第174話 マーシャル領突入作戦 救出

 雪が強く降り積もり、戦場と化している場所まで向かうのも難しい環境を突き進んでいく。探索の結界を張っていなければ、どこから魔物が来るのか予測もできない。

 

「大将、このまま進むのは危険じゃねぇか? 視界が悪すぎる」

「誰かが戦っているのを見たんだろ?」

「ああ、あれはマーシャル騎士団のホワイトエナガ隊だ」

「ホワイトエナガ隊?」

「空を翔ける猛禽類だ。子供の頃から躾けると乗ることが出来る魔物で、マーシャル家がこの極寒の地で生き残るために編み出した方法だ」


 猛禽類ということは鷹か? 異世界ならグリフォンとかなのか? とにかく戦っているマーシャル騎士団がいるなら、助ける必要がある。


「進むのも困難状態だ。この近辺で陣形をとって、待機しておいてくれ。ボクと数名で様子を見てくる。エリーナ。指揮を頼む」

「わかりました!」


 バッドの報告に、ボクは重怠い体をバルニャンに預けて浮き上がる。

 結界を解除したことで、魔物達が溢れる。

 だが、今は彼らを信じて拠点を守ってもらうしかない。ボクの魔力が必要なのはここじゃない。魔力を温存して、バルニャンと飛びあがる。

 

「ノーラ、シロップ、ルビー、クウ。いくぞ!」


 ボクは当初の冒険者パーティーだけを連れて、雪道を進んでいく。馬車が進めないほどの雪道なので、徒歩で進むしかない。

 全員、雪国仕様のコートに身を包んでいるが、長い時間は行軍できない。戦場が近づくにつれて魔物を倒すことで体を温める。

 ボクはバルニャンの上から、彼女達に指示を出して、戦場を大きく見渡す。


 猛禽類という割にはあまりにも可愛い。

 フワフワな白い鳥に乗った騎士達が、槍を持ち、魔法を放って魔物と戦っている。

 その中でも一際目立つ女騎士に、ボクは視線を奪われた。


 雪国に咲く一輪の薔薇のように、真っ赤な髪と鎧に包まれ、炎を放って戦う姿は本当に美しい。

 たくさん傷ついたのだろう。まだ遠くではあるが、彼女が懸命に魔物を倒す姿が降りしきる雪の向こうに見えている。


「あそこだ! クウ! ルビー!」

「はいです!」

「はいにゃ!」


 二人は迫る魔物を薙ぎ払う。雪に足が取られないように木々に跳び乗り、跳躍する二人はこの旅で随分と強くなった。


「ノーラ! シロップ!」

「承知したでありんす」

「お任せください。主人様」


 ノーラは敵を引きつけて、魔物が身動きを取れないようにしてしまう。

 シロップが雪を全ての敵を吹き飛ばしていく。


 遠い戦場では、一人、また一人とホワイトエナガに乗った騎士達が墜落していく光景が見えている。

 すでに戦場に残る騎士は一人だけで、彼女は大輪の花を咲かせるように、一羽と一人で火の鳥になり、炎を爆発させて魔物へ突撃をかけた。


 最後の力を振り絞ったのだろう。その花火はとても綺麗だった。


「リューク。最後に一目会いたかったな」


 墜落して囲まれた彼女は傷つき立ち上がる気力も失われている。

 ボクは温存していた魔力を使って、全力でリンシャンに回復魔法と再生魔法を使った。さらにリンシャンを守るように寄り添うホワイトエナガも回復してやる。


「なら、会いに来てよ。ボクは怠惰だから、君が来てくれないと困るよ」

「えっ?」


 リンシャンの瞳がうっすらと開き、疲れ切ったその顔はこれまでの死闘を物語っている。どれだけ彼女は自分を犠牲にして戦っていたのだろう。


「リューク?」

「うん。そうだよ。こんなところで一人で死ぬなんて酷いな。君はボクの魂の伴侶なんだから」


 彼女を抱き上げて、バルニャンへ乗せる。

 ホワイトエナガにも透明バルを出現させて運ばせる。


「夢でも、神様でもないよ。でも、君の疲労もピークだろうから、今は寝てて、あとはボクらがやっておくから」


 ボクの声に安心したのか、リンシャンは眠りに落ちた。残された魔力は限界がある。だけど、今の僕は最高に気分がいい。


「お前ら、ボクの大切な人を傷つけたんだ。ただで帰れると思うなよ。今は寒いから身体を暖めるために動きたい気分なんだ」


 体は怠い。本当は動きたくない。だけど、リンシャンをこんな目に合わせた奴らを許すことはできない。


「バルニャン! 行け」


 眠るリンシャンを馬車まで運ばせ、ボクは体内にバルを出現させて久しぶりに体をコントロールする。


「痛みは邪魔だ! 疲労も、限界も必要ない!」


 ボクはバルが体術を駆使して魔物を千切っては投げるのをコントロールして、敵を薙ぎ払う。無双モードに突入したボクを止められる魔物はいない。

 辺り一面、見渡す限りに死屍累々の魔物たちの山が出来上がる。


「リュー様は、鬼神でありんす」

「主様! さすがです!」

「やっぱりリュークが一番怖いにゃ!」

「凄いです!」


 魔力を使い果たしたボクをノーラが抱き止める。

 シロップが運んでくれる。馬車に辿り着くまでは意識があったけど、ボクの意識はそこで途切れた。


 ただ、ボクの横に寝かされたリンシャンの顔が見えて、ボクはリンシャンの手を掴んで眠りについた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。

 今日から3月ですね。

 予告していた通り、今月より更新頻度を一日おきに減らそうと思います。

 執筆活動は順調に進んでおります。

 どうぞこれからも応援をよろしくお願いします(๑>◡<๑)


 次回は、三月三日のひな祭りの8時に投稿予定です。






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