第152話 格が違う!

 冒険者ギルドを出た僕らは、カリンが待っている小舟へと戻った。

 カリビアン家の屋敷は、小舟が家の中へ入っていくことができるような作りになっている。

 停船スペースまで小舟が入れるので、雨が降っても屋根があって大丈夫な作りになっていた。


「ようこそ我が家へ」


 カリンが出迎えてくれたカリビアン家は、石造り外装とは打って変わり、アラビアン風の絨毯やカーテンで内装をコーディネートされていた。


「へぇ~こういうデザインもいいね」

「ふふ、お父様の趣味なのですよ。海外の製品を使って家をデザインするんです。今は砂漠の国で集めた品々がお気に入りみたいですね」

「良い趣味だね。これでカレーがあれば最高だね」

「カレー?カレーとはなんですの?」


 あっ、料理のことになるとカリンのスイッチが入ってしまう。ボクも詳しく聞かれて応えられる物ではないから困った。


「ターメリックとクミン、コリアンダーっていうスパイスを組み合わせた料理だってことはわかるんだけど。ごめんね。ボク、料理はそこまで詳しくないんだ」

「どれも聞いたことがない食材ですわ!もっと詳しく!匂いや味などお願いしますわ!」


 あっ、これ長いやつだ。


 ボクはやってしまったと諦めて、思い出せるだけのカレー知識をカリンへ伝えることになった。解放してもらえたのは、それから三時間ほど後だった。


 今日からカリンは、カレー作りに着手すると張り切っていた。


「お疲れ様でした。主様」


 部屋には、三人のメイドたちがアラビアン風の透明な衣装に身を包んで待っていた。


「えっと、何その服?」

「カリン様が、カリビアン領は暑いからこの衣装を着るようにと……変でしょうか?」

「いや、まぁいいんだけどね。三人とも凄く綺麗だよ」


 多分、肌が見えないように何かを付けてから、透けた布を巻くんだと思うよ。

 三人とも素肌が完全に透けてるよ。


 シロップは紫のロングスカートに胸にはスカートと同じ色のリボンが巻かれている。

 クウは、黒いベリーダンスのパンツ衣装、全て透けるほど薄い布で作られている。

 メルロに至っては、上下一体形のドレス?こちらも何故か透けている。


「寒くないかい?」

「昼間は暑いぐらいでしたが、夜は冷えるのですね」

「少し寒いです」

「これしかないと」


 三人ともカリンの口車に乗せられたのだろう。

 バルニャンは、カリンの元でカレー作りのお手伝いをしている。


「こっちに来て暖まろう」


 天蓋付きのベッドへ三人を招き入れて、肌を寄せ合って温め合う。


 三者三様の愛らしさを持つ彼女たち、いつもとは違う衣装で過ごしているだけで魅力的に見えてしまうね。


 ―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【sideモンク】


 俺って奴は昔からこうだ。

 めんどうごとに首を突っ込んでしまう。

 ついつい人の世話をして煙たがられる。


 今回もそうだ。

 荒くれ者どもがいる冒険者ギルドに、美人ばかり三人で入ってきたときは驚いた。

 警戒心がないお嬢さん方へ、少しばかり驚かせて注意しようと思っただけだった。


「おいおい、こんなところに綺麗どころ三人で何の用だよ?」


 白い犬耳をした長身の美女。

 ウサギ耳をした小柄な美少女。

 女か男かわからない中性的な容姿をした女?は、クッションに寝転んだまま宙に浮いていやがる。


「黙れ!主様の道を阻むな」

「下郎!ご主人様は、貴様のような人間と話すことはないのです!」


 ええええ!話かけただけだぞ!

 しかも明らかに俺よりも強いぞ!この二人。

 威圧で、ションベンチビリそうだ。

 今すぐ、帰れるなら帰りてぇ!


