第187話 三年次には転校生がやってくる

 カリビアン領から戻ったボクはシーラス先生の研究所へ立ち寄っていた。他のヒロインたちとはなんだかんだと、休みの間も会えていた。

 だけど、シーラスだけは学園に残って仕事をしていたので会えていなかった。


「ただいま帰りました」

「おっ、おかえり。帰ってきて会いに来てくれたのは嬉しいが、どうしてこのような」


 ボクは長机にシーラスを押し倒して、何度もキスの雨を降らしていた。


「会えなかった分の愛おしさを噛み締めたくて」

「わっ、私とリュークは契約で結ばれているんだ。魂の結びつきはわかるだろ」


 恥ずかしそうにしながらも、ボクを払い除けないシーラスは可愛い。

 年上であるシーラスだが、意外にウブなのでこういうストレートな表現をしてあげると可愛い表情を見せてくれる。


「なら、マーシャル領でボクの魔力が乱れたことも説明できる?」

「せっ、説明はしてもいいが、この体勢のままなのか?」

「う〜ん。このままだとムラムラしてくるから、膝枕をしてもらおうかな」

「わっ、わかった」


 ボクは押し倒していた体勢から、シーラスを抱き起こして、置いている仮眠用のベッドまで運んで膝枕をしてもらった。


「ふぅ、全く君は愛情表現が過激だぞ。わっ私の心がドキドキしてもたん」

「嫌だった?」

「ベッ、別に嫌ではない。君だけだぞ。私にこんなことをしていいのは」

「ありがとう」


 可愛いシーラスにもう一度キスをして、お礼を告げる。


「とっ、とにかくマーシャル領のことだったな。確か、君が習得した魔力吸収が上手く出来なかったという話だな」

「そう。マーシャル領を出て、チリス領に入れば問題なく出来たんだ。だけど、マーシャル領はなぜかできなかった」

「私は、リュークに教えてもらってから魔力吸収を習得したので、リュークほど上手くはできなかった。だけど、あの技法の原理を考えれば、魔力の乱れが原因ではないかと推測できる」

「魔力の乱れ?」

「そうだ。《迷いの森》や《魔王の棲家》のような高ランクダンジョンは魔力濃度が他よりも濃くなる。濃いということは、魔力を吸いやすいように感じるが、乱気流のように、魔力が吹き荒れる場所では、嵐の中で呼吸をするのが難しくなるように魔力を吸うことも難しくなるのではないかと考えられる」


 シーラスは生徒に教えるように、一つ一つ丁寧に説明をしてくれる。シーラスの太ももは細くて柔らかい。太ももを撫でるボクの頭をシーラスが撫でてくれた。


「なるほどで、ボク自身が乱気流を読めていないから、吸い方が分からなかったというわけだ」

「多分だが、王都はそれほど魔力濃度が濃い場所ではない。そんな穏やかな場所で空気を吸っていたところへ、不可思議な現象が起こる環境変化にリューク自身が対応できていなかったと考えられる」

「そっか、ボクもまだまだだね」

「いや、魔力吸収などという新たな技法を編み出しただけでも十分に凄いことだぞ」


 シーラスは慈愛に満ちた目でボクのことを褒めてくれた。


「マーシャル領に行って練習が必要だね。あっ、それと転校生が来るんだって?」

「ああ、私もどうしてだろうと思っていたが、先ほどリュークが教えてくれた魔王出現がカギになっているのではないかと考えられる」

「まぁそうなんだろうね。全員が集まるはずじゃなかったからね」


 本来は皇女がやってくるだけのはずだった。

 それなのに、二カ国から重要な人物がやってきたのは、魔王の出現が早まったからだと思う。


「うん? どうかしたのか?」

「ううん。なんでもないよ。ちょっとイレギュラーな存在が紛れ込んだことに、ボク自身も驚いているだけ」

「イレギュラー?」


 ボクは知恵を借りるためにシーラスのところにやってきた。ついつい、甘えてしまっているが、話しながら自分自身の頭の中を整理できるので、会いに来て良かった。


「ねぇ、シーラス。三年生でも担任をしてくれるの?」

「ああ。そうだ」

「三年生は卒業に向けて、課題があったよね」

「よく知っているな。三年生には、クラスが存在しなくなる。授業も自由だが、成績ランキングだけが残されて、最終的な三年次の判断基準になる」


 成績ランキングの導入で、精密に成績がわかってしまうので、色々と先生方の手間は省ける。


「上位100名だけが、三年生に上がっている。そこへ20名の転校生が加わるという訳だね」

「そうだ。君たちを四つのチームに分けて対抗戦をしてもらう」

「つまり、30名の大規模チーム戦だよね?」


 そう、これが三年次の強制イベントであり、寮が四つに分かれている理由でもる。貴族派、王権派(王族派、武闘派)、平民。四つのグループに分かれて大規模戦闘が行われる。


「リュークは、黒組の総大将になることが決まっている」

「白組はエリーナで。紅組はリンシャンかな?」

「そうだ。青組の平民チームには、今回の転校生を組み込む。平民の総大将はダン君ということにはなる。本来はルビー君だったのだが、リュークのチームに入りたいと辞退されてしまってな」

「それは許してもいいの?」

「君たちは一年ではないからね。三年になれば己の意思でチームも、同盟も反逆も決めてもらわねばならない」


 そう、大規模チーム戦では、同盟行為や裏切り行為が認められている。

 四つのチームは、各国を意味して、四つの国々が戦争をした場合を想定されているという訳だ。

 傭兵の雇い入れ。大将への不意打ち。情報戦。なんでも許されている。

 大将以外は自由に他国との同盟や亡命も自由ということになる。


 最終的に、様々な方法で採点された点数が今年度一番高かったチームの勝利となる。その採点方法をボクは知っているが、シーラスは最後まで教えてはくれなかった。


「運命だね」


 三人の転校してきた乙女たちの目的はいずれも、ダンと聖剣にある。

 そのことについて、ボクはハヤセに情報を流した。

 ハヤセは、ボクの情報を得てすでに動き出している。

 彼女との約束は継続されているので、ハヤセが望めばボクはいつでも動く準備をしている。


「色々とみんな忙しそうだね。ボクはタシテ君とリベラに頼ろうかな」

「それも全て自由だ。健闘を祈るぞ」

「うん。見守っていてね」


 もう一度キスをして、シーラスと別れた。



 

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