第165話 冒険者の仕事をしよう 7
鉄扇を食した蝿は嫌悪感に溢れた声で叫び後を上げた。
同時に全てを見ることが出来る多角視線によって、一瞬でこちらの戦力を把握したのだろう。もっとも弱い者の背後へと瞬時に移動していた。
巨大な身体とは打って変わり、高い飛翔能力を秘めていることが、今の一瞬で判断出来る。目の前にいるノーラ先輩が強者であることを判断して、セシリアとメイドの背後へと回り込む。
「キエェェェッェ!!!!」
奇声を上げて巨大な口を開いた。
「さすがに目の前で、それをさせるわけにはいかない!」
ボクは、敵が現われた瞬間にオートスリープアローと索敵を同時発動していた。
奴が瞬時に移動していようと、魔法はその場に発動する。
「グルシュ!」
突然現われたオートスリープアローに対しても、奴は瞬時に反応してセシリアたちではなく。矢を食らう方に意識を向けた。
「美味!!!!!!!!!!!!!!これほどのに芳醇な魔力!味わったことがありませんよ!!!!!あなた!あなたはメインディッシュです。どうぞお待ちくださいませ。あちらのデザートの前には食べてあげますよ!まずは前菜を片付けてしまいますのでね」
ノーラ先輩をデザートと言って、ボクをメインディッシュ呼ばわりしてくる。
不快だ。とてつもない嫌悪感を覚える。
オレンジの魔力は、紛れもない大罪魔法の魔力を感じる。
言動から【暴食】?の大罪なのだろう。
魔物に大罪魔法が宿るなんて最悪だ。
人よりも遙かに身体能力が高く。
小さな蝿であれば、人が叩いて殺すこともできた。
だが、特殊個体として成長を遂げた。
今の奴がどれほどの強敵なのか、想像もできない。
立身出世パートでもないのに、ボスキャラが出てくるなんてどういうことだ?
「おやおや、言葉も出ませんか?私も最近、言葉という物を覚えたばかりです。
誰かと話したいと思っていたのですよ。まぁ全員食べてしまうので、いつも話は一瞬で終わってしまうんですけどね。このように!!!」
そう言って今度はクウの前に移動した蝿をバルニャンが横っ面を叩いた。
蝿の速度に対応出来て居るのは、ボクとバルニャンだけだ。
ノーラ先輩は、本来速度を度外視する属性魔法を使う。
目で追えていても対処法がないのかもしれない。
蝿は相手の魔力すら食べてしまう恐れがある。
「キェエエ!!!なんですあなた!許しませんよ!私の顔を殴るなど!」
蝿は、自分を高尚な存在だとでも思っているような口ぶりで話す。
「なんだい?殴られるのが嫌いなのかい?」
ボクはバルニャンと挟み込むように殴りまくった。
魔力を纏わずに、手が汚れるのが嫌なのでグローブをつけて殴った。
奴は魔力を帯びた物、魔力を感じることには長けているようだ。
単純な力にはそれほど強くはない。
「クウウウウウ!!!!わっ、私がこんな下等生物に!!!許しませんからね!この姿が私本来の姿だと思ったら大間違いですよ!私には後、二段階の変態があるんです!」
変身ではなく、変態?まぁ虫だから合っているのか?
