

「軍師殿。一日目は、どのような作戦で行くのだ?」

「そうね。まずは互いの力試しをするでしょうね。模擬戦で行った時のように、八割で攻撃に出て今回は相手の王か、魔法石を狙うわ。私が遊撃隊の指揮をしたいのだけど」

「了解した。エリーナと私は残ろう、ルビーを軍師殿の護衛としてつける。ダンに前線の指揮を任せるが良いか?」

「ええ。勇者殿に任せるわ」


 軍師のジュリは凄い人だ。留学生と交流をあまり持てていなかった。だが、彼女からは学ぶべきことがたくさんある。試験が終われば話しかけてみよう。


 騎士になれば、指揮を取る機会も増える。戦術や戦略は授業では習っているが、机上の空論として疎かにしてきた。戦場で上手く行くはずがないと思っていたからだ。だが、戦略シミュレーションでは一度もジュリさんに勝てなかった。


 一人で戦うことと、大勢で戦う違いを思い知らされた。一人の力ではリュークに勝てない。

 それはもうわかった。だったら、自分よりも優れた者の力を借りてリュークに勝つ。


「ダン、聞いていたな。部隊の指揮を頼むぞ」

「ああ。任せてくれ。軍師殿にやられた手でリュークを負かせてやるよ。相手を出し抜くのが楽しみだ」

「油断するなよ。リュークは私たちほど単純にハマると思うな」

「もちろんだ。俺は囮で本命はジュリさんたちだからな」

「うむ、わかっているならいい。あまり深追いするなよ」

「わかってる。せいぜい囮として、派手に戦ってやるよ」


 俺は大勢の部隊を指揮して敵陣へと正面から激突をかけた。これは陽動に過ぎない。本命はジュリさんの別動隊が魔法石を奪ってくれるはずなんだ。


「私の相手はあなたなのですね、ダン。私は指揮官で勇者称号を得ました」

「メイさん。俺もです。勇者ダンとして戦います」


 黒チームの指揮官はメイ皇女だ。皇国の戦巫女。実技講習で手合わせしているところを見たことがあるが、武器として使う薙刀は厄介な武器だった。


「相手にとって不足なし!」

「いざ!」


 武器をぶつけ合えば、相手の力量がわかる。

 一合目は互角。

 パワーでは俺が優勢だが、戦い慣れない得物の長さと熟練度がメイ皇女の方が高い。


「ふっ、やりますね」

「メイさんも強い!」


 互いに指揮官であることを忘れて一人の武士もののふとして戦いを繰り広げる。

 メイさんの護衛らしき騎士が何か言っているが、今の俺たちを邪魔できるはずがない。

 この戦場の勝敗を決めるのは、指揮官を務める二人の戦いなんだ。

 

「我が鎧にここまで喰らい付くとはやりますね」

「そちらこそ俺の聖剣と打ち合えるのは、クラスメイトの数人だけですよ」


 互いにヒートアップして、闘気を高め合っていく。


 それぞれが技を繰り出すために力を貯めて、一気に戦場を駆ける。

 タメが長いと指摘された技は、接近して力を凝縮することで、タメの時間を短縮することに成功した。


「行くぞ!」


 互いの技がぶつかり合う瞬間、目の前からメイ皇女が消える。


「なっ!」

「えっ!」


 メイ皇女の驚いた声と、俺が出した間抜けな声は同時だった。

 

「大成功です〜」


 間延びした聞き慣れた声に、顔をあげるとナターシャが上からのぞいていた。


「ナターシャ!」

「ダン先輩。お久しぶりです〜。ふふ、今回も私の勝ちですね〜」

「えっ?」


 ナターシャに言われて辺りを見れば、大きな穴に落ちた仲間たちの姿が見える。明らかにこちらの兵士の方が多い。数名、黒チームの者も含まれている。 


「なっ、何を!」

「やっちゃってください!」


 ナターシャの合図で巨大な火球が穴に落ちた者たちへと降り注ぐ。

 魔法障壁を張るが、いつまでも持たない。

 黒チームの兵士は火球が降り注ぐ中で武器を振るい魔法障壁を張った者たちを倒していく。


「なっ!」

「なんですの、これは!」


 一人だけ、俺の横で叫び声を上げたのはメイ皇女だった。


「えっ?」

「あ〜お間抜けさんがいましたか〜それは自業自得なのです〜。これはリューク様の指示に通りなので〜自己処理してくださ〜い」


 ナターシャが姿を消して、穴に落ちた兵士が全員羽を失うまで火球が降り注いだ。


 俺はメイ皇女と共に一日目の脱落者になった。

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