第五章 冒険者家業

第148話 帰る家がない!!

 ボクが屋敷に帰ると、屋敷がなくなっていた。

 いや、建物はあるが立ち入り禁止の札がかけられていた。


「お帰りなさいませ。リューク様!」

「お帰りなさいませ」


 ボクに声をかけてきたのは、シロップとメルロだ。

 いつものメイド服ではなく、私服に着替えている二人がそこにいた


「シロップ、これはどう言うこと?」


 とうとう父上が、ボクに使う費用を凍結したのだろうか?


「申し訳ありません。昨夜に連絡がありましたのでご連絡が間に合わず」

「シロップが悪いとは思っていないよ。謝らないでいいから事情を説明して」

「はい。デスクストス公爵様が屋敷の改修工事をするため領地へ戻られました。

 リューク様には領地に戻るなり、王都で好きに過ごすなり、ご自分で決めらるようにとお達しがありました」


 このタイミングで改修工事ね。

 いよいよ動き出す準備に入ったのかな?


「新学期まで過ごす資金はあるんだよね?」

「それは自由にしていいと聞いております」

「働いていた人たちは?」

「申し訳ありません。『母は、休暇を頂きます』と言って旅行に行かれました。

 公爵様に許可は頂いているのですが、リューク様の許しもなく申し訳ありません」

「全然問題ないよ。シロップママは父上が雇ったメイドだからね。他のメイドたちも休暇?」


 ボクの屋敷にいるメイド隊は、父上が雇ったわけではないのでどうなったのだろう?


「いえ、カリン様が用意してくださっています。メイド隊育成施設のカリビアン領へ研修に出ています」


 メイド隊、執事隊はカリビアン領に街を作っている。

 迷宮都市ゴルゴンで見つけた職人たちにも同じ場所で暮らしてもらっている。

 今頃は街づくりも進んでいる頃だろう。

 視察に来てほしいと言う知らせも来ていたから、そこに行ってみるのもありだな。


「ミリルやルビーもこちらでメイドをするって言ってたけど、どうしたの?」

「屋敷がこのような状態なので、カリン様に聞いてほしいと伝えました」

「そうか、ならまずはカリンのところへ挨拶に行こうか」

「はっ!お供いたします」


 御者をシロップへ変わって、クウが横につく。

 メルロはボクと共に馬車の中へと乗り込んだ。


 同じ貴族街を走行するので、カリンの家まではそれほどかからない。


「よくいらっしゃいました。リューク」

「ごめんね。カリン、お邪魔します」

「いえいえ、両親が不在なのが申し訳ありませんわ」

「気にしないで。カリンがいてくれてよかったぐらいだよ」

「公爵様の行動は聞いておりましたので、リュークがこちらに来るのではないかとお待ちしていたんです」


 さすがはボクの婚約者!ボクの思考を読んでるね。

 それにカリンは優しいな。


「ありがとう、カリン。こっちにミリルとルビーが来てないかな?うちでメイドをするって言っていたんだけど」

「それでしたらカリビアン領で仕事を紹介しました」

「そうだったのか、色々と迷惑をかけてごめんね」

「全然問題ありませんわ。それよりもリュークはこれからどうするつもりですの?」


 これからどう動くのかはボクの自由だ。

 家がなくなったことで決まった場所に引き篭もることはできない。

 再来年にはカリンと結婚して、カリビアン領に行くだろう。なら、先に視察に訪れても問題はないかな。


「カリンが良ければ、カリビアン領へお邪魔してもいいかな?」

「まぁ!それは嬉しいですわ!リュークとカリビアン領に帰れるなんて夢のようです」


 カリンが喜んでくれるのは嬉しいな。


 カリビアン領は、王都よりも西部に位置していて王国の海に面している。

 王都からも海は近くにあるけど、ほとんど船を迎え入れる港がメインになる。

 カリビアン領には泳ぐことができる浜辺などもあり、リゾート地としても有名なのだ。


「カリビアン領は海の幸も美味しいのですよ。たくさん美味しい料理を作りますね」

「カリンの料理はどれも美味しいからね。楽しみだよ」


 カリビアン領は、迷宮都市ゴルゴンとは真逆に位置する。王国の地図を見ると、改めて王国の広さを思い知らされる。


 立身出世パートに入ると王国全土に仲間を求める旅をする。

 その際には王国の地図を使うのだけど、それがまた広い。


 中央に位置する王都。


 南に、広大な草原と緑溢れる山々を所有するデスクストス領。

 西に、海と小さな島々が並ぶカリビアン領にチリス領

 東に、荒野と砂漠が広がり、その先には他国と繋がる。ゴードン領、ネズール領、アクージ領。

 北に、王国最大の領地を持つマーシャル領には、《迷いの森》、《魔王の住処》と呼ばれる高ランクダンジョンが存在する。


 それぞれの領地を各家の小貴族が細かく管理している。


 王都からマーシャル領までは馬車で三週間はかかってしまう。領地までの移動が陸路だけというのはどうしても時間がかかることになる。


 その点カリビアン領へ赴くのはとても早くて便利なのだ。


「リュークは、船に乗るのは大丈夫?」

「うん。全然問題ないよ」


 海にやってきたボクらは魔石によって浮遊力を得た船に乗って海の上を飛ぶように走り抜ける。

 車や飛行機などは存在しないが、船は魔石によって魔物を遠ざけ速度を調整することも出来る。

 貿易をする上で必要な物がゲーム内で発展した結果なわけだけど、馬車に乗るよりも早くて揺れも少ない。


「船に乗るのは初めてですが、快適ですね」

「海です!凄いのです!」

「うわっうわっ!こんなにこんなにスゴイ船をどうやって!」


 船に乗り込むと、


 シロップは帆船に立って風に長い白髪を靡かせ。

 クウは海に興奮してぴょんぴょん船の中で飛び回り。

 メルロは船の構造に興味を持って色々と作りを見て考察している。


 賑やかながらも楽しい船旅であることは間違いない。


 カリンが個人で所有する小型船は、キッチンやベッド、お風呂やトイレまで内蔵されていて、10人ぐらいが移動するのに丁度良い作りになっていた。

 魔力を流すことで走らせることができるので、操船も一人いれば問題ない。


「どうですか?リューク」


 操船をしているカリンは操船するのが好きだそうだ。ボクはカリンの操船する展望フロアで、バルニャンクッションにもたれていた。


「海ばっかりでのんびりしていて良い景色だね。それに思っていたよりも快適な船旅だったよ」

「豪華客船とは違って個人で移動するならこちらで十分ですわ」

「カリンは船が好きなんだね」

「ふふ、カリビアンの者は皆、『海と共に生き海と共に死ぬ』と言われていますの。私も海や船は大好きですわ」


 白かった肌は、昨年に操船を覚えてから小麦色に焼け始めた。健康的なカリンの肌はボクも大好きだ。


「ボクにも操船を教えてよ」

「ふふ、ダメですわ。リュークはなんでもすぐに出来てしまうから。これぐらいは私がしたいのです」

「そう?」

「ええ、私の運転に身を任せてください」


 六人の船旅は三日ほどでカリビアン領へついてしまう。


 カリンとシロップの二人を連れて船で世界旅行に行くのもありかな?そんな風に思えるよい旅だった。



 ―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 第五章はカリビアン領へ。


 どうぞお楽しみください(^^)/

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