第147話 二年次 剣帝杯 終

 決勝戦のカードがモニター越しに映し出される。

 ボクは会場の異常な盛り上がりに苦笑いを浮かべてしまう。


《実況》「いよいよ決勝戦が始まろうとしております」

《解説》「まさかまさかの大番狂わせです!!!」

《実況》「はい。相次ぐ優勝候補の試合辞退。それによって決まった決勝戦は意外な二人が残された!!!それでは選手の入場です。


《笑毒菩薩》こと、ナターシャ選手!!!


 保健室の天使が、まさかまさかの無敗で決勝戦まで駒を進めると誰が予想出来たのでしょうか?」


 白衣の天使姿で現れたナターシャに男性観客たちから熱狂的な声援が飛び交う。


《解説》「予選では彼女に恩があって戦えないと言う者が続出しました。

 決勝リーグでも、リューク選手が現われないことでの不戦勝。

 バルニャン選手の試合放棄が続いての無傷の不敗神話を築いております」


《実況》「続いての対戦相手は……


《変態駄犬》ダン選手!!!!


 誰が予想したでしょうか?このカードを!!!


《雄女強者》ノーラ・ゴルゴン・ゴードン選手の試合放棄により、ダン選手が勝ち上がりました!!!

 ノーラ対リンシャン戦を見ていた観客ならば、ダン選手が決勝に上がるなど誰も思わなかったはずです!!!」


 会場中が同意するように拍手で盛り上がる。


 モニターを見る王都の民たちも、ダンに対してお前じゃないだろうという視線を向けているようだ。


「ダン先輩~まさか~私たちが~決勝で会うなんて~思いもしませんでしたね~」

「ああ、俺も思わなかったよ」

「それでは~一生懸命戦いましょうねぇ~」

「ハァ、力が抜けるな」


《実況》「今まで戦いをしてこなかった。ナターシャ選手はいったいどんな戦い方をするのか?」

《解説》「ダン選手は《変態駄犬》の二つ名をほしいままにする男です。

 女性からのダメージを好んでいる傾向がありますからね。

 ダン選手に対して、女性は相性が悪いように思えます!」


 ダンへの評価があまりにも悪い。

 ボクが見ていないセシリア戦で一体何があったのか?


 試合後に控え室にいたリンシャンに問いかけると…………


「あの試合のことは思い出したくない。ダンの名誉のためにも」


 そう言って語るのを断られてしまった。


 決勝のカードはどっちが勝っても、ボクにはどうでもいい。


 すでにボクの計画は終了を告げた。


 隠しヒロインであるノーラ先輩には結局顔を合わせることはなかった。


 あの人は、お姉様とは別の意味でヤバいのだ。

 ボクはゲームに登場しないお姉様のことは、よく知らなかった。

 だけど、隠しヒロインであるノーラ先輩のことはよく知っている。


 作中で最強キャラとして登場するのは彼女だ。

 どうして隠しヒロインなのかについては、まだ先の話としよう。


 ボクは決勝戦のモニターから視線をはずした。

 帰る支度をクウに任せて部屋を出る。


 二年次の学園も剣帝杯が終われば、自宅へ帰るのが通例なのだ。


 ミリルとルビーは共にボクの屋敷のメイドになっていることだろう。

 リベラとアカリは、共同研究のためにアカリの研究所に行くと言っていた。

 カリンは相変わらず、王都とカリビアン領を行き来しながら商売に忙しい。


 今年の始まりは、テスタ兄様の結婚発表などで大々的な催し物が行われた。


 来年は何もなく年末年始を寝て過ごしたいものだね。


 だけど…………ボクには一つだけやり残したことがある。


 今年最後の挨拶を兼ねて……ボクは一人の人物へ会いに行った。


 ――コンコン


「入りなさい」


「失礼します」


「なっ!リューク!くん」


 ボクが入ってくるとは思っていなかったシーラス先生が、椅子を倒す勢いで立ち上がる。


「ネズール君が来るというから………騙したのか?」

「はい。いつもいつもボクから逃げてしまうので」

「べっ、別に逃げているわけでは………」


 ハヤセとの約束の中に、ダンと他のヒロインを付き合わせないという約束がある。

 ならば、全てのヒロインの面倒はボクが見なければいけないよね。


「年上の奥手な女性を、手篭めにすると言うのも乙なものかもしれませんね」

「なっ!手込め!!!」


 ボクは少しばかり強引に距離を詰めた。

 シーラス先生の手首を掴んで拘束する。


「なっ何をする!」

「強引にするのはここまでです。あなたが逃げないようにしたかったので」


 細いシーラス先生の手首を掴んで机に押し倒す。


「ボクと契約をするのは嫌ですか?」


 じっと瞳を見て問いかける。

 深淵の魔女なら、魔力でボクを撥ねのけることもできたはずだ。

 だが、彼女は抵抗することなく頬を染める。


「いっ…………嫌ではない」


 顔を横に向けてしまう。

 普段は冷静で、彫刻のように美しい顔を朱に染めている。


「なら、あなたの身も、心も、ボクに捧げてくれますか?」


 顔を横に向けたシーラス先生の耳元へと優しく語りかける。


「んん。ハァハァ……わかった。契約する。だから離して……」

「ダメです」


 ボクはシーラス先生の長い耳へ甘噛みをした。


「ハァ~~」


 息を吐いてブルブルと身震いするシーラス先生。

 ボクはその反応に満足して手を離した。


「ハァハァハァ、きっ君は………こんなにも強引で男らしいタイプだったのか?」


 ボクのことを、どんな風に判断していたのかなんて知らない。


 ただ、ボクが言えることは…………


「欲しい物を手に入れるとき、人は時に強引になるんです。それが例え【怠惰】なボクであってでもね」


 首筋を赤く染めたシーラス先生に手を貸して立ち上がらせる。


「はぁ、全く君という人は…準備をするから待ってくれ」


 シーラス先生はボクを見つめながら服を脱ぎ始める。

 これは契約の流れなのだろうか?


「さぁ君も」


 シーラス先生がボクの服にも手をかける。


 互いに一糸纏わぬ姿になり、シーラス先生がボクの前で膝を折る。


「我が名はシーラス。ハイエルフ族シェラスとシービスの娘。精霊術士、魔道師、魔術師として魔導を極めた深淵の魔女である。

 これよりリューク・ヒュガロ・デスクストスと契約を結ぶ。

 死が二人を分かつそのときまで、この身を捧げ尽くさせて頂きます」


 誰も見ていない二人だけの契約。


 メルロの時は名を預かるだけだった。

 今の二人は互いに肌を晒して全てを捧げ合う。


「契約を行う。シーラスの初めてをもらうよ」

「はい。これより先、何があろうとあなたが望むがままに」


 ボクはシーラスと契約を結ぶことで一つの力を手に入れた。


《限界突破》


 レベルはカンストを越える…………


 ―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 第四章。これにて完結です。


 ダンとハヤセの恋模様。

 シーラスとリュークの恋愛。

 剣帝杯、ガッツ、ダンとの戦い。

 そして、それらの思惑を裏で操るリュークの計画。


 楽しんで頂けましたでしょうか?


 第五章も楽しんで頂けるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いします(*^_^*)


 カクヨムコンテストが終わりましたね。

 皆様にはたくさんの応援頂きありがとうございます!!!

 ありがたいことに、【道にスライムが捨てられていたから連れて帰りました】がライト文芸部門1位で読者選考を突破できそうです。


 二作品を読んで頂いている方も、こちらの話だけの方も本当にありがとうございます!!!今後も頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします(๑>◡<๑)



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