「なら、やってみろよ!」
「キエエエエェェッェェェ!!!」
全身にオレンジ色の魔力が吹き荒れる。
どうやら、変態とやらは相当な魔力を消費するようだ。
ボクは現在の奴ならば簡単に倒せると判断して、シロップとエリーナに避難の指示を与える。ノーラ先輩だけは、ボクの指示に納得できない様子だった。
「わっちの身はわっち自身で守りますよって」
シロップが声をかけても動かないのなら仕方ない。
変態を終えた蝿は、先ほどよりも身体は小さくなった。
蝿としてフォルムは、人に近いような骨格を作り出し、四本の腕と蝿の顔、それに羽だけが残されて、醜悪さは先ほどの数倍増したように感じられる。
「どうです?美しいでしょ?より強さを追求した私の姿です。今の私は先ほどよりも速くて強い!」
先ほどと同じように避難して距離を取ろうとするセシリアとクウを付け狙うのは、奴の性格が含まれているのかもしれない。だが、彼女たちには、ボクが作り出した。
「なっ!なんですこれは!」
「いらっしゃい。わざわざ罠にハマるなんてバカな奴だな」
魔力を食らうことが出来るのは、どうやら口からだけのようだ。
奴を縛る魔力の鎖を断ち切ることは出来ない様子だ。
デバフ効果を含んだ魔力の鎖を罠として用意していた。
「エリーナ!」
「はい!リューク様。アイスショット!」
「我儘姫!」
「チェスト!!!」
エリーナの属性魔法が、シロップとセシリアの斬撃が蝿を襲う。
「舐めるな!!!」
掴まっていたデバフ魔法の鎖を強引に吹き飛ばし、左右の手を一本ずつ犠牲にして攻撃を回避する。
「どっ。どうして私の速度についてこれたのですか?目で追えたとしても反応できないはずです」
「お前の動きは確かに先ほどよりも速い。だけど、その動きが予測出来るなら捕まえてしまえばいい」
「くっ!なんなんですか?あなたは?」
「虫風情が、粋がるなよ」
ノーラ先輩も冷静に対処すれば、この程度の相手ならば対処出来ただろう。
だが、初手で油断したが故に武器を奪われ相手を強化してしまった。
「舐めるなと言っているでしょうが!!!ならば、あなたから殺して差し上げますよ!!!」
そう言って向かってくるに蝿に対して、ボクは闘気で作り出した結界を半径二メートルほどに作り出す。
「私の動きに付いてこれるはずがありません!」
虫の動きは、ボクよりも遙かに速い。
反応したり、見てから動いては絶対に勝ち目はない。
だからこそ、結界を張る。
「グギャッ!」
飛び込んで来た蝿の顔面を裏拳で殴り飛ばす。
それでも向かってくる奴の羽を千切り、地へ突き落とした。
「なっ、何故!どうして私の動きが」
「お前はまだ、生まれたばかりなのだろう?世界について知らないことが多すぎたようだ」
「嫌だ!死にたくない!もっと、もっと食べたい!!!!食べたいんだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
オレンジ色の魔力が爆発して、奴の身体を最終形態へと変態させていく。
醜い巨大な蝿だった奴は、より人へ近い身体に変貌を遂げて羽だけを残していた。
虫人とでも呼べば良いのか?向けられる威圧はこれまでの比ではない。
「リューク様?」
エリーナの声に奴の顔がボクと似ていることが分かる。
「ふむ。スゴイ力ですね」
髪は無く。服の代わりに全身には体毛?を纏い。体は女性のように曲線がある。
背には蝿らしい短い羽を残したまま、特殊な存在へと昇華を遂げたようだ。
「どれ、試してみましょう」
そいつが指を上げた瞬間、ボクは恐ろしい予感がして魔法を発動していた。
「【怠惰】よ!!!」
みんなを守るために大罪魔法で障壁を張った。
だが、それすらも貫通できる魔力で作り出されたレーザー光線は、一人で戦場へ残っていたノーラ先輩の腹を貫いた。
「なっ!」
自分の身体に傷が付くなど思ってもいなかったのだろう。
ノーラ先輩は驚いた顔をして、崩れ落ちていく。
「ノーラ!」
ボクは初めてノーラを呼び捨てにした。
「おやおや、視線を外す余裕があなたにおありなのですか?」
ノーラに気を取られて、結界が乱れてしまった。
奴が背後に現われて、ボクを殴り飛ばした。
「先ほどはよくもやってくれましたね。お返しですよ」
一撃を受けただけで視界が歪む。
いったいどれほどのパワーなのか?
自分の身体に回復魔法をかけて立ち上がる。
子供の頃から回復魔法は得意なんだ。
「しぶといですね。ですが、おわかりになったでしょ?あなたでは私に勝てない。お仲間が食べられるのを見て、メインディッシュらしくしていなさい」
回復魔法をかけても、霞む視界はすぐには戻らない。
「シロップ!バルニャン!」
ボクは、この場で信頼している二人の名を呼んだ。
「はい!」
「(^^)/」
二人から意志が伝わってくる。
「シロップ。ノーラの手当を」
「はっ!」
「バルニャン。ボクの援護を」
「(^^)/」
「エリーナ!」
「はい!」
「覚悟を決めておけ」
この相手は強敵だ。
倒せるのかわからない。
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