第156話 視察にいこう

 ミリルが仕事に戻った後は、本を読みながらルビーがやって来るのを待った。

 ノーラ先輩に出かけるのを邪魔されるかと思ったけど、ノーラ先輩の部屋を覗くとぐっすりと眠っていて起きそうにない。そんなにも眠かったのかな?気持ちよさそうに寝ているので起こすのが申し訳ない。


 ルビーがやってきたので、バルニャンに乗って宮殿を出た。


「お久しぶりですにゃ」

「そうだね。ルビーはこの街で冒険者ギルドの訓練講師をしているんだって?」

「そうにゃ。私はA級冒険者にゃ。この街は出来たばかりにゃ。だから、街にいる冒険者は駆け出しばかりにゃ。鍛え甲斐があるにゃ」


 メイドをしていたときミリルは失敗をよくしていたが、ルビーは卒なく仕事をしているイメージだった。それは与えられた仕事をただしているだけという印象だったけど。

 今のルビーは冒険者という仕事を心から好きやっているのだと、見ていてわかる。


 楽しそうな顔をして冒険者について語っている。


「ルビーは、冒険者が好きなんだね」

「う〜ん。好きかはわからなかったにゃ」

「わからない?」

「そうにゃ。ただ、それ以外の生き方を知らなかったにゃ」

「そうだったのか」

「そうにゃ。でも、今は学園に行ってから勉強をして、ダンジョンに挑戦して、リューク様のお屋敷でメイドの仕事をさせてもらって、こうやってまた冒険者をして思うにゃ」


 清々しい顔をしたルビーは、良い顔をしている。


「私は自由な冒険者の生き方が好きにゃ」


 ルビーは笑顔で好きだと宣言する。


「そうか、それはよかったな」 

「でも、リューク様の番になることも諦めてないにゃ」

「うん?そうなのか?」

「リューク様は、昨日化け物を連れて来たにゃ」

「ノーラ先輩のことか?」

「そうにゃ。リューク様以外で、恐いと思った女にゃ」


 ノーラ先輩に気付けていた者が、この街にどれくらいいるだろうか?

 ボク以外で気付ける者がいるとすれば、シロップぐらいだと思っていた。

 A級冒険者のルビーは気づいていた。


「私が一番、強い子を産めると思っていたから、あの化け物がいたら危ういにゃ」


 ルビーが意外なことを考えて、ボクは驚くと共に笑ってしまう。


「そんなことを気にするな。今日はルビーと二人で視察なんだ。そっちを楽しもう」

「うーん、わかったにゃ」


 それからはルビーの案内で視察を開始する。


 ルビーは冒険者として、街について到着してから調査を行なっていたそうだ。

 街の隅々まで把握しているので、路地裏まで案内できると豪語した。


 王都の三分の一しかない街はそれほど広くはない。

 そう言っても1日で回るには大きい街ではあるので、簡単にルビーが説明してくれた内容を自分なりにまとめてみた。


 六つの区間に分かれる街並みは、


 南北の二つに門があり、それぞれが街へ出入りするための入り口になる。

 それ以外では、西にある港から船で入港する手段も存在している。


 南側の門から出れば、シーの街へ続く街道が広がる。

 北側の門から出れば、チリス領へ向かう街道が続いていく。


 基本的には国境付近を出入りするとチリス領に警戒させてしまうので、冒険者は南側の門近く拠点を構えてもらって、カリビアン領内のダンジョンや街道のモンスター討伐を任される。


 そのため南門付近に、冒険者ギルドや冒険者たちの訓練所や宿、酒場が建てられている。


 大通りを挟んで反対側の区間には、鍛治職人やアイテム職人など、冒険者たちと関係する商店と工房があり、鍛治師たち作業場も組み込まれている。


 中央には宮殿があり、噴水がある広場と宮殿を囲う石の壁。

 左右の区間にはメイド館と執事館が宮殿を挟むように建てられている。


 主人に尽くし主人を守る部隊だそうだ。


 北側に近づくにつれて、怪しげな建物が増えて、こちらはアカリやリベラの魔法研究所があるそうだ。

 海から一番遠い東側には、ミリルの働く医療所と、カリンが開発した料理を提供するレストランが並ぶ飲食店街が広がっていた。


 街の中はカリンやアカリの稼ぎ以外にも冒険者の魔石や魔物の材料の加工、鍛治師やアイテム師たちの新アイテム開発。メイドや執事たちの派遣業もしている。


 派遣って潜入の間違いでは?と一瞬怖いことを思ったが、考えないでおこう。

  

 工場区、商業区の管理はアカリ(リベラが手伝い)

 医療区、飲食区の管理はカリン(ミリルが手伝い)

 冒険者区、メイド執事区はシロップ(ルビーが手伝い)


 妻たちが、街の管理をして働いてくれている。


 ボクは怠惰だねぇ。


「一通り見て回ったにゃ!」

「お疲れ様。結構広いね」

「そうにゃ。これを一年ぐらいで作ってしまった。カリン様とアカリはすごいにゃ。リューク様のために頑張ったと言っていたにゃ」


 二人は本当にボクのことを思っているのが伝わってくる。


「私は、まだ何もできていないにゃ」

「ルビーも冒険者を育ててくれているじゃないか」

「そうじゃ無いにゃ。私には目的があるにゃ。そのために強い人の力を借りたいと思っているのにゃ。リューク様」

「何?」

「私の全てを捧げれば、私の願いを一つだけ叶えてくれるかにゃ?」


 一通り街を回ったことで、すっかりと日が傾いて夕暮れどきの街が見下ろせる城壁の上でルビーはボクに問いかける。


 黄昏時の夜との境目。


 エメラルドの瞳は真っ直ぐにボクを見つめていた。


 ボクは、ルビーの目的を知っている。


 そして、このシーンは本来は卒業式の学園で行われるルビールートのセリフだと知っていた。


 だからボクはルビーにそっと近づく。


「全てを捧げてお前は後悔をしないのか?」

「後悔はしないにゃ!私はリューク様を心から愛しているにゃ、側にいて落ち着いて撫でられて幸せを感じるのにゃ。日向ぼっこをしながら一緒に寝れるのも幸せなのにゃ!リューク様が悪の道に進んでも私はリューク様を守る剣になりたいのにゃ!」


 ルビーの告白は、ミリルとは違った真っ直ぐで彼女らしい物言いに愛らしさを抱いてしまう。


 だから、ふさふさの頭に手を置いてゆっくりと撫でた。


「お前の全てを受け止めよう。お前が望む願いを叶えたい時。力を貸すよ。それがボク自身が選んだ道だとボクも思っているから」


 ボクが受け入れるか不安だったのだろう。


 いつも常識人で、澄ました顔をしているルビーがクシャクシャな顔で涙を浮かべた。


「あっ、ありがどうにゃ!!!!嬉しいにゃ!!!」


 小柄なルビーを包み込むように抱きしめて、彼女が泣き止むまでルビーの背中を撫で続けた。


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