第168話 面倒だからボクの側にいればいい

《暴食》の蝿との戦闘で魔力を使い。

《憤怒》の魔王出現で、緊張がピークに来た。


 ボクは全身から汗を吹き出して体の疲労を感じる。


 振り返れば、腹を貫かれたノーラが意識を失っていた。

 彼女が瀕死でありながらも、属性魔法を使ってくれたから蝿を簡単に倒すことができた。


 ボクはお礼も兼ねてノーラの腹を再生した。


 再生は魔力の消費が激しい。

 魔力を使い果たしたボクはバトルモードを解除して、この身をバルニャンに預けた。


 次に目を覚ますと天蓋付きのベッドで寝かされていた。

 窓の外は、夜になっていてどれくらい寝たのかわからない。


 ただ、人の気配だけはハッキリと分かる。

 ボクは立ち上がってベランダに向かう。

 そこには、風に当たるノーラがいた。


「わっちは負けんした」

「別に戦ってはいないけどね」

「いいえ。あの蝿にではありません。魔王にです」

「血を失い過ぎて、戦える状態じゃなかったけどね」


 本当にそう思う。

 もしも万全な状態だったなら、ノーラ先輩はボクよりも気丈に振る舞えていたと思う。


「大罪魔法に、わっちは及ばないでありんした。未だ、ゴードンではなかったことを理解したでありんす」

「どういう意味?」

「わっちはもっと強くなりたい。リュー様の横に並べるオナゴとしてでありんす」


 厄介なことだ。


 大人向け戦力シミュレーションゲームには、お姉様は登場しない。

 代わりに最強として登場するのは、ノーラ先輩だ。


 縦横無尽なフリーダムキャラとして、一周目で遭遇すれば100%勝てない最悪の存在。二周目になって倒すことで、攻略キャラとして選択は出来る。


 選択しなければ暴走したノーラ先輩と何度となく戦うことになる。

 二周目では勝てるようになるが、強くて面倒なキャラに変わりない。


 どちらにしても厄介なのだ。


「それは君も?」


 ゴードン侯爵家は、デスクストス家の分家に当たる。

 遠い親戚であるということは血の繋がりがあるということだ。


 それは、ノーラ先輩にも大罪魔法宿す資格があるということだ。


「かー様の力を」

「そうか」

「………止めるでありんす?」

「どうして?」

「あまり嬉しそうな顔をしてはくれんでありんす」


 ノーラ先輩は、初めて会ったときよりも他人のことをよく見るようになった。

 シロップ、ルビー、クウと連携を取るようになり、今のようにボクの態度を気にする。


 傍若無人で、好き勝手に生きてきた彼女は、ゲームのイメージとは随分違って見える。それはボクが介入したことで、少しずつ変わってきているのかもしれない。


 ゲームに登場して攻略が開始しても、彼女の暴力性は止まらない。


 悪の道を進むルートだとボクは思っていた。


 だけど、今の彼女からは悪の匂いがしない。

 純粋で、世間を知らず、知識を吸収しようとしている。


 それは、これからの戦いに良いことなのか………それとも戦力を失うことになるのか、ボクには判断ができない。


「力には代償がいる」

「えっ?」

「君が得ようとする強欲の力には、強い衝動が付きまとう。君はその力を得たとき、その衝動を抑えられなくなるだろう」


 悪の道。


 考えて見れば答えは簡単ななのかもしれない。


 ノーラ先輩だけの問題じゃない。


 強欲の大罪魔法に、感情が引っ張られていくのだろう。


 ボクがめんどうと口にするのも、そういう感情が強いのも、《怠惰》に惹き寄せられているからだ。今回の戦闘でも、大量の魔力を使い。


《怠惰》を行使した。


 すでに立って起きていることすら辛い。


「じゃあ、どうすれば良いでありんす?わっちは、強くなりたいでありんす。そのための方法が、かー様の力なら!わっちが手に入れて使えば、リュー様の力になれるでありんす!」


 彼女は純粋にボクを助けたいと思ってくれている。


 きっと、今の心が本来の彼女なんだ。


 強欲を手にする前のノーラ先輩。


 ボクは彼女に強欲を取らせて駒として使うか、それとも現在の彼女を残して戦力ダウンを承認するのか?ああ、こんな大事なときなのに考えるのがめんどうだ。


「ハァ~めんどくさい」

「えっ?」

「考えるのが面倒だから、ボクの側にずっといればいい」

「それはどういう意味でありんす?」


 今まで強さで、誰にも負けないと思ってきたのだろう。

 ノーラ先輩は、初めて勝てないかもしれないという存在に出会った。

 それに抗う力を、安易な方法で手に入れようとしている。


 きっと、そこをテスタ兄上か、デスクストス公爵につけ込まれていく。


「大罪魔法の《強欲》なんてチート魔法じゃなく、お前自身がボクの側にいて強くなればいい。ノーラ・ゴードン・ゴルゴンは、今でも十分に強欲な女だ!なら、安易な強さを手に入れるんじゃなく、本物の強さを手に入れてボクの側にいろよ」


 この世界は、大人向け戦略シミュレーションゲームだ。

 レベルには上限があるが、強くなる方法は他にもたくさん存在する。


 ダンが持つ聖剣。

 リンシャンのように属性魔法の開眼。

 アカリが作る新しい魔道具。


 純粋な強さは、大罪魔法に頼らなくても日々の鍛錬で少しずつ上昇させられる。


「わっちは、リュー様の側にいてもいいんでありんすか?」

「そう言っているだろ。その代わりに、必ず強くなれ。ボクのために」

「約束するでありんす!!!わっちは、リュー様のために強くなるでありんす。この命が尽きるまで、リュー様だけのために強さを証明し続けるでありんす!」


 ボクは限界を迎えての腕の中へ倒れ込んだ。


「リュー様!」

「ボクは寝る。ベッドまでよろしく」

「一緒に寝ても?」

の好きにしていいよ」


 ボクはそのままノーラに身を預けた。

 ノーラはボクが呼び捨てにしたことを、感動しているようで少しだけ立ち止まっていたけど。

 すぐにベッドへと移動して、完全に意識を手放した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 この度、【あくまで怠惰な悪役貴族】が書籍化決定しました!!!

 これも全て読んで頂いている読者の皆様のおかげです!!!

 本当にありがとうございます!!!


 書籍化作業が三月より本格化しますので、三月より毎日更新ができなくなります(´;ω;`)ウゥゥ。

 週二程度は更新をしていきたいと思っておりますので、どうか更新時はお付き合い頂ければ嬉しく思います。


 どうぞこれからもよろしくお願いいたします!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る