第149話 冒険者登録をしよう

 カリビアン領は、年中常夏のような気候で急に降る強烈な雨が特徴的な熱帯雨林が名物だ。


 カリビアンのシーへ到着して船を降りた。


 三日間でシロップやクウ、メルロも操船を習って楽しそうに船を運転していた。

 ボクは、のんびりと船の揺れに身を任せてバルニャンにもたれて景色を眺めたり、女子を眺めたり、本を読んでいた。


「それではお屋敷にいきましょうか」


 船が停泊すると、カリビアン家の使用人が現れて荷物を運んでいってくれた。


 王都は様々思惑が交錯する政治の中枢という雰囲気が強かったのに対して、領都シーは港街として海外との交易都市として繁栄したこともあり、街行く人々は明るく陽気で逞しい印象を受ける。


 王都では、見かけない海人も普通に街で暮らしている。

 カリビアンの領主が人種差別することなく、素晴らしい統治をしていることがわかる。


 街中には、海路が通っていて小舟で移動ができる。

 船で商売をする者もいて、道行く人と交渉ができるような街の作りをしているのも素晴らしい作りだ。


 ボクらも小舟に乗り込んで、カリンの屋敷を目指して街並みを眺める。

 様々な建物が並んでいて面白い。


「ねぇ、カリン。あれは何?」

「あれは王都にもあるわよ。街に出ないから知らなのね」

「リューク様。あれは私でもわかります」

「そうなの、シロップ?」

「はい。あれは冒険者ギルドです」

「冒険者ギルド?」


 他の建物よりも大きくて立派な建物だったので目に止まった。


 あの有名な冒険者ギルドだったとは、ボクは今まで関わることがなかったので看板すら知らなかった。


「冒険者ギルドかぁ〜ねぇ立ち寄ってもいい?」

「リュークが興味を持つなんて珍しいわね。冒険者に興味があるの?」

「う〜ん。なくはない程度かな。まぁ一度は入ってみたいって感じだね」

「シロップに案内をお願いしてもいいかしら?」

「わかりました」

「私は買い物に行ってくるわね」


 カリンは先ほどから食材に対して目を光らせていた。

 ボクが冒険者ギルドに寄りたいというと、喜んで買い物に向かって行った。

 メルロもカリンの荷物持ちとして付いていったので、シロップとクウを連れて冒険者ギルドへ入っていく。


「ダッハッハッハッ!!」

「ギャハハハハハ!!!」


 海賊のような荒くれものたちが屯している。

 ギルドの中は酒場が併設されており、とても賑やかなものだった。

 冒険者ギルドのイメージ通りの作りに、ボクは異世界に来たんだなぁ〜と改めて感動してしまう。


 面倒なことはしたくないけど、これはこれで楽しい。


「おいおい、こんなところに綺麗どころ三人で何の用だよ?」


 シロップよりもデカいスキンヘッドの男がボクらに声をかけてくる。

 こういうのはテンプレというんだろうな。

 ボクはバルニャンに乗ってふよふよ浮いているので身長がわからないようだ。

 立ったら男よりも大きいと思うけど、訂正するのも面倒だ。


「黙れ!主様の道を阻むな」


 おや?ボクは見るのが初めてだけど、シロップが他人に対して威圧を向けている。

 これが冒険者モードのシロップなのかな?


「下郎!主人様は、貴様のような人間と話すことはないのです!」


 あれ〜クウちゃん。

 いつもふわふわしているのにシロップ並みに威圧が凄いよ!