「なっ、なんだお前ら?ヤベーやつかよ」

「モンクさん!また揉め事ですか!」


 こんなときに限って、冒険者ギルドの看板娘である受付のトゥーリちゃんに見つかっちまった。

 この子は俺たちからすれば娘のような可愛い子で、愛らしいが口うるさい。


「トゥーリちゃん違うんだよ。俺は別に何も」

「もういつもモンクさんは揉め事ばかりで、最高ランクのC級冒険者だって自覚を持ってください!いつも言っているじゃないですか」

「いや、だから、俺は‥…」


 いつもこうだ。世話を焼こうとして煙たがられる。

 ここは黙って引き下がるとしよう。


 その後、トゥーリちゃんがやらかしちまった。

 奴らが冒険者カードを水晶にかざせば、B級だのA級だのと表示され、トゥーリちゃんがデカい声で叫んじまった。俺は聞こえないふりをしてやり過ごす。

 クッションに乗っていた奴は男で、そいつだけはしなかった。


 だが、俺には分かる。絶対に奴はヤベー。


 世話を焼くのも大概にして、関わらないのが一番だな。


 そう、思っていたのに………


「それじゃしばらくの間、道案内をお願いします」


 そう言って俺の目の前に立ったのは白犬獣人美女こと、シロップだ。A級冒険者だった。

 なんでも本来の案内役が別の用事が出来たため、急遽ニュータウンへの案内を冒険者ギルドに募集したそうだ。


 シー周辺は安全だ。

 だが、少し街を離れると途端に危険になる。

 そんなカリビアン領を移動できる冒険者が、俺のパーティーしかいなかった。


「モンクさん!絶対に面倒を起こしちゃダメですからね!」


 そう、トゥーリちゃんに言われてきたが………


「半径100メートル以内にモンスターが寝ているから狩ってきて。あっ、魔石とか素材は君たちの好きにしていいよ。その間の進行も待っているから気にしないで。クウとメルロも行っておいで」

「はい!リューク様」

「わっ、わかった!」

「シロップは膝枕で」

「ふふ、はい、リューク様」


 最初は何を言われているのか理解出来なかった。

 だが、言われた範囲に赴くと、カリビアン名物のサラマンダー軍団がまとめてオネンネしてやがった。

 最初は死んでいるのかと思った。

 だが、寝ているだけで、皮を傷つけることなく仕留めることが出来た。


 これは高値で売れる!俺たちだけで運べない量を簡単に倒せてしまった。


「あっ、あのリューク様。こちらは?」

「うん? 君たちへの臨時ボーナスでいいよ。ボクらはいらないから。魔石ってお金になるでしょ?」


 マジか?!これだけのお宝の山をくれるって!どんな美味しい話だよ!

 しかもサラマンダーはC級の魔物だぞ!

 倒せば経験値も増えて、C級で頭打ちしていた俺らのレベルが一気に上がりやがった。


 経験だけは積んできた。

 だけど、高位ランク魔物を倒す実力が無くて、ずっとC級でくすぶっていた。

 俺たちの壁がこうも簡単に突破できるなんて!!!


「リューク様ありがとうございます!!!」

「「ありがとうございます!!!」」

「別にお礼を言われることじゃないよ。だけど、ボクの可愛い子たちに色目使ったら殺すよ」


 俺はレベルが35に達して、少しばかり調子に乗ったことを理解した。


 リューク様が一瞬だけ込めた威圧は、俺たちなどが逆らってはいけない人だと理解させられる。殺気を受けて、死をイメージできてしまった………


 格の違いを思い知らされる。


 俺は一生、この人の奴隷になろう!命令されればなんでもしようと心に誓った。


「モンク、道はこっちで合ってるの?」

「へい!リューク様!間違いございません。ほら、見えてきましたよ。あそこがカリビアンに新たに作られた都市。ニュータウン【リュー】でございます」

「リューねぇ〜まぁいいけど。ねぇ、ここからでも見えるあの宮殿みたいな建物は何?」

「へい。なんでもあそこにはやんごとなきお方が住まわれるそうです。そのための住居だと住民が話しているのを聞いたことがあります」

「へっ、へぇ~。モンクは何でもよく知っているね」

「へい!冒険者は情報が命ですから!」

「また仕事を頼むことがあると思うから、よろしくね」

「喜んで!」


 道中、なんの苦労もなく本当に道案内だけで終わっちまった。


 だが、俺には分かる。


 リューク様は将来大物になる人だ。


 俺はリューク様を道案内した冒険者として、酒場で自慢してやるんだ!


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