第173話 マーシャル領突入作戦 序章
ボクの伝えた作戦が採用されて、全員が動き始める。
ルビーも知り合いの冒険者がいると言うので、挨拶に向かった。
「本当によろしいのですか?」
代わりにやってきたセシリアに、ボクはバルニャンに寝転びながら目を向ける。
「何がだい?」
「チリス騎士団は、ほぼ全てを私が指揮をして掃討に向かいます。冒険者や傭兵は、残った物だけで百名ほどです。少ないのではないですか?」
「いいや、十分なぐらいだ。君たちが迷いの森から溢れる魔物を受け持ってくれるのだから、ありがたいぐらいだよ」
「ですが、マーシャル領内に入れば、手助けはできません。ならばもっと兵を」
「必要ない」
ボクの気のない返事に苛立ちを覚えているようだけど、本当に必要ない。
「レベルや能力が高い者がいなくなる君たちの方が危険なんだ。冒険者や傭兵という奴らは、己の命を一番に考えているからね。彼らは利がないと思えば、勝手に逃げてくれる。だけど、騎士という奴らは使命感や何だと命令を待って戦い続ける。ボクの作戦には不要なんだ」
セシリアも流石にそれ以上の言葉を持たず、強引には言ってこなかった。
「私は、どうやらあなたを誤解していたようですわ。あなたは立派なアレシダス王国貴族の誇りを持つ方でした」
それだけを告げると、セシリアは馬に乗って騎士団と共に離れていく。
「ボクは、王国貴族の誇りなんて真っ平ごめんだけどね」
誇りを胸に戦うなんて思ったことはない。
自分が怠惰に生きるために、必要なことをしているだけだ。
「準備ができました」
エリーナに声をかけられて、並んだ冒険者と傭兵たち。
屈強な彼らは、若い我々を見て嘲る者もいるが、こちらが貴族であることはわかっているので、露骨な態度を取るものはいない。
「やぁ、諸君。ボクは悪名高いデスクストス家の者だ」
ボクが、デスクストスだと名乗った瞬間に顔を青くして、嘲る態度をとっていた者たちが背筋を伸ばす。
デスクストス家が、王国でどれだけ悪名高いのかよくわかる光景だ。
騎士団よりも、やっぱり彼らの方がデスクストス家の怖さを知っている。
「君たちは今からボクの駒だ。ボクの言う通りの陣形で進軍してもらう。逃げればわかっているよね?」
息を呑む音がそこかしらから聞こえてくる。
「しっ、質問をいいか?」
先頭に立つ屈強な男が手を挙げる。
「何だい?」
「報酬は出るんだろうな?」
「もちろん。君たちに支払われる支払いの二倍は出そう。それに命の危険はそれほどないと思ってくれていい。ただ、獣人の夫婦ダイヤとサファイアと呼ばれるS級冒険者も一緒に探して欲しい」
「報酬二倍!人探しで…… わかった。デスクストス家は恐ろしいが、約束は守ると知っている。契約成立だ」
屈強な男は傭兵頭のバッドと言うそうだ。
「それじゃあ進軍しようか。ボクが乗る馬車から半径三十メートルぐらい距離を空けて扇形に陣形を取ってくれ。ある程度の敵はボクの魔法で眠らせるから、眠らせることが効かない魔物は、実力ある者が、眠った魔物はレベルが低い者倒すようにしてくれ。そうすればレベルを上げて、マーシャル領で活躍できる者も多くなるだろう」
ボクの発言の意味がわからない者もいるだろうが、ボクは半径四〇メートル以内に近づく魔物を眠らせて、冒険者たちに倒してもらうスリープアローの結界を作り出した。
ボク自身は動かないで、エリーナの膝枕に頭を預けて寝転ぶだけだ。
外は傭兵をタシテ君が、冒険者をルビーが指揮をして、強い魔物が出たらノーラとクウが対処する。
レベルが低い冒険者も、これでレベル上げて強くすればマーシャルで使えるので一石二鳥だね。
魔石は倒した者の物にしてもいいと伝えているので、臨時収入プラス報酬二倍は彼らから逃げると言う選択肢を奪ってくれるだろう。
「リュークはしんどくありませんか?」
膝枕をしてくれているエリーナが魔法を使うボクを心配してくれる。
「まぁ、寝ながら魔法を使うのは得意なんだ。このままマーシャル領まで行くつもりだから、ボクの魔力が尽きたり、体力的に辛くなったら言うから、その時の指示は手筈通りにね」
「はい。リューク」
冒険者たちには、指揮官はエリーナだと伝えてある。
だけど、それはボクが指示を出すのが面倒だからだ。
エリーナには、悪いがここは迅速に動ける行動をとらせてもらう。
「マーシャル領との境が見えてきました」
シロップの声で顔を上げれば、魔物で溢れかえる白い大地が見えた。
「寒そうだね」
「マーシャル領は一年のうち半分以上が銀世界です」
「そうなんだね」
「作物は育ち難く、迷いの森から得られる果物が食料になるのですが、魔物が強くマーシャル領に住む者たちは総じて強くならねばならなかったのです」
エリーナの解説を聞きながら、領境へ足を踏み入れていく。魔物の数が一気に増えて、魔力の消費が激しくなる。
「ふぇ〜結構キツいね」
「大丈夫ですか? 変わりますか?」
「ううん。手を繋いでくれるかい?」
「もちろんです!」
ボクは魔力をすり減らしながら、行軍は進んでいく。
「大物が出たぞ!!!」
冒険者の声で外を見れば、巨大なサイクロップスが数体現れていた。
オートスリープを数発くらっても眠らない。
耐久力が、他の魔物よりも強い。
他にもゴーレムや、ガーゴイルなどはスリープアローが効きにくい。
「わっちに任せるでありんす!」
ノーラが闇魔法でサイクロップスを足止めして、ルビーが風の魔法で自身を加速させてサイクロップスを薙ぎ払う。
「この辺で休息を取ろう」
ボクの魔力が限界に来ている。
「かしこまりました」
シロップが返事をしてくれて、タシテ君に合図を送る。
ボクが休息する間は、エリーナや他の者たちに指揮と見張りを任せている。
眠るボクの馬車へ伝令が駆け込んでくる。
「この近くで戦闘をしている者がいるぞ!大将」
傭兵頭のバッドがボクに声をかける。
「指揮官はエリーナだって言っただろ」
「そんなことはどうでもいい。いくのか?」
「いくよ。マーシャル領の者を救いに来たんだ。それに戦闘をしているなら、マーシャル騎士団かもしれないからね」
「わかった。野営の準備はやめてみんなに戦闘準備をさせる」
バッドが伝令に走る。
屈強な男だった見た目とは違って、軽快に動くバッドに意外感を覚える。ボクは戦場へ向かって馬車を向けた。
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