第159話 冒険者の仕事をしよう 1
ボクは今、人生の充実感に満ち溢れている。
《リュー》の街に来て、ノーラ先輩襲来や街の視察などでバタバタはしていた。
それ以降はゆっくりと過ごせているのだ。
これはボクが望む怠惰な生活を送れているぞ。
「わっちは暇でありんす」
そう言ってボクの前に仁王立ちするのは、美しき居候のノーラ先輩だ。
「そんなことボクに言われても知らないよ。ボクはバルに乗って本を読んでいるだけで満足なんだから」
「つまらないでありんす」
服を引っ張らないでほしい。
ボクの大事な一張羅(パジャマ)が台無しじゃないか。
「だから〜、はぁ〜それで?何をして欲しいの?」
「面白いことを考えてくれなんし」
「面白いこと?」
無茶振りもいいとこだと思う。
なんで、そんな純粋な顔でボクに期待しているのかわからないんだけど。
「わっちは面白いことが好きでありんす。戦うことは楽しいでありんす。男女の恋愛も楽しそうでありんす。どっちもリュー様に断られたでありんす」
ボクのことをあんさんからリュー様に変えたのはツッコまない。
ノーラ先輩の行動を一々ツッコんでいてはキリがない。
「別に戦うのも、恋愛するのも否定したわけじゃないよ。戦いたいなら冒険者になって。魔物を相手にすれば?恋愛だって、別にボク以外にも相手はいるかもしれないでしょ?」
三日ほどは街を散策して、ヒマを潰していたようだ。
まぁ、色々と苦情が上がってきて閉じ込めたわけだけど。
歩く天災、この場合は人災?と言えばいいのかな?
弱い人はノーラ先輩の気に当てられただけで意識を失う。リューの街は老人や病人は多くないので、死人は出ていない。
だけど、子供や女性の中には気絶した人が出ている。
ノーラ先輩には気を抑えるように言ってみたが、本人的には十分に抑えているそうだ。ボクは、あまり気にならない。
だけど、レベル差があるアカリやミリルなどは、少ししんどそうな表情をしていた。
なので、ノーラ先輩を自由に街の中を散策させることもできなくなってしまった。
「む〜つまらないでありんす!!!」
癇癪を起こせば地震が起きる。
どれだけ凄いんだよ。海辺で地震はやめてほしい。
「ハァ〜それならボクも一緒にダンジョンに行けば満足なの?」
「えっ?いいんでありんすか?」
「そうしないと満足しないんでしょ。ボクは動きたくないから、戦闘は任せるけどいいの?」
「いいでありんす。思いっきり発散しに行くでありんす」
ボクはシロップに声をかけて、ルビーがいる冒険者ギルドへと顔を出した。
お供にはシロップとクウ、それにノーラ先輩を引き連れて冒険者ギルドに入っていく。
新人冒険者たちは、ノーラ先輩のことを知っている様子だ。ボクらが冒険者ギルドに現われると、青い顔をしてこちらに視線を向けないようにしている。
「あっ、あの、リューク様?どのようなご用件で?」
冒険者ギルドの受付をしているのはマリアさんと言って、王都の冒険者ギルドで受付をしていた女性だ。
ルビーがお世話になったと言うことで、スカウトされたそうだ。
「なんでもいいんだけど、強い魔物がいる場所ってある?」
「へっ?強い魔物ですか?カリビアン地方はダンジョンが豊富ではありません。海の魔物が危険なぐらいで……あの、こちらでしたら」
マリアさんが出してくれた依頼書には、場所がチリス領と記されていた。
「チリス領?」
「はい。最近、北方のマーシャル領にある迷いの森が活性化しているそうです。チリス領にも被害が出ているそうなのです」
拠点を離れるのはめんどうだけど、この辺に強い魔物がいないなら仕方ないね。
ノーラ先輩の発散になるくらい強い魔物がいてくれないと困る。
ボクは深々とため息を吐いて、この依頼を受けることにした。
「チリス領の地理がわからないから、誰か案内できる人はいる?」
「それなら」
マリアさんが視線を向けた先を見る。
「私ができるにゃ」
「ルビー?」
「そうにゃ。私は冒険者だった頃に、迷いの森周辺を拠点にしていたにゃ。チリス領やマーシャル領はよく知っているにゃ」
「そうか、ならルビーに頼めるかい?」
「任せるにゃ」
ルビーを加えて、チリス領への冒険者パーティーが完成した。
馬車の御者は、シロップが務める。
カリビアン領では、馬車を引くのは真っ白な牛?だ。
アダックスと呼ばれる生き物が馬車を引く。
馬よりは遅いのだが、荒野でも長く生き残る術を持っているそうだ。
馬と違って魔物と対峙しても逃げることなく、長い角で撃退するほど勇猛な生き物なのだ。
カリビアン領で生き抜くために強くなった魔物の一種なのかもしれない。
「なんや、誰かと旅をするって心地ええどすなぁ~」
馬車の御者はシロップとクウが務めてくれるので、馬車の中はバルがクッションになり、ボクとルビーそれにノーラ先輩が後ろで風を浴びている。
「今までは仲間はいなかったのか?」
「かー様と出かけたことはありんす。他の騎士たちは、いつも別の場所におりんした。騎士たちよりもわっちとかー様の方が強いでありんす」
お姉様の周りには屈強な男達が執事も含めて控えていた。お姉様なら、ノーラ先輩に執事やメイドの一人でもつけそうなものだ。ノーラ先輩側がそれを拒否したのかな?
「驚いたんは、ここにいる子猫ちゃんたち三人は全然わっちのことを恐れてないのが面白いなぁ~」
ボクとノーラ先輩以外の三人は獣人だ。
身体能力は人よりも高く。
クウはまだ未熟ではあるけど、ルビーとシロップは冒険者としてA級まで己を鍛えていることも自信に繋がっているのだろう。
「別にお前は強いし、本能では恐いと思っているにゃ。だけど、私たちは自分たちの主を決めているだけにゃ」
「主?とはなんどす?」
「主は、我らがあるじのことにゃ。リュークを守るためにゃら。私たちは命を惜しまないにゃ」
ルビーの意外な決意をボクも知らなかった。
告白を受け入れたけど、ルビーがボクのことをそこまで思っているとは思っていなかった。
「なんや、ええねぇ~羨ましいわ」
ノーラ先輩からドス黒い魔力が立ちこめたので、ボクはストップをかける。
「そこまで、今は仲間だからね。手を出したらダメだよ」
「なんや、そんなことで戦ってもえらえるんやったら」
「ノーラ先輩」
ボクは脅しをかけるのではなく、呆れた声で促す。
「はいはい。わかりんした。別に嫌われたいわけやないよって」
黒い魔力を抑えたノーラ先輩はふて腐れたように、馬車から外を眺めて黙ってしまった。
ルビーは気丈に振る舞っていたけど、肩を震わせて「フーフー」と威嚇の息遣いをしていた。
ボクは頭を撫でて落ち着かせる。
前途多難な旅路が始まろうとしていた。
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