第153話 来訪者
ボクがリューに来訪することは伝えていた。
伝えてはいたが、これは……想像していた街並みよりも立派だった。
石で作られた城壁は外敵から防備を考えられて強固に作られている。
門を通ると、海と繋がる港は大きな船の出入りまで考えられている。
それとは別に、プライベートビーチのような砂浜も用意されていて、ゆったりと出来る観光地のような空間が広がって見えた。
外からでも見えていた真っ白な宮殿へと繋がる大通りには、綺麗な石畳が敷かれて道が整備されている。
区画整理をされた建物は家同士が密接に並んでいて、風が強いカリビアン領に適した建て方なのだろう。
職人たちの趣味なのか、色とりどりなカラフルな家が隙間を作らないように建てられて街並みを彩っていた。
そんな大通りにズラリと人が並んで、膝をつき頭を下げている。
「「「「「「「お帰りなさいませ!!!!我らが主様」」」」」」」」」」
一斉に発せられた言葉にクウは耳を縮めて、メルロはビクッと怖がっていた。
彼らの挨拶が終わると、中央を堂々とした足取りで歩いてくる二人がいた。
「ようこそダーリン!」
そう言ってボクを出迎えたのはアカリだ。
真っ赤なゆったりしたスカートの腰には締め付けるような大きな革コルセットベルトを巻いて、ゆったりとした白いブラウスに真っ赤なリボンで髪をまとめている。
カリビアン映画などに出てくる衣装に身を包んだアカリは、元々がエキゾチックな衣装を好んでいたので着ていたので、よく似合っている。
「リューク様。いらっしゃいませ」
アカリの横には、黒いロングブーツに青いミニスカートタイプのワンピースを着て、白いブラウスと腰ベルトをしたリベラが並んでいる。
「二人は共同研究をしていると言っていたけど、ここでしていたんだね」
「そやで。ここにはウチの研究材料とか、道具とか、全部置いてるねん」
「アカリに研究所を借りて、共同研究をさせていただいております」
二人と話すのは久しぶりな気がする。
嬉しいのだが……道で頭を下げる人たちがいる手前、永くいたくない。
「ボクはどこに行けばいいのかな?」
「もちろん、あれやで!」
「リューク様に相応しい建物です!」
二人が道を示した場所は、真っ白で豪華な宮殿だった。
うん。もうツッコむのはやめよう。
きっと疲れちゃうからね。
大通りを歩き始めれば、顔を上げていく人々に視線を向ける。見たことがある者たちがいた。
ブフ家に奴隷として売られ、傷つき、身体の一部を欠損してのを治した者たち、迷宮都市ゴルゴンでスカウトした職人たちだ。
どうやら彼らはちゃんと仕事を与えられて、生活ができるようにカリンがしてくれたようだ。
身なりが以前に見た時よりも立派になっている。
宮殿の前には大きな広場と噴水があった。
石で作られた壁があり、宮殿と街を別ける門がある。
「どうぞ、我らが主様」
ドワーフの屈強な男が、巨大な門を開いてくれる。
門の向こうには外から見えていた宮殿が広がっていて、広い庭は緑と綺麗な花が咲き誇る。
「綺麗だね」
「そうやろ?これはカリン様の発案やねんけどね。ダーリンは綺麗な物が好きやから、花は外せへん言うて」
「ありがとう。色々な物がボクのために用意されていることが凄くわかるよ」
「設計はドワーフがしました。内装の発明はアカリが手がけて、私は魔道具開発の手伝いをさせて頂きました」
アカリとリベラが共同で開発していたのが、まさかボクの家だったとは………
二人とも誇らしい顔をしている。
立派な建物の中に入れば、天井が高く、長い廊下が広がっていた。
さらに、エントランスには大きく高い階段を登って行けば街並みが一望できるほどの高さがあり、綺麗な街並みが360度、見渡すことができる展望フロアになっている。
