第185話 他国の人々 2

【side 帝国】


 大陸の半分を手中に収めたと言われるイシュタロス帝国。

 元々巨大な国であった帝国が、現帝王が即位したことで飛躍的な発展を遂げてた。帝王が領地拡大を目論んだのは、十年も前のことだ。

 それは現在も続いており、帝王の躍進を助ける支える者達がいたことも大きい。


 イシュタロスナイツ。


 帝国が誇る将軍たちの称号であり、現在五人の将軍たちに加え。今年になって、新たなイシュタロスナイツが誕生した。

 イシュタロスナイツは六人になり、各国に衝撃と絶望を与えることになる。


 謁見の間では、六人の将軍が顔を揃えて帝王の前で膝を折る。

 各地へ飛び散っている将軍が集まることは珍しく。

 左右に並ぶ近衛騎士たちは緊張から震える者までいた。


「うむ。よくぞ参った我が愛しい子たちよ」


 帝王は、玉座に座ったまま六人を見下ろしていた。

 イシュタロスナイツは、それぞれが大将軍であり、古参の五人は侯爵位と領地を与えられている。


「イシュタロス帝王陛下! 皆、揃っております」

「うむ。序列零位のシドよ。貴殿はイシュタロスナイツの長として軍務元帥も任せて、いつも苦労をかけておるな」


 帝王の言葉に、序列零位は深々と頭を下げる。


「もったいないお言葉にこざいます。我々は陛下と帝国のために尽力するだけであります」

「うむ。其方らに感謝を。皆も忙しいところ集まってくれたことに感謝する」

「「「「はっ!有難き言葉」」」」

「うむ。此度、皆に集まってもらったのは兼ねてより目をつけていた王国についてである。魔王が出現したと言う報告は皆も知るところであろう。これにより、王国、皇国、教国、三国の同盟はより強固に結び合う物と考えられる。我が帝国と王国が小競り合いを続けて、久しい」


 イシュタロスナイツの中には、三国との戦闘の指揮を任されている者もいるので苦虫を噛み潰した顔をする。


「戦場は新たな局面に入った。王国貴族のアクージ家が代替わりを果たした。長年、我々と戦闘をしながらも交流を持ってきたことは皆も知ることだ。そのアクージ家が、王国に動乱の兆しありと報告をあげてきた。それに先んじて、潜入員を送り込みたい。内部からアクージ家と連携を結んで、帝国民が動きやすい状況を作ってもらいたいのだ」


 帝王が話し終えると、新参のイシュタロスナイツが声を発する。


「陛下、発言よろしいでしょうか?」

「おお、我が愛しき姫よ。どうしたのだ?」


 発言を許された序列五位、白に近い薄いピンク色の髪を短くショートカットを整えた美しい女性が立ち上がる。


「聖剣の出現が確認されました。同じく聖なる武器を持つ者が向かう方がよろしいと愚考します。私は現在、戦場を受け持っておりません。将軍方は皆忙しいので、私が潜入の役目を受けたいと思いますが、いかがですか?」


 序列五位の発言に脇を固める騎士たちはどよめき出す。膝をつく将軍たちも状況を見守るように、目を閉じる。


「帝国のために、行ってくれるか?」

「はい! 必ず帝国に栄光を」

「ならば、頼むとしよう。序列第五位ジュリア・リリス・マグガルド・イシュタ ロスに王国への潜入を命じよう。任務は王国の内情調査と、来るべき時が訪れた際には帝国陣営の指揮官を命じる。補佐として、現在アクージと連携を取る。序列第二位アンガスと任せられるか?」

「任されよう!」


 通人族ではない。巨人族の男はその大きな体躯に見合った大きな声で帝王の言葉に応じた。魔法によって、体を小さくして城に入っていても、この男の大きさは異常と言える。


「うむ。今後も帝国の栄光のために」

「「「「「「帝国の栄光のために!!!!」」」」」


 謁見の間から出たジュリアは、アンガスの元を訪れていた。


「アンガス殿。私の我儘に付き合って頂きありがとうございます!」

「何をおっしゃるのだ。姫様には、我々巨人族一同、感謝しております。我々の中に姫様を煙たがる者はおりますまい。我々は話すのが苦手で他種族と交流を断絶していた。それを受け入れてくださった帝王と姫様には、どの種族よりも感謝しております」

