第200話 大規模魔法実技大戦 4

【実況解説】


【実況】「学生剣帝杯を前に我々の出番が来ることになるとは、職業冥利に尽きますね」

【解説】「そうですね。今回は一対一の学生剣帝杯とは違い。チーム戦です。百名の小隊同士のぶつかり合いです。戦略や戦術だけでなく、個人の能力が試される総合力が勝負を分けますね」

【実況】「はい! このようなルールをよく学園側も考えましたね。それでは選手の入場です! 互いの指揮官については、現在は秘密にされており、倒された場合は発表されるようです」

【解説】「指揮官は三年生に限定されているので、互いに意表を突く指揮官構成をしていることでしょうね」

【実況】「おおっと! 選手の入場だ! 今回は衣装でも魅せてくれます。互いの部隊を証明するために魔導具の着用が義務付けられております。白チームは美しきエリーナ王女様が率いる白銀の羽を模した魔導具を装備されております。また、黒チームは漆黒の羽を模した魔導具が装備されております」

【解説】「ダメージを受けると、あの羽が抜け落ちて、完全に羽がなくなれば脱落となるそうです」

【実況】「なるほど! 見ていて分かりやすいですね」

【解説】「羽は受けたダメージの威力によって、抜ける量が決まっているようですね。ダメージ値によっては一撃で脱落する者も出てくるかも知れませんね」

【実況】「どのような戦いを見せてくれるのか?! 乞うご期待くださいです!それでは《DARC》、一日目の模様をご覧ください!」


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【sideリューク】


 背中に生えた漆黒の羽を見て、バルニャンに生やした羽を思い出す。

 グローレン・リサーチ先生作で、バルニャンの羽を見て連想を浮かべたそうなので仕方ない。


 ふと、ゲームに登場するジュリの戦い方を思い出す。

 彼女の戦いは苛烈で美しかった。


「リューク様、全員配置につきました」

「うん。皇国の方は?」

「あちらはココロさんが上手くまとめてくれたようです」

「そう、後でお礼をしないとね。このゲームは本気で遊びたいからね。邪魔はされたくないんだ」

「リューク様が本気になると? それほどの相手なのですか?」

「うん。彼女は隠しているけど。この戦いが終わって決着次第でみんなにも話をしようと思っているよ」

「決着次第なのですね」

「うん。もしかしたら言ったらダメって言われるかも知れないからね」

「リューク様は楽しそうですね」


 リベラは呆れた様子で息を吐き、ボクはバルニャンに乗って隣に設置された魔導具に目を向ける。

 青色に光る魔法石は、専用の台座か動かすと赤く光り出して一定時間を過ぎると奪われた扱いになる。


「こんな道具をわざわざ考えるなんてね」

「作戦はどうされるのですか?」

「そうだね。多分、向こうは一日目で決着をつけようとしてくるんじゃないかな?」

「全員突撃というやつですか?」

「うん。まぁ本当に百人全員で、来ると宝を守れないと思って数名は残すかもね」

「本当に来るのでしょうか?」

「さぁ、一ヶ月の間に準備した仕掛けをボクらは使うだけだよ」

「それではそのように」


 リベラがボクから離れて下級生達に指示を出す。

 代わりにアカリとミリルが現れる。


「ウチの用意した仕掛けを使うん?」

「ああ、アカリが作ってくれた一つだけね。仕掛けに引っ掛かるのかわからないけどね」

「どういう仕掛けなんですか?」

「それは見てのお楽しみやで。ミリルは回復師やろ? ここにいて大丈夫なん?」

「はい。むしろ、リューク様が私はなるべくリューク様のそばにいるようにと」


 ボクの側に控える二人が姦しく話をする横で、ボクは学園が作った砦から戦場へと目を向ける。

 戦場では、我らが勇者殿に任命されたメイ皇女が敵を迎えようとしていた。


「うわっ! 凄い数やな。一気に攻め込んできてるやん」

「ああ、彼女の攻めは苛烈で迅速なんだ。だからこそ、一度目は絶対に防がなければならない」


 本当は裏をとることも考えていたけど。

 来るものを迎え撃つ方が労力をかけなくてもいいからね。


「それにこっちには皇国の屈強な兵士と、三年次まで上り詰めた貴族達がいるからね。多少のことでは負けないでしょ」


 下で戦っているのは五十名であり、指揮官を務めるのは勇者メイである。皇国の皇女という肩書は、王国の貴族でも無視できるものではなく、貴族が多い黒チームの指揮官に最適だった。

 そして、残りの兵士である下級生で構成された部隊は、元帥を務めるリベラの指示で罠の発動に出向いていた。

 それぞれに配慮した指揮官を任命することで、戦いやすくなる。

 

「イケー! ウチの子供達」


 メイ皇女が率いる五十名の兵士に、各個撃破を試みる白チームに対して左右から挟撃するように弓矢が撃ち込まれる。

 アカリが作り出したボーガンは、精度も高く命中時の威力を上げてくれる。


「魔法よりも威力は落ちるが素早く、誰でも放てるのがいいね」


 今回の鎧も、ボーガンも来たる戦いでは有効的な効果を表してくれる。

 ボクは、それを先んじて有効活用しているだけだ。


「ふむ。何かおかしいね。アカリ、ミリル、少し騒がしくなるから隠れてて」

「分かりました」

「はいな」


 二人は指示通りに身を隠してもらって、台座の前にはボク一人になる。

 戦闘は続いているが、明らかに戦闘をしている者たちの指揮がバラバラに見える。


「よっと、侵入完了にゃ」

「やぁ、ルビー。いらっしゃい」

「私だけじゃないにゃ」


 裏側から、現れたのは白チームの精鋭部隊だ。

 ルビーとジュリアが指揮する五名が砦に現れる。


「お邪魔するよ」

「軍師殿が自ら来られるとは、驚きだね」

「戦えないからこそ、自由に動けると思ってね」

「自分で動くなんて面倒なことはボクはしたくないね」

「だから君はここにいるのかい? そのせいで倒されると分かっていても?」

「倒される? ボクが? それは無理だよ。だって、ボクは空を飛んで逃げるからね」


 彼らがやってきた窓とは逆からボクはバルニャンに乗って魔法石ごと飛び上がった。


「なるほど。君にはそういう逃げ方も出来たのか、盲点だったよ」

「すまないね。フィールドの外には出ていないから反則だとは言わないでくれ」

「ああ、もちろん、一日目で決着がつくのもつまらないからね。今日は引くとしよう」


 ボクはジュリアの判断に感心する。

 一定時間台座に戻さなければ相手の所有になる。


 だが、一定時間を過ぎれば戦闘を終えたこちらの兵士が戻ってくる。

 何よりも、仕掛けがなくてボクが逃げたわけではないことまで分かっているようだ。


 ジュリアの判断に、ルビーも驚いている様子だったが、少しだけ目配せをしてきたので、ジュリアが本当に撤退を宣言したことが理解できた。


「一日目は両者痛み分けと言ったところだね」


 互いに三十名ほどの脱落者を出して、顔合わせをしただけで昼時の休憩へ入った。 

 


 

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