第175話 しばしの休息 

 リンシャンを助けて眠りについた。


 目を覚ましたボクは、しばらく起き上がることができなかった。バルを使った後に魔力が尽きてしまったため、回復魔法を使うことができなかったのだ。


 目覚めた時には、筋肉痛で体はいうことを効かなくなっていた。


 魔物をバルニャンを装備しないで、素手で殴り倒していたことで、拳と膝が壊れて痛いのかどうかもわからないほど、感覚が無くなっていた。

 魔力が回復して、再生魔法を使うまで、ボクは何もできなくなっていた。 


 そう思って寝ているが……


「リュ、リューク。まだ体が痛むのか? よっ、よければこれを」

「リンシャン、ありがとう」


 恥ずかしそうにリンシャンが、ボクの口元へ水差しを差し出してくれる。

 リンシャンも傷を負っているので、同じ馬車の中で療養しているのだが、着替えがないので、下着姿でボクの世話を焼いている。


 ボクは無言で水を飲んで目を閉じる。

 今は何もできないので見ないようにしている。


「主様、枕はいかがですか?」

「ありがとうシロップ。凄くラクだよ」


 膝枕をしてくれているシロップが頭を撫でてくれる。


「見張りが終わりましたわ」

「エリーナ。すまない」

「リン。いいのですわ」

 

 ボクが動けない状態で馬車はバルニャンによって守られているので、許した者しか馬車には入れないようになっている。

 ボクの代わりにそれぞれが役割を果たしてくれている。


 エリーナは、総指揮官としての役割を。

 タシテ君は、目や耳を使って情報収集を。

 マーシャル領にも目と耳があるのは凄い。さすがはネズール家だ。いつもよりもタイムラグがあるようだけど、マーシャル領の脅威度が高いせいだろう。


「エリーナご苦労様」


 ボクは少しだけ目を開いて労いの言葉をかける。

 だけど、目を開けた時に見たのは、鎧を脱ぎ捨てるエリーナの姿だった。


「ふぅ〜ここはいいですわね。ラクな格好ができますわ」

「コラ、だらしないぞ」

「リンだって、同じ格好をしているではありませんか」

「それはそうだが」

「失礼するでありんす」

「邪魔するにゃ」

「ただいま帰ってきました」


 次々と馬車に人が入ってきて、何故か全員が服を脱いで下着姿になっていく。

 どうやら見張りはタシテ君とバッドがしてくれているらしい。

 クウと一緒にアンナも入ってきていた。


 全員が下着姿でゴロゴロと寝始める。

 しかも動けないボクの一部に触れながら、柔らかくて暖かい感触と、甘くていい匂いに囲まれている。


「おやすみ」


 ボクが声を発すると……


「「「「「「「「おやすみなさい」でありんす」ませ!!!」にゃ」」」」」」」


 それぞれの声が聞こえてきて、ボクは無理矢理に寝ようと僅かに回復した魔力で自身にスリープをかけた。


「う、うん」

「主様、起きられたましたか?」


 全員で寝ていたボクの前にシロップがいるようだ。

 馬車の中は、真っ暗で何も見えない。


「シロップ?」

「はい。ここに」


 どれくらい寝ていたのかわからない。

 ただ、魔力が半分ほど回復したのは感じられる。

 再生と回復魔法をかけて、手足の感触を確かめようとして握り込む柔らかな手の感触を感じる。


「結構時間が経った?」

「はい。二日ほど過ぎたところかと」


 二日寝て、半分ほどしか魔力の回復を感じられない。

 魔物を大量に倒したから、レベルが相当上がったようだ。体の怠さが抜けていないのに、強くなった気だけがする。


 握っていた手はシロップのものではなくて、リンシャンの手だった。

 もう片方の手にはエリーナの手があり、左右の足にはノーラとルビー、クウとアンナはボクの服を掴んでいる。


「体が治っても動けないね」

「皆、主様を心配していましたので」

「うん。分かってるよ。探索の結界は貼り直したから、オートスリープが冒険者たちを守ってくれる。タシテ君が気づいてくれるだろうから。もう少しゆっくりするとしよう」


 タシテ君にはオートスリープと探索結界の原理を伝えているので、魔物が近づいてこないことがわかれば対処もラクになるはずだ。

 マーシャル領の脅威度は理解したので、オートスリープを強化している。

 眠らせるだけじゃなく撃ち抜くほどの威力を含ませた。


 サイクロップスの時のように中途半端に眠らないやつはそのまま倒せるように仕込みを入れた。

 レベルが上がって強くなったボクの魔力を突破できるほどの魔物はそういない。


「今日は私もお側に」

「おいで」


 ボクを取り囲むように眠る彼女たちを起こさないように、もう一度眠りについた。

 

 次に目を覚ますと、傭兵も冒険者も全員がレベルをカンストさせていた。


「リューク様。我々の強化までして頂きありがとうございます」

「それは次いでだから別にいいよ。魔物たちも、レベルなんてカンストしている。だけど、元々持って生まれた基礎能力値が魔物の方が高いことはわかっているよね?」

「はい! 我々、属性魔法を持たない者たちからは、属性魔法を持つ魔物たちは脅威であります」

「うん。数名で徒党を組んで一体ずつ確実に倒すようにしてね」


 何故か、バッドか傭兵隊、ルビーが冒険者隊の隊長になり、タシテ君が優秀な諜報部隊まで作り上げていた。


「リューク様。マーシャル様から聞いた地理の情報によって、この辺り一帯を把握することができました。どうやらチリス領へ侵入する魔物の数は激減しております」


 タシテ君の諜報部隊に、リンシャンの地元の知識が入り、状況把握まで進んでいた。


「リューク。エナガ隊を救ってくれてありがとう」


 リンシャンと共に救えたマーシャル騎士は14名で、全員が女性だった。

 なんでも、ホワイトエナガは生まれてすぐに見た人間を親と思う習性があり、エナガを我が子のように育て上げたものだけが、エナガ隊に入れるそうだ。

 男性もいるが、八割近くが女性で構成されているという。


 エナガ共々墜落していたが、地面で必死に戦っているところへ。ボクらの救出が間に合って急死に一生を得たというわけだ。


「ボクは、たまたま通りかかっただけだよ」

「それでも私を救ってくれたのは、間違いなくリュークだ」


 そう言って誰もいないところで、ボクへお礼のキスをするリンシャンが可愛い。



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