 スキンヘッドさんがドン引きしているよ。


「なっ、なんだお前ら?ヤベーやつかよ」

「モンクさん!また揉め事ですか!」


 ウェイトレス姿の少女が現れる。


「トゥーリちゃん違うんだよ。俺は別に何も」

「もういつもモンクさんは揉め事ばかりで、最高ランクのC級冒険者だって自覚を持ってください!いつも言っているじゃないですか」

「いや、だから、俺は‥…」


 スキンヘッドのおっさんは肩を落として落ち込み出した。

 テンプレは、起きることなく少女に止められてしまう。


「すみません。お客様!ご用件は?うわっ!凄い美人!」


 トゥーリと呼ばれた少女はこちらに視線を向けて大きな声を出す。

 まぁシロップは美人だからな。クウも可愛いぞ。


「あっ、あの今日はどのようなご用件で?」


 なぜかチラチラとボクを見て質問してくる少女。

 うん?美人?ボクのことか?


「ふむ。見る目がありますね」

「はい。主人様は美しいのです」


 なぜか獣人たちが納得している。


 まぁ、ボクは美しいから仕方ない。のか?


「せっかく来たんだ。冒険者登録でもして帰ろう。シロップはすでに持っていたな?」

「はっ!」

「なら、ボクとクウの登録を頼む」

「だっ、男性だったんですね。綺麗です!あっ、すいません。登録ですね!それではこちらへ」


 体が大きくなってからは、女性に間違えられることがなかった。

 久しぶりの反応ではあるが、確かに王都以外では男が綺麗にしているのは珍しいかもしれないな。


「あっ、あの最近になって冒険者登録の仕方が変更されまして、こちらに魔力を流していただけますか?」


 ボクがシロップを見れば、シロップは首を横に振った。

 どうやらシロップも知らないようだ。


「わかったよ」


 ボクが水晶に魔力を流し込むと、ボクの魔力を読み込んだ水晶から何かが排出される。


「これは?」

「冒険者カードになります。今までは冒険者の実力が不明だったので、初心者の場合は低ランクから仕事を覚えてもらっていました。

 ですが、この魔道具が冒険者ギルドに設置されたことで、その人のレベルや経験値を知ることができます。もちろん実力だけでは仕事を紹介することはできません。

 そこは冒険者ギルドとしても実績を積んで信用を勝ち取ってもらうしかありません」


 冒険者について説明してくれる彼女はどうやらギルドの受付さんらしい。


「ですが、今までのレベルや能力を知ることで、その人がどの程度まで実力があるかわかっていれば、仕事の紹介がしやすくなります。それらを可能にしたのが、マジックウォッチと言われる魔道具です」


 どうやらリサーチ先生の発明が冒険者ギルドで採用されたようだ。


「マジックウォッチは魔道具として高価格になるので、このカード形式にすることで簡易情報を表示できるようになりました」


 カードをタッチすると、ボクの名前と冒険者ランクが表示される。


「なるほど」

「各冒険者ギルドに設置された判別機にカードを当てて頂くと、もっと詳しい情報も見れますよ」

「クウ、先にやって」

「はいです!」


 クウは言われるがままに、カードを水晶に当てると詳しいデータが現れる。


 名前:クウ

 年齢:15歳

 レベル:45

 ジョブ:メイド(獣戦士)

 冒険者ランク:B 

 魔物討伐数:23004


 無属性魔法


 ・生活魔法

 ・強化魔法

 ・支援魔法


 固有スキル


 ・獣化


 学園で配布される物とは別の表示が現れる。


「B級!!!凄いです!我が冒険者ギルド最高位です!!!」


 情報を声を大にして叫んだ。

 トゥーリにシロップが威圧を込めて黙らせる。


「ひっ!ごっ、ごめんなさい」


 騒いでいた酒場の者たちにも。シロップが威圧を込めて黙らせる。


「誰にも言わないでね」


 ボクの言葉にトゥーリは何度も首を縦に振る。


「シロップも登録しといてね」


 シロップはAランクの表示を受けトゥーリをさらに驚愕させていた。

 今時の冒険者登録は面倒なランク上げがないんだな。


 トゥーリが悲鳴をあげそうになっていたのを必死に我慢してくれたので、金貨を渡して口止めをしておいた。


 ボクは………まぁいいか。


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