第164話 冒険者の仕事をしよう 6
魔物が空を飛ぶ。
チリス領に入ってから一週間ほど経った。
マーシャル領との領境が近づいてきた。
迷いの森の一部が、チリス領内にも侵食していて魔物の量が以上に多い。
「なるほどね。領境で歓迎されるわけだよ!」
「邪魔やイネーーー!!!!」
魔物の中心に降り立ったノーラ先輩が、属性魔法全開で、魔物を吹き飛ばしている。
気合いの入った声と共に振るわれれる猛威は、魔物たちなど紙屑のように軽々と吹き飛んでいく。
「シロやん! 行ったへ!」
「はい! ノーラちゃん!」
忠犬はっちゃんを読んでから、ノーラ先輩のシロップへ向ける目の色が変わった。
犬の獣人であるシロップを可愛いと言い出して、ボクのために尽くすシロップを見て、忠犬だ!と騒ぎ出した。
シロップはシロップで、ボクの忠犬と呼ばれたことを誇らしげに胸を張って受け入れたことで、二人の仲が急激に良くなった。
「私も負けてられないにゃ!」
「はい!いきます!」
ノーラ先輩は、ボクに絵本をねだるようになり、さらに二冊の本を提供した。
・長靴を履いた常識的な猫
・頑張るウサギはドラゴンにも負けない。
と呼ばれる絵本を提供しておいた。
【長靴を履いた常識な猫】は、自分が裸であることに気づいて服作りをする絵本だ。恥じらいや服を作る知識を模索するところが面白くて、結構いいことを言ったり、やったりするので読んでいて面白い。
【頑張るウサギはドラゴンにも負けない】は、走るのが遅いとドラゴンにバカにされたウサギが、ドラゴンと競争して、ドラゴンが余裕で勝てると寝ている間にウサギが昼夜走り続けて勝利する話だ。
どっちもノーラ先輩は気に入った様子で、何度も読んでいた。
「ルビやん。撃ち落とすよって!」
「はいにゃ!」
「クウやん。トドメ!」
「はいです!」
いつの間にやら、ノーラ先輩を中心に三人娘がチームを組んで戦いを成立させている。
獣人の良いところは相手の強さを認められるところだ。
ノーラ先輩の強さを三人が認め、三人がお気に入りの動物に似ているということで、ノーラ先輩が彼女たちを気に入った様子だ。
「この辺は終わりでありんす」
森だった場所は、全てを薙ぎ払われて、野原が広がっている。
「リューク様!!!」
粗方、敵がいなくなった戦場でボクを呼ぶ声が聞こえてくる。
「うん?ああ、エリーナじゃないか?どうしてこんなところに?」
野原になった森だった場所に現れたのエリーナとアンナ、それにチリス領のご令嬢である、セシリア・コーマン・チリスだ。
「それはこちらのセリフです!!!どうしてリューク様がここにいるんですか?それにこの光景はなんですか?砦からでも魔物が空を飛んでいるのを見えましたよ!」
ボクがエリーナと話しているところへ、ノーラ先輩がやってきた。
「なんどす?あんさんは?」
「ノーラ先輩。我が国の王女様の顔ぐらいは覚えておこうね」
「王女?ふ〜ん、あんさんが王女様ねぇ?わっちはノーラ・ゴルゴン・ゴードンでありんす」
「あっ、あなたが最強のゴードンを継ぐ者ですか。私は、エリーナ・シルディ・ボーク・アレシダスです」
「リュー様。片付いたから、次の本を欲しいでありんす」
「すっかり本にハマったみたいだね」
「字ばかりの本はあまり好きではありません。でも、絵が付いていれば面白いと思えるでありんす」
ボクはポーチから、【真デレ王女とオタクメイド】という恋愛小説を取り出した。
絵本はそれほど持ち合わせがない。
恋愛小説はカリンの趣味でいくつか用意してある。
挿絵が入っているので、他の小説よりも読みやすいはずだ。
「これでも読んでみて、絵本はこの間の三冊しか持っていなくてね。これは挿絵もあるから読みやすいと思うよ」
「わかったでありんす。シロやん!」
「はい。ノーラちゃん」
「一緒に読んで欲しいでありんす!苦手なところ教えてくれなんし」
「わかりました」
シロップとノーラ先輩は姉妹のように仲良くなっている。ノーラ先輩もシロップの強さを認めて、素直に甘えられているようなのはいいことだ。
完全に放置してしまったエリーナを見る。
「ごめんね。お待たせ」
「いえ、ゴードン令嬢は自由奔放な方だと聞いていましたので……でも、どうしてリューク様と一緒にいるのですか?」
エリーナ以外の面々は、ノーラ先輩から受ける圧に気を保つのがやっとだったようだ。
「改めまして、チリス領の危機を救って頂き感謝いたしますわ!デスクストス子息殿」
初めて会った時は、世間知らずのお嬢様といった感じだったけど。
今の彼女は武人として、鎧を纏って体よりも遥かに大きなバトルアックスを肩に担いでいる。
「チリス令嬢殿。ボクらは冒険者としての仕事をしただけだよ。報酬さえもらえれば問題ない」
「……報酬はお渡ししますわ。ただ、お願いが」
チリス令嬢が、何かを言いかけたところで来客が訪れる。
「なんですかあれは!!!」
ボクはゾワリと嫌悪感を抱いてしまう。
「あれはなんだ!?」
ボクが感じたのは、嫌悪感だ。
現れた巨大な蝿の魔物に、嫌な予感が止まらない。
誰も感じていない様子で、驚く素振りしか見られない。
誰よりも早く動いたのはノーラ先輩だった。
「今、いいところでありんす!邪魔をせんでくんなし!」
闇魔法で引き寄せて、鉄扇をお見舞いする。
ノーラ先輩の戦闘コンボが決まったように見えた。
だが!
巨大な魔物は、ノーラ先輩の鉄扇を口に含んで飲み込んだ。
「なっ!」
「ビッっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ美味!!!!!!!!」
巨大な蝿は人語を話して、ノーラ先輩の魔力を帯びた鉄扇を食べて喜びの声を発した。
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