「ありがとうございます」


 幼きジュリアの功績の一つに恥ずかしくなる。


「聖なる武器に選ばれはしました。ですが、将軍になってから仕事を与えてはもらえませんでした。これは私にとって帝国で名を馳せるチャンスです。どうかお力をお貸しください」

「このアンガス。姫様へのご恩お返しいたします」


 巨人族は一人で一騎当千の働きをする。

 アンガスは、その中でもイシュタロスナイツに選ばれる一騎当万の実力を持つ化け物である。

 彼一人でも王国を滅ぼせる実力を持つが、王国には魔王以外に、魔王の眷属と揶揄されるデスクストス家が裏で暗躍している。

 またマーシャル家当主は我々イシュタロスナイツに匹敵する強者だと聞く。


「まずは、アクージ家との接触から王都へ入ります」

「姫様の歳であれば、アレシダス王立学園に入学するのもありかもしれません」

「アレシダス王立学園?」

「んだ。同時期に皇女が留学してくると話題になっております。帝国からの留学生ということで、今後の同盟を考えてという名目はいかがでしょうか?」

「なるほど、潜んでいるよりも堂々と入国するわけですね。できるかわかりませんが手配してみましょう。帝国がこの大陸を統一できるのか、それは私にかかっています」


 アンガスの提案に従って、正規の手続きで帝国からの留学生を王国へ申告して、王国内への潜入を成功させた。

 

「ここがアレシダス王立学園なのですね」


 ジュリアは到着してすぐに王都のアレシダス王立学園の下見に赴いた。


 校門から伸びる広い並木道は、穏やかで帝国とは違った雰囲気を持つアレシダス王立学園。

 ジュリアはその穏やかさを、つまらないと感じた。


 だが、彼女は次の瞬間、異様な一団を目の当たりにする。


「なっ、なんですあれは? 人が空を浮いている?」


 ぷかぷかと浮かぶ大きなクッションに寝ている男性。

 男性の周りには見目麗しい女性たちが、楽しそうに談笑して歩いていく。

 あまりにも異常な光景に、驚きを禁じ得ない。


「あれでは帝王陛下と同じではないのか?」


 大奥を持つ帝王陛下の妻たちは100を超える。それは滅ぼした国の姫であったり、新たな種族との異文化交流だったりと幅広く。

 規模こそ少ないが、様々な種族の女性を引き連れる陛下のなされる所業のようだとジュリアの目には映った。


「あれっ? 見ない顔っすね? 新聞部の私が知らないってことは新入生の方っすか? 本日は学校の手伝いで受付をしているっす。ハヤセっす」


 いきなり声をかけられて、ジュリアは驚いてしまう。

 気を取られていたことで、近づかれることに遅れてしまった。


「わっ、私は留学生だ」

「ああ、そういえば、本日十名ほど留学生がやってくるって言ってたっすね。それじゃお姉さんは、三年次に転校っすね。案内が必要っすか?」

「いや。大丈夫だ」

「そうっすか。必要ならいつでも声をかけてほしいっす。アレシダス王立学園を楽しんでほしいっす」

「あっ、あれは?」

「ああ、リューク様と、恋人方っすね」

「リューク様?」

「はいっす。現在のアレシダス王立学園三年次成績第一位。リューク・ヒュガロ・デスクストス様っす。あっ、留学生の方なら知らないかもしれないので、先に言っておくっす。あの方は公爵家の令息なので、関わる際は気をつけた方がいいっすよ」


 情報を教えてくれた生徒に礼を伝えた。


「ありがとう。親切に」

「全然いいっす。他にも知りたいことがあれば、なんでも聞いてほしいっす」


 親切な生徒にすっかりと気を許しそうになるが、敵国であることを思い出して、身を引き締めた。


「ああ、その時は頼む」

「それじゃ失礼するっす」

「ありがとう」


生徒が去った後も、しばしリューク・ヒュガロ・デスクストス一行を見つめていた。





 

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