第179話 犠牲

《シナリオ分岐点II》


 ルビーシナリオ

 立身出世パートにて、冒険者となったダンは、王都周辺でランクを上げながら、冒険者としての実績を積んでいく。

 王都でレベルを上げることで次第に実力をつけて、王都で起きる事件を解決していた。

 最愛の恋人であるルビーの両親を助けるため、二人はSランクの称号を得る。

 Sランクの称号を得た二人は、迷いの森へ向かう。

 迷いの森では、強力な化物が生まれて森を支配していた。

 対抗するため戦い続けていたルビーの両親は、森の支配者を抑えていた。

 だが、倒しきれないまま年数が経ち、成長しすぎた森の支配者を止めるために最後の手段を使った。

 二人の属性魔法を合わせて暴走させる。

 森の支配者に命をかけた属性魔法最大攻撃を使う。


 二人が命をかけたことで、森の支配者は深傷を負い。

 ダンとルビーは両親の意思をついで、森の支配者を倒した。


 二人の遺品を抱きしめてルビーは泣き崩れる。

 立身出世パートに移行して、レベルを上げるまでにSランク冒険者は5年も戦い続けた。それは彼らの命を削り、ルビーの両親は助かることはなかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【sideリューク】


 ボクの記憶の中にある二人は、森の支配者に気づいて、迷いの森に滞在して戦いを続けていたはずだ。

 だが、森の支配者になる【暴食】の蝿は魔王に連れ去られた。


 二人が暴走して属性魔法を使う運命は変わったはずなのに、どうして二人は暴走して力を使っているんだ? 

 確かに蝿の成長はゲームに出てくるよりも早かった。

 だけど、Sランク冒険者の二人が暴走しなくても戦えたはずだ。


「ルビー。二人は暴走しなくても、あの力を使えるのか?」

「わからないにゃ。あんな力を使っているところを初めて見るにゃ」

「そうか」


 答えはなし。

 

「ノーラ。あれを足止めできるかい?」

「ふふ、面白そうでありんす」

「なら、少しでいいから止めてくれ」


 ボクはノーラに天災の足止めを頼んで振り返る。


「リンシャン。マーシャル騎士団をこの場から避難させろ。マーシャル公爵はボクの馬車を使えばいい。シロップ御者をしてくれ。エリーナ、冒険者たちを避難させてくれ。バッド、傭兵をまとめろ。タシテ君。エナガ隊と調査隊に、周辺の調査と警戒をさせて退却経路を見つけるんだ。クウとアンナは、エリーナとマーシャル公爵の護衛につけ。以上だ」


 ボクは命令を出し終えると、ノーラの元へと歩き出した。


「リューク。私は側にいてはいけないのか?」


 リンシャンからかけられる言葉に、ボクは振り返る。

 同じ気持ちなのだろう。

 エリーナとシロップもこちらを見ている。


「ダメだ。それぞれが最善を尽くさなければ生き残ることができない」


 三人を守りながら戦えるほど、甘い相手じゃない。

 ボクのレベルも上がっているが、もうレベルがどうのと言える次元は超えている。迷宮都市ゴルゴンの黒龍よりも今回の天災はヤバい。


「全員を守りながら動くことは不可能だ。何より、これはルビーの問題だ」

「リンシャン、任せてほしいにゃ。リューク様は必ず私が守るにゃ」

「……わかった。口惜しいものだな。己の力不足が」

「力不足じゃないさ。それぞれに役目があるってだけだ。マーシャル公爵が本調子ではない以上。マーシャル騎士団に指示を出せるのがリンシャンだけなんだ」


 ボクはバルニャンを全身に纏うバトルフォームをとる。


「ここは任せて。マーシャル領への被害は出させないから」

「また、お前に救われるのだな」


 この現象を歪めた原因があるとすれば、ボクであることは間違いない。


「気にしなくていい。今は自分のことを考えて」


 離れていくリンシャンたちを見送ってボクの隣にはルビーだけが残る。


「私に何ができるのかにゃ?」

「ボクを信じろ!」

「えっ?」

「ボクを、そして仲間を信じて突き進め」

「わかったにゃ! 旦那様を信じるにゃ!」

「旦那様?」

「そう呼びたいにゃ!」

「ああ。ルビーの好きに呼んでくれ。行くぞ」

「はいにゃ! 旦那様! 大好きにゃ。信じて進むにゃ!」


 バルニャンを装備したことで、ボクは空へと浮き上がる。上空から竜巻を見下ろす。

 引き寄せる風の力と、近づいた者を吹き飛ばす雷の力。二つが力が鬩ぎ合って、とんでもない力を生み出している。


「やっぱり同等な力をぶつけるしか止める方法はないよな。ノーラはさすがとしか言えないな」


 属性魔法【闇】を使って、巨大な壁を作り出し竜巻を闇の中へ閉じ込めている。完全には力を抑えつけられないのは、ノーラの力よりもルビーの両親の力の方が強いと言うことだ。


「ルビーには、両親が見えたところで救出してもらうしかない」


 マーシャル公爵家に入ってから、魔力吸収が上手くできない。呼吸法を試しているのに、体に受け止められる器以上に吸えない制限がかかる。

 何より吸いながら魔法を使うことができない。

 マーシャル領になんらかの妨害要素があると言うことだ。


「ふぅ、疲れるね。ボクは怠惰でいたいだけなんだよ。本当に」


 レベルカンストした自然系最強属性魔法【嵐】【雷】の合成魔法。


「ノーラの闇に、ボクの怠惰を合わせるしかないな」


 巨大な闇が竜巻を抑えつけるところへ、ボクは神経を集中させて包み込むように、【怠惰】をペーストしていく。


「あっ、あっ!なっ何をするんでありんす! 不思議な感覚でありんす。リュー様がわっちの中へ!」


 ノーラが何やら艶かしい声をあげているけど、今は無視だ。闇は凄い。聖剣を使って、リンシャンとエリーナから魔力を注いでもらった時とは違う。

 混じり合うような感覚と相手の属性を知る不思議な感覚が流れ込んでくる。


「バル、解析と調整は頼むな」


 バトルフォームになったバルとは意思疎通ができている。バルに微調整をしてもらいながら、【闇】に【怠惰】を侵食させていく。

 ノーラとの相性はやっぱりボクの方がいい。

 

「ズルイでありんす。わっちの全てがリュー様に侵されていくでありんす!」


 ボクの魔力を受けてノーラの力を強めて、竜巻を完全に停止させる。


「ルビー!」


 ボクの叫びにルビーが走り抜ける。


「信じてたにゃ!」


 勢いがなくなった竜巻から二人の姿が見えて、ルビーが二人を引き離して完全に魔法を停止させる。


「やったのにゃ!」


 ルビーが救った母親らしき女性。そして、属性魔法は……


「ノーラ!」

「もう無理でありんす!」


 【闇】が弱まったことで、嵐が吹き荒れる。

 【雷】は止まった。だが、竜巻が止まない。


「なっ! なぜ止まらないのにゃ?」


 ボクは理由を知っている。

 ルビーの両親が使った魔法には、犠牲が必要になる。

 暴走した力は互いの属性魔法のぶつかり合いでさらなる力を増幅させていく。

 では、ぶつかり合っていた力がどちらか片方がいなくなった時……、もう一人へと全ての力が押し寄せる。


 本来はどちらか一人が死んだ時、もう一人を殺すために押し寄せる力なのだ。

 ルビーによって一人が取り除かれ、もう一人へと力が押し寄せる。


 これは一人を助け、一人を犠牲にする救出方法だ。


「お父さん!」


 魔法が凝縮されていく。


 

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