街は穏やかで、ゆったりとした空間が広がっていた。
室内は涼しく、一定の気温を保つ魔道具が使われているようだ。
たまに降る雨や、海が見える景色も、全てがボクが怠惰に過ごす為に情緒を整えてくれたんだろう。みんなが色々考えてくれたことが伝わってくる。
「二人ともありがとう凄く嬉しいよ」
「へへ。喜んでくれた?」
「リューク様の願いを叶えたい一心です」
「ようございました。我が主様」
アカリはサプライズを成功させたことに微笑み。
シロップやリベラも嬉しそうな顔をしている。
「ああ。みんな本当にありがとう」
だから、ボクは素直にみんなへ頭を下げてお礼を口にした。
「そっ、そんなせんでええよ!ダーリンに喜んでもらいたかったのはホンマやけど。この街には私たちの夢も詰め込んであるんやから」
「夢?」
「そうです。我々が暮らすのにも十分な施設をたくさん作りました」
「そや!さっきも言ったけど、ウチの魔道具開発研究所やろ。リベラの魔法研究室にミリルの医療所、そんでもってルビーの冒険者訓練所とか、まぁウチらの夢も詰まってるねん」
ボクが聞いていたメイド隊の育成所以外にも、どうやら色々な要素を盛り込んで作られた街なのだそうだ。
鍛治師たちも働けて、その家族たちも住んでいる。
この街は思っていたよりも、面白いことになっているようだ。
「まぁその辺はゆっくり聞かせてもらうよ。明日から視察を兼ねて街の中を見て回るつもりだから」
「そやね。明日からの案内はルビーに頼んでるから、今日はウチとリベラを可愛がってもらうで」
そう言って二人は抱きついてきた。
リベラとは、奥さんでも付き合ってもいないはずだけど……一年次の剣帝杯に一緒にランデブーしたのがきっかけかな?
もうボクはダンに遠慮して拒否はしないつもりだ。
凹凸がしっかりとしたアカリと、スレンダーなリベラはそれぞれが魅力的で愛らしい。
いつの間にか夜へと変貌した街並みは、とても綺麗な景色が広がっている。服を羽織って月明かりに照らされた景色を眺めていると違和感がボクを誘う。
強者の気配とでも呼べばいいのか?
とてつもない化け物が近づいてくる気配。
寝息を立てるアカリとリベラ。
二人を起こさないように彼女を呼んだ。
「バルニャン」
現れたバルニャンに乗って飛び上がる。
気配の主は、確実にこちらを見ている。
ボクだけを誘っている。
対応しなければ街を攻撃する。
そんな気配を匂わせた存在。
怒りと面倒だと思う憂鬱さを感じながら、バルニャンから降り立った。
「ふっふっふっ、やっと会えんした」
和装を身に纏い黒髪長身の美女が、扇子で口元を隠して岩場に立っている。
明らかに違和感があり、強者としてのニオイとでも言えばいいのか、空間が歪んで見える。
「何か用ですか?ノーラ先輩?」
「ふっふっふっ、わっちのことをご存知なんどすえ?」
「ええ。ゴードンお姉様の娘さんで、今年の剣帝杯三位入賞のノーラ先輩でしょ?でも、どうしてこちらへ?」
「わっちはほしい物がありんす。そのためにここにきたんでありんすよ」
そう言ってノーラ先輩から黒い魔力が立ちこめる。
「おいでませ」
グイッと身体が引き寄せられる感覚を覚える。
「《怠惰》よ」
魔力に抵抗するようにボクから紫の魔力が吹き上がる。
「ふっふっふっやっぱり当りどすなぁ~」
「試したんですか?」
「ふっふっふっ、まぁええやないの。さぁ死合いましょう」
強烈な死の匂いが立ちこめて、真っ黒な魔力が吹き上がる。
臨戦態勢に入ったノーラ先輩が楽しそうな笑みを浮かべて動き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます