第186話 他国の人々 3
【side 教国】
綺麗な水が流れる。水の都市アクアリーフドーム。
巡礼者も多いこの地は、教国でも聖地として日々多くの来場者を迎え入れられている。
表向きには、巡礼者と観光者を迎え入れる屋台や宿などが多く建てられ、巡礼者のレベルによって修行内容も千差万別に用意されている。
そんなアクアリーフドームの奥深く。
一般の巡礼者では入ることが許されない。水草の裏側では、通人至上主義教の教皇が見目麗しい美少女に背を向けて、アクアリーフドーム全体を見下ろしていた。
「聖女ティアよ」
「はい。教皇様」
「いよいよ我々通人至上主義教、本来の教えを全うするときが来た」
「魔王の襲来及び、魔の家が教会に手を伸ばしてきたことでございますね」
「そうじゃ。通人至上主義は、本来魔王へ対抗するため、魔族を排除するために作られた組織であった。それがいつの間にか宗派となり、教えが広まり、屈折する形で王国へ広がっていった。だが、我々本来の働きである、魔王と魔族。彼奴等を滅ぼすため、今こそ力を取り合わねばならぬ」
皺くちゃな顔は、今にも呼吸を止めそうなほど弱々しい声を発する老人は、最後の力を振り絞るように少女へ振り返った。
「王国へ行くのだ。王国へ言って絆の聖騎士と力を合わせて、魔王を討伐せよ。聖女ティアよ。お前の役目は魔王を倒すまで終わりはせぬ。どうか、我々教国の悲願を叶えてほしいのじゃ。そのために使徒たちを使うことを許そう」
「使徒様たちを!」
「うむ。ミカとラビィを護衛としてつけよう。十二の使徒の中でも最強の二人じゃ。きっと聖女ティアの力になってくれることであろう」
「謹んでお受けいたします。教国の悲願、必ずや聖女ティアが叶えてご覧に入れます」
「頼んだぞ」
私は、教皇の間を出る前にもう一度振り返る。
「お祖父様。どうかお元気で」
「ティアよ。苦労をかけてすまぬな」
聖女ティアにとって祖父の顔を見る最後の時になるかもしれない。
そう思えば涙が、自然に溢れ出ていた。
「ミカ、ラビィ。護衛をお願いします」
「ティア様。我ら十二使徒本日よりティア様の配下に加わります。どのようなご命令でもお申し付けください」
「教国の最高戦力のあなたたちが私の配下などと畏れ多いわね。まずは、王国の教会を仕切るブフ家に挨拶に参ります。全員で行くわけにはいかないから、あなたたち二人には負担をかけますがよろしくお願いしますね」
「かしこまりました」
聖女ティア来訪は、すぐに王国全土に知れ渡ることになる。
教皇と二分する権力者こそが聖女の称号であり、王国の聖女アイリスとは、また違った意味を持つ。
聖女アイリスは、民衆が望み王国の司祭たちが認めた存在ではある。
しかし、聖女ティアは通人至上主義教が全信者に対して通達した正式な聖女であり、また彼女の属性魔法【聖】は、聖女のみが許された力だと言われている。
魔に対して最も優れた力であり、彼女だけに許された聖なる武器も存在している。
【聖】属性の魔法と聖なる武器を持つ聖女ティアは、まさしく聖女として使徒や信者たちに認められる存在であった。
「初めまして聖女アイリス様」
「こちらこそ初めまして、聖女ティア様」
ブフ家が管理する王都の教会の一角で顔を合わせた二人はテーブルを挟んで向かい合っていた。
優雅にお茶を飲む二人の姿は、絵師が居れば泣いて描かして欲しいと願い出るほどに美しい光景であったと後にチーシン・ドスーベ・ブフは語っていた。
また、チーシン・ドスーベ・ブフはアイリスの背後に立って控えていたため、その対面には、教国の最高戦力と言われる十二使徒内の二人が控えておられる。
二人は最高戦力でありながら、天使のような美しさを持つと言われ、より会談の場が華やいで見えていた。
「本日は、聖女アイリス様にもご協力頂きたいことがあって参りました」
「それは一体なんですの? 聖女ティア様のように力を持たぬ私では、力添えは難しいと思いますの」
「そんなことはございません。民衆は聖女アイリス様を認め崇めております。聖女とは成る物ではなく。皆から求められる者だと私は考えております。どうか、ご協力頂ければ幸いです」
「ふふ、そこまで言われてしまっては、お話を聞かせて頂きますの」
「ありがとうございます。此度は、絆の聖騎士殿へ拝謁したいと思っております。その橋渡しをお願いしたいと思いまして」
聖女ティアの申し出を聞いて、アイリスとチーシン・ドスーベ・ブフは誰のことかわからなくて固まってしまう
アイリスのメイドであるレイが耳打ちをして、アイリスは知ることになる。
「えっ? ポチ? 駄犬に会いに? え〜、それ紹介してもいいのかしら?」
アイリスが戸惑い出したことに、聖女ティアも困惑する。アイリスは、チーシン・ドスーベ・ブフに学園での絆の聖騎士がなんて呼ばれているのか、そしてその原因を作った自分との戦闘を話した。
「えっ、あ〜それは。ですが、その後に聖剣を手にしたわけですし。よろしいのではないでしょうか?」
「そうよね。私には関係ないわよね?」
「はい。最悪、悩まれるのであれば、リューク様にご相談されてみては?」
「だっ、ダメよ。あの子最近全然私に会いに来ないのよ。家が改装してるからって、カリビアン領にバカンスに行って帰ってこないし。会いに来るって言ってたのに」
「ですので、これを口実会えるではありませんか」
「あっ、そうね。それはいい考えだわ」
二人が何やら話を始めてしまったので、聖女ティアは戸惑うばかりで不安を感じていた。たまに聞こえる。ポチや、駄犬とはどういう意味なのだろうか?
「おっ、お待たせしましたの。絆の聖騎士殿は、我が弟の同級生でまだ学生ですの。アレシダス王立学園の三年次はすでに開始されておりますの。会うのであればアレシダス王立学園に行く必要がありますの」
「そうだったのですね。では、手配頂くことは可能ですか?」
「学園に行かれるんですの?」
「はい。そこでしか会えないのであれば会いに行くしかありません。私の目的ですから」
「いいんですの?現在、アレシダス学園には皇国の皇女と、帝国の留学生が来ていると聞いていますの」
「他国の方々がいるのであれば、さらに都合が良いかと思います」
聖女ティアの申し出にアイリスは深々とため息を吐いて、チーシン・ドスーベ・ブフに聖女ティアの転校手続きをさせるように命じた。
「お力添え感謝致します」
「これぐらいはお安いご用ですの。良い学園生活をお過ごしくださいですの」
二人の聖女の会談は和やかに握手をして終わりを告げた。
片方のアイリスが酷く疲弊していたのは、会談の内容が精神をすり減らしていたことは間違いない。
最後の留学生である。聖女がアレシダス王立学園に転校してくることが決まり。リュークの三年次が始まろうとしていた。
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