第166話 冒険者の仕事をしよう 終
二人が動き始めて、ボクは奴と対峙する。
こいつは危険だ。
時間を与えるだけ、強さを増していく可能性がある。
「つくづく私の邪魔がしたいのですね。私は食事のためにここに来たのです。あなたのせいで、まだ魔力の塊を一つしか食べられていません」
ノーラ先輩の鉄扇のことを言っているのだろう。
来た時よりも苛立った口調なのは空腹だからなのか?ご立腹な様子の【暴食】が、怒りをこちらへぶつけてくる。
「全く、こちらから感じた魔力に惹かれて来てみれば、とんだお邪魔虫がいたものですね」
ボクはおしゃべりを続ける蝿に深々と息を吐く。
「ハァー、本当にめんどうだ。厄介な相手と戦うのは嫌いなんだ。これほど面倒なことはない」
力を使えば疲れてしまう。
だから、適当に力をセーブして戦うのが一番いい。
「なら、邪魔するのはやめて頂けませんか?あなたが邪魔しなければ簡単な方法を教えて差し上げます!私に食べられればいいのですよ。もう、面倒などと考えなくても問題ありませんよ」
ボクは、こいつとの戦いが面倒なので、全力でやることにした。
一瞬で、一撃で、一発で終わらせる。
「バルニャン!フォルムチェンジ」
バトルモードへ移行したバルニャンを纏って、全力の戦闘スタイル。
「ほう。あなたも変態ができるのですね。どれほどのものか今が試してあげましょう。この圧倒的な魔力を持つ私ですからね。あなたがどれほど戦えるのか楽しみですよ」
余裕を見せるバカ。やつは己の力に溺れている。
「今、お前に出会えた幸福に感謝する」
「どういう意味です?」
ボクは、面倒くさいことが嫌いだ。
長々と相手の力を見定めたり、相手の強さを確認する戦闘狂でもない。
「もう言葉はいらない。それすら面倒だ」
ボクはバルニャンで出せる最高速度で、やつの前に移動する。
「なっ!私よりも速いですって!!!」
「【怠惰】よ」
「くっ!なんですか?!あなたは!!!」
バルニャンを纏った拳に力を込めて、【暴食】へぶつける。
「そんなもの!!!」
逃げようとする【暴食】
だが、その動きは鈍く速度を失っていた。
自慢の飛翔能力が全く使えていない。
「なっ!」
全身が縛り付けられたように動けていない。
チラリと振り返れば、ノーラが属性魔法によって縛り付けていた。
どうやら致命傷は避けていたようだ。
彼女なりの意地を見せたのだろう。
「お前は、まだボクの前に現れるべきじゃなかった。もっと隠れて力をつけ、迷いの森を完全に掌握するまで、じっと我慢していればよかったんだ」
ボクの拳が、やつの心臓部を貫く。
「バカな!この私が!!!」
もう話す声も聞きたくない。
「死ね!」
体を真っ二つへ引き裂いて、さらにバラバラに切り刻む。
「なっ!なにっ!!!」
最後の声を聞きながら、ボクは奴を細切れに切り刻んだ。
それでも化け物が簡単に死ぬとは思えない。
【怠惰】の魔力で全ての肉片を包み込んで消滅させる。
「お前は強い。強いが若く力をつけたばかりだ。今の力に溺れたお前に出会えて幸福だったよ。お前は、自分よりも強い者を相手にした時の戦い方を理解していない。それは自分よりも弱い者ばかりに寄生して、相手を圧倒する行為ばかりしていたからだろう」
魔力を強めていく。
「貴様には【怠惰】をくれてやることすら生ぬるい」
魔力を全開にして押しつぶす。
《それを、壊すことは許せんな》
絶望……
全ての時間が止まったような錯覚すら覚える。
全身を押しつぶされるほどの圧力に体が言うこと聞かない。動けない。
突然、降り注いだ圧力に息をすることも辛い。
それでも顔を上げると、漆黒の羽を生やした黒衣の男が立っていた。
どうして奴がここにいる? ボクはこの男を知っている。
「ふむ。我が血脈に連なる者か……まだ未熟ではあるが、よく鍛えている。我に届くかはわからぬが、面白い」
その顔はデスクストス公爵に似ていた。
強さは別格……対峙してわかる異常性、本物の怪物がそこにいる。
「【憤怒】のマオウ!」
絞り出すように声を出した。
漆黒の男は頬を歪めて笑みを作る。
「ほう、我を知るか?すでに我を知る者は、この世二人とおらぬと思っていたが本当に面白い。博識な貴様に免じて、この場にいる者たちの命は助けよう。代わりに【それ】は連れて行くぞ」
【それ】と言われた蝿だった物は、ボクによって切り刻まれて風前の灯だ。
あとは再生できないように圧縮して終わらせるはずだった。
「どうする……つもりだ?」
「何、そんな姿でも、我の眷属なのだ。ペットの面倒をみるのは、主人の義務であろう?くくく、久方ぶりに我が血脈と話をして楽しかったぞ。我が血は貴様らに力を与え、この地に繁栄をもたらした。そろそろ刈り取りを始めても問題はあるまい?我は気が長いほうだ。ゆるりと楽しむとしよう」
ボクの前から蝿の残骸は消え去り、魔王の手元へと残骸が移動する。
「我が血脈に連なる者よ。貴様が持つ力の一端は、我の血によって発現したものだ。それをどう使おうと貴様の勝手ではあるが、我を楽しませる義務があることを忘れてくれるなよ」
突然表れて、【暴食】を連れ去っていく【憤怒】の魔王。
圧力が消滅した後に、ボクは全身から汗を吹き出していた。
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あとがき
どうも作者のイコです。
第五章前半終了です。
いつも読んで頂きありがとうございます。
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