第161話 冒険者の仕事をしよう 3
チリス領への道のりはそれほど遠くはなかった。
時間にして、三日ほどでチリス領の領境に到着することができた。
領境では、冒険者証を提示するだけで、チリス領へ入ることが出来てしまう。
衛兵の方からは、歓迎するような言葉まで言われてしまう。
「強い冒険者が来てくれるのは大歓迎です。ありがとうございます!」
まだ、年若い衛兵は期待に満ちた顔で、御者をしているシロップを見ていた。
「期待に応えられるかはわかりませんが、最善を尽くしましょう」
「はい!ありがとうございます!」
領境の門を通って、チリス領へ入って行くと、海沿いに村々が見えている。
カリビアン領が、リゾート地である地中海風の街並みとするならば。
チリス領は、荒れ果てた漁村といった様子の小さな村々が見えていた。
空は、どんよりと雲におおわれて、道は整備が行き届いていない田舎道という風景が続いている。
馬車で通るには車輪を痛めそうな小さな石が散らばっている。
衝撃はバルニャンのおかげで全く苦にならない。
チリス領は、立身出世パートで人材確保のために訪れる程度で、大したイベントも起きない。
そう思っていたのに、チリス領の魔物出現率がヤバい。
ポケットなんちゃらの大量発生じゃないんだから、一歩踏み出すだけで遭遇するとかマジで面倒だ。
しかも、一体一体のレベルが高い。
スリープの魔力消費が多い上に、適当に魔物をこちらにすり抜けさせなければ、ノーラ先輩の発散にならない。
鉄扇を振り回して気持ちよさそうに、魔物たちを吹き飛ばす姿は、見ている分には清々しい。
何よりも、ノーラ先輩に感化されてシロップたちも楽しそうだ。
「クウ!二人で連携を取ります!ルビー」
「はいにゃ!」
高ランクのルビーとシロップが、それぞれモンスターを倒しながら、クウがトドメを刺してレベルをあげていく。
こちらも三人で楽しそうに冒険者をしている。
馬車を停車させて、各々が飽きるまで狩りをすることが決まった。
ボクはスリープを使って眠らせた魔物を、バルニャンに魔石回収に行ってもらっている。
動いていない馬車でも、傾いているような気がするので、透明なバルを作り出して馬車の中で寝ているのはボクだけだ。
チリス領は、海風が強く。
海鳥の魔物も強力なので、誰か馬車の守りをしていなければ襲撃を受けてしまう。
「本当に戦闘をしないのでありんすね」
「一番最初に戻ってくるなんて、珍しいね」
「少し飽きてきたでありんす。確かに強くはありんすが、同じような魔物をいくら倒しても単純な作業でしかないでありんす」
ノーラ先輩の発言に、もっと特殊な個体で、強い魔物じゃなければ意味がないと言っているように聞こえる。
バルニャンに2個目のマジックポーチを持たせてあるので、魔物の回収は完璧に済ませている。
「数の暴力は?」
「そんな物はわっちには関係ないでありんす。近づけたくないものはブラックホールで別の場所に飛ばして、倒したい物は、引き寄せれば問題ないでありんす」
少し疲れたのか、それとも本当に飽きたのかはわからないが。
馬車に乗り込んできたノーラ先輩が、ボクに近づいてくる。
「今は、リュー様のクッションが羨ましいでありんす。どうかもたれさせてくれんやろか?」
数日寝ていなくても活動できる超生命体のノーラ先輩ではあるが、カリビアン領でボクの魔法を受けて寝てから、睡眠が楽しいそうだ。
「安心して眠れる。それがこないに気持ちええなんて思いもしませんでしたでありんす。不思議と寝てたあとはイライラする気持ちが治っとるんです」
誰しも睡眠は大事なのだ。
ボクは朝のモーニングルーティンこそ、決まった時間にやっているがそれ以外の時間は寝て過ごしている。
子供の頃のように魔力の枯渇を感じることはない。
訓練も一通り習得できたと思えば、体を鍛え、技を注ぎ済ませる時間を取れば、それほど根を詰めて訓練をすることも無くなった。
「それはよかった」
ボクは透明なミニバルを出現させて、ノーラ先輩を寝かしつける。
スリープを使って睡眠三時間コースに設定する。
ノーラ先輩にとって、睡眠はご褒美タイムのようになりつつある。
「主様。ただいま戻りました」
「戻ったのにゃ!あらかた片付いたにゃ。夕食にするにゃ!」
「本日も、ありがとうございます」
獣人三人娘は、激しい運動をして帰ってきた。
ダンジョン以外では、魔物は吸収されることなく素材を剥ぎ取って、魔石を抜き去り残りは埋葬するか、火葬するのが慣わしだ。
そうしなければ流行病を生み出す元になる。
冒険者たちは、先人の教えとして、それを知っていた。
ルビーが加わったことで、冒険者としてのルールや、イロハといった基本的な知識を教えてくれるので、随分と助かっている。
シロップは、強さでA級に上り詰めた。
魔物の剥ぎ取りや、必要部位がどこなのかはわかっていないそうだ。
彼女たちが狩りをして、ボクが夕食を作る。
ルビーは、魔物の肉を加工する技術も知っていたので、魔物肉の血抜きをしてもらって下拵えをしておいてもらう。
塩と胡椒を絡めて、塩焼肉やテールスープ風のスープを作る。
魔物肉への抵抗感はないのかって?あるわけないよね。
むしろ、ゲテモノはその土地の味だと思って試してみたい。
見た目には、魔物も動物も区別がしづらい。
単純にツノが生えているか、いないかだけの個体なども存在するそうだ
「まぁ強いやつを片っ端からぶちのめして、クウも含めて、レベルをカンストさせよう」
ボクのレベルはカンストを終えて、次のレベルアップから限界突破が発動する。
誰にも言っていないけど、ボクは内心でレベルの上限を超えたことを喜んでいた。
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