第197話 大規模魔法実技大戦 1

【sideシーラス】


 職員会議の場で、私の発言によってざわめく教師たちの姿に、私は本当に大丈夫なのだろうかと不安に思う。


 これは、彼からの提案であり私は本当に大丈夫なのか心配になりながらも彼からの提案内容を伝えた。


「シーラス先生。どうして今年だけは変更をするのでしょうか?」

「はい。一つは二年前から休眠状態にある森ダンジョンの有効的な活用方法を考えたためです」

「有効的な活用方法ですか?」

「はい。広大な土地が何も使われないまま、放置されているのは勿体無いと考えました。いつダンジョンが活性化を開始するのかわかりませんが、ここ数ヶ月の間に活動を再開する気配はありません。ですが、生徒たちによる魔法を使用することで魔素を集めることができれば、森ダンジョンの活性化につながるのかもしれないと研究者である私は考えました」


 若い先生たちは、年長者である私の発言にいいんじゃないかと賛同を示した。


 年配の先生たちは、いつもとは違う提案に難色を示している。

 

「いいんじゃないですか?ボクが作った魔導モニターが使えますので、森ダンジョンに設置すれば、生徒たちの様子を見ることもできると思いますよ」


 そういって賛同を示したグローレン・リサーチに、若い先生たちが次々に賛同していく。


 年配の先生たちは、学園長に判断を委ねると口にして、最終的な判断は学園長へと委ねられた。


「ふぉふぉふぉ、シーラス先生の提案、実に面白いのじゃ。若者はええのぅ。これまで成績を競い合っていた者同士がチームのために協力をしていく。より強者へ挑戦するためのハンデなども丁度良いと考えられるのじゃ。もう少し詰めたいところもあるように思うが、概ね賛同しますのじゃ」


 学園長の許可が降りたことで、私はほっと胸を撫で下ろす。


「じゃが、よくこのようなことを思い付きましたな?」

「教師である皆様は、王国全体が不穏な雰囲気になりつつあることはご理解して頂けると思います」


 私が口にした内容に沈黙が流れる。

 わかっていても、平民は貴族の行動一つで生活が一変してしまう。

 それだけ貴族たちの力は強い。

 教師たちにとっても国の情勢は見て見ぬふりはできない出来事なのだ。


「そのため、今までのような魔法の試験をして、実技試験をしてと授業として行うのではなく、より実践的な形式で彼らには有事の備えをさせてあげたいのです」

 

 私の願いのような言葉に、古参の先生たちも納得したように見える。


「より実践的な形式が必要な世は悲しくはあるが、彼らが生き残るためを思ってと言うことじゃな。ふぉふぉふぉ、シーラス先生が生徒のことを思ってくれておるのは嬉しい限りじゃ。それでは三年生たちがより実践的に。且つそれぞれが力を発揮できるようにルールを決めるとするかの」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【DARC】


 魔法試験、実技試験をより実践的な形で発案された試験DARC。

 最低限のルールとして、相手を死に至らしめた者は王国の法に則り処罰されるものとする。


・フィールドは森ダンジョンに拠点を設けて、一週間の戦闘を繰り広げられる。

・指揮官として、五人の役職を持つ者たちを各々のチームで決める。

 指揮官は倒されると回復できない。

 (王、元帥、軍師、勇者、回復師)それぞれの役職には意味を持つ。

王、チームの大将として旗印の役目を持つ。

元帥、百名全員へ指示を出す総指揮官。

軍師、戦闘に参加できない代わりに、作戦立案を発案する魔道具を持つ。

回復師、回復場の管理。回復術師が倒されると兵士は回復できなくなる。

勇者、特殊な鎧を着ておりダメージを引き受ける量を増やすことができる。(唯一兵士と同じように生き返ることができる)


・戦闘期間中は、専用魔導防具を着用してもらう。フィールド内で受けたダメージを一定値請け負ってくれる。一定値のダメージを負うと兵士は脱落者となり、森ダンジョンから速やに各チームの回復場に移動する。

 回復師が生きている場合、脱落から一日を経過すると復活できる。

・チームは黒、白、二チームに分かれ、学園側が用意した兵士(二年生、一年生)を加えた百名の小隊で競い合う。

・朝食、昼食、夕食時は休戦時間を六十分取り、この間は戦闘を行うのを禁止する。もしも戦闘を行なった場合は両者脱落者となる。専用魔道具にダメージを受けた場合は、戦闘を行なったのか確認される。

・諜報、交渉、同盟、反逆、裏切りは全てバレなければ問題ないものとする。但し、教師たちによるモニターによる監視が行われている。

・勝利条件は、キングとクラウンを奪取したチームの勝利とする。

 キング奪取とは、王に選ばれた者を自身の拠点に連れていくのか、脱落者としてダメージを一定値与えれば奪取したと判断される。

 クラウンとは、それぞれのチームに渡された魔導具を指す。魔道具は台座に置かれており、一定数台座から移動させると奪取されたと判断される。

 但し、どちらも一週間の期間中、取り戻して自陣、台座に戻せば取り戻したと判断される。

 一週間以内に、どちらのチームも二つを奪取を成功しない場合は、指揮官の生き残りの数に寄って勝敗を決める。

・作戦立案期間として、準備期間を一ヶ月を与える。


 これは三年次だけでなく、今後の若者たちが少しでも困難から生き残ることを想定した試験であり、戦うことよりも生き残る方法を学んで欲しい。そんな教師たちの願いが込められた試験である。

 

 実践に近い形式で部隊を指揮する者。

 部隊の中で戦うことを経験する者。

 

 上級生として、下級生を上手く使うことで、実践を想定した部隊指揮を学ぶ試験内容になっている。

 準備期間として一ヶ月が設けられたのは、学園側も初めての試みであり、生徒たちへの説明と、作戦を考える時間を与えるためだった。

 

 また、学園側は一週間を過ごす二チームが拠点とする砦を十個建設した。

 

 二つのチームの隊長を務める五人は申告制として、対戦が始まる前にそれぞれの担当教師に提出して学園長預かりとなる。

 

 隊長に選ばれた者は、戦略戦術、拠点の作成、森ダンジョンの地図作成、チームになる者たちの能力把握など、やることは多岐に渡る。

 また、下級生からは立候補者と、学園の推薦者による百名が選ばれて、各チームに振り分けられる。


 アレシダス王立学園初の試みに学園内だけでなく、王都全体の注目を集めることになる。それは王権派と貴族派、さらに転校生を巻き込んだ代理戦争のようにも見えたからだ。

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