第198話 大規模魔法実技大戦 2

 試験内容の変更が伝えられたことで、生徒たちは慌ただしく準備期間に入っていた。

 

 新たな試験DARCとは、どんなルールなのか、自分には何ができるのか? 生徒同士でも話題が上がっていた。

 それは三年次だけでなく、一年次、二年次の者たちにも話題が尽きない。

 彼らにとっては来年、再来年には自分たちも行うかもしれない競技なのだ。

 下級生にとっては、経験が積めるということで希望者が殺到した。

 

 危険を伴う競技でもあるので、ある程度のレベルに達している者たちで区切られることになった。

 

 二年次からは、修学旅行にて良い成績を出した七十名。

 一年次からは、草原ダンジョンで上位成績を出した三十名。


 計百名が学園側から選出されて、振り分けられた。


 ボクは、振り分けられた生徒名簿を見て隣に座るリベラへと渡した。


「どう思われますか?」


 三年次の百名も二チームへ再編がなされた。

 それは学園側が考えたバランスが込められているのはわかるのだが、少しばかりの悪意を感じてしまう。


「そうだね。向こうのメンツは豪華だね」

「ふふ、そうですね」


 互いのチームメンバーの名簿が渡されており、黒チームのリーダーはボク。

 そして、白チームのリーダーはエリーナということになっている。

 本当に貴族派と王権派を争わせればという図式に見えるのは、学園長のイタズラだろうか? 

 シーラスには彼だけはボクの手元に置いて欲しいと言ったんだけどね。


「エリーナ様、リンシャン様、タシテ君、ダンくん、ルビー、アンナさん。転校生の聖女様、留学生のジュリさん」

「下級生にセシリアと従者、それにハヤセにマルリッタも向こうの陣営だ。色々と考えられているような編成だね」

「こちら側の人材は、リューク様、ミリル、アカリ、皇国御一行、ナターシャさん、バルニャン、クウさん、私でしょうか」


 黒チームと白チームの比率の割合がおかしく見えるが、ボクとしてはこれでも勝てるとは思う。


「まぁ能力的には三年次に上がってきた者たちは、それなりの強さを持つだろ。どんな人材がいるのか見直さないとね」

「はい。キングはリューク様でいいとして、あとはどうされますか?」

「うん? ボクはキングをやらないよ」

「えっ? ですが、リーダーはリューク様ですよ?」

「リーダーだからキングにならないといけないというルールではないからね。その辺は追々伝えるよ」


 食事を終えて、ボクは席を立つ。


「今日は予定が入っているから、先に失礼するね」

「はい。私はミリルとアカリに話してきます。二人にも指揮官をしてもらうことになると思うので」

「うん、よろしくね。これから色々大変になるけど、一ヶ月間よろしく頼むね」

「承知いたしました」


 ボクはリベラと別れて、オリエンタルレストランの個室へと入っていく。


「やぁ、リュー。君からお呼びがかかるなんて珍しいね」

「ジュリも一人で店に入れるようになってよかったね」

「いつの話をしているんだ。最近は、どの店でも常連と呼ばれるぐらい行っているぞ」

「ふふ、それもどうかと思うけど。それよりも、そろそろお互いちゃんと自己紹介をした方がいいかと思ってね」


 ボクの正体は少し前からジュリにバレているとわかっている。

 だからこそ、ここでの自己紹介はボクからという意味ではない。


「何を言い出すかと思えば、君がリューク・ヒュガロ・デスクストスである事ぐらいもう知っているよ」

「うん。だからね。今日は君の自己紹介をしてもらおうと思って」


 ボクの言葉に、ジュリが警戒心を持った視線を向ける。


「どういう意味だ? 私は帝国に滅ぼされた国から、王国に逃げてきただけの者だと自己紹介したはずだが?」

「うんうん。その設定は悪くないと思うよ。だけどね、ボクの陣営には情報に精通している者がいてね。君の母君は確かに帝国によって滅ぼされた国の姫君だ。だが、父親は帝国の帝王イシュタロスだよね? ジュリア・リリス・マグガルド・イシュタロスさん」


 テーブルに置かれていたナイフを手に取ろうとするジュリアに、ボクはそっと手を重ねる。


「別に君をどうこうしようとしているわけじゃないよ」

「この状況でも君は笑うのだな。リューク」

「うん。ジュリアは笑わないの?」

「笑える状況ではないと思うが?」

「なら、一つ一つ種明かしをしよう。そうすれば君は笑ってくれるはずだ」


 ボクは重ねていた手をそのままに、警戒するジュリアを落ち着かせるように瞳を見つめて嘘偽りない言葉を伝える。


「君は、王国側に騙されているんだよ」

「はっ?」

「どこから話そうか? まずは、魔王が出現したのは本当。聖剣が発見されて所有者が見つかったのも本当。そして、それらの情報を他国に流しのたは貴族陣営。そして、それに誘き寄せられてやってきたのが、それぞれの国の美姫。ここまで言えばわかってくれるかな?」


 ボクがどうしてジュリアにこの話をしたのか、それは彼女は頭がいいからだ。その考えを完全に自らの思考に組み込んでいないと判断したからだ。

 そして、ボクの目的のために彼女が必要になる。


「イシュタロスナイツ第五席ジュリア・リリス・マグガルド・イシュタロス。ボクと賭けをしないかい」

「賭けだと?」

「うん。君は白チームの軍師になることが決まっているよね」

「……もう驚くほどのことではないな。ああ、私が軍師だ」

「君と僕で、それぞれ部隊の作戦を発案して競い合わない? 勝った方が相手に聞きたい情報を教えてもらえる」

「今、一つ教えて欲しい」

「何かな?」

「どうして、私にその話を持ってきたんだ?」

「君しか、ボクと遊べる人間がいないと思ったからだよ」

「遊べる?」


 彼女の手を離して自分のグラスを掴んだ。


「他の子達じゃ。ボクと対等に戦える者がいなくてね」

「それはどういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。戦略戦術、大規模戦闘をした際に、ボクは誰にも負けない指揮ができる自信がある。それに対抗できるのは、イシュタロスナイツの君だけだと思っている」

「私の実力も知らないのにか?」


 彼女の正体を知るまでは、何も期待していなかった。

 だけど、イシュタロスナイツだと聞いたとき、ボクは自分の心が震えるほど感動した。イシュタロスナイツは、この世界最強の存在たちだ。

 王国で対抗できる者がいるとするならば、ゴードンお姉様ぐらいだろう。

 

 彼らは、全員が素晴らしい指揮官だった。

 それは、ジュリアももちろん含まれる。

 ボクにとってイシュタロスナイツは一種の憧れに近い。

 推しはリンシャンだが、イシュタロスナイツにまで上り詰めた彼らの人外な強さが好きだった。


「ボクは君を信じている。それに君はアクージ家と協力しているつもりかもしれないけど、アクージ家の後ろにはボクの兄上が指示を出していると思うよ」


 彼女は、選ばなければならない。

 ボクに勝って、自分の置かれた状況を知るのか。

 それとも、撤退を考えるのか。


「その賭けを受けよう。リュークの知る情報を教えてもらう」

「ああ。楽しみにしているよ」


 ボクは癖の強いオリエンタル酒を互いのグラスに注いで一気に飲み干した。

 これはボクがイシュタロスナイツに挑む遊びに過ぎない。

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