第142話 二年次 剣帝杯 3

《sideダン》


 いよいよ剣帝杯が始まった。

 俺は順調に予選を勝ち抜くことができた。

 迷宮都市ゴルゴンでレベルをあげて、戦いを経験したことで強くなっているんだ。三年次の人たちにも勝つことができた。

 レベル以上にアーサー師匠に鍛えられた戦い方は俺の身になっている。


【実況】「決勝リーグ第二試合我儘令嬢セシリア・コーマン・チリス選手はその小さな見た目に反して、大きなバトルアックスを肩へと担いで入場だ!!!」


 俺の対戦相手であるセシリア嬢が闘技場へ姿を見せる。


【解説】「待ち受ける《最年少S級》ダン選手は、昨年の3位入賞者です。

 セシリア選手は優勝候補の一角にどう言った戦いを見せるのか」


 目の前にはバトルアックスを肩に担ぎ、フリフリのドレスのような戦闘服を着た。

 巻き髪の小さな女の子が立っている。

 だが、これまでの戦いを見てきたからわかる。


 彼女は強い。


「平民でS級冒険者になられたダン様ですわね。S級は上級貴族と同じ扱いを国から保障されていますわ。尊敬いたしますわ」

「俺は仲間たちのおかげでS級になれたんだ。彼らに恥じない俺でいたいとは思っている」

「本日は胸をお借りします。全力で戦えるなど、面白いですわね!それでは共に舞いましょう【我儘姫】」


 彼女がバトルアックスを構えて舞を始める。

 グルグルと闘技場全体をバトルアックスを振りながら回る回る回る。


「死にさらしませ!」


 勢いが一切落ちることなく振るわれるバトルアックスの勢いは止めようがない!避ければ、さらに回転が増して、バトルアックスが襲ってくる。


「さらに舞いますわ《我儘姫》」


 縦に横に斜めに回る回る回る。


 縦横無尽に重力を無視した攻撃手段。

 今までの者たちは対応できなくて敗北していった。

 盾で受け止めようとしても、バトルアックスの勢いを止める事がでいないまま盾を吹き飛ばされるかへし折られる。


 聖剣を使えば折られることはない。

 だけど、そんな方法で勝っても武器の力に過ぎない


 俺は俺の力で勝利するんだ。


属性魔法不屈!セシリア嬢、俺との相性が悪かったな」


 バトルアックスが俺の腹へと突き刺さる。

 発動した《不屈》の効果でダメージは通らない。

 向きを変えて、肩や額、足や腕にもバトルアックスが振るわれる。


「なっ、なんですの!!!」

「俺の心を折らない限り、君に勝ち目ないぞ!」

「なっ!バトルアックスを受けて笑うなんて変態ですわ!!!」

「えっ?変態?」

「気持ち悪いですわ!」


 動きを止めたセシリア嬢が距離を取るために飛び退いた。


「《我儘姫》は武器も、体も、相手も、私の思い通りになる属性魔法ですわ。縦横無尽な攻撃手段を味わいたいだなんて気持ち悪いですわ!!!とんだ変態さんですわ!あなたは私が、攻撃をするたびに喜んで笑うのでしょう!!!それを考えるだけでおぞましいですわ!!こんな方と戦うなど最悪です!!!審判さん。私は降参しますわ!変態さんとは戦えませんわ!」


 そう言って気味が悪そうな顔をしたまま、闘技場から逃げ出していった。

 ふっ、《不屈》の恐ろしさに気づいてしまったようだ。


【実況】「おっと!セシリア選手が、ダン選手のマゾ性に恐れ慄いて降参を宣言しました!!!」

【解説】「昨年も、アイリス選手の前で腹を見せて、ワンと鳴く犬になって喜んでいましたからね。マゾ性はダン選手の十八番だったのでしょう。

 相手をする女性選手は、ダン選手に勝つためにはマゾ性を乗り越えるだけの強さが求められるということですね」


 えっえっ?マゾ性?何を言っているんだ?

 俺は《不屈》を発動しただけで、ダメージを受けないだけで……


【審判】「勝者変態駄犬ダン選手!!!」

【実況】「おおっと、今回の審判を務める女性が、ダン選手に対して冷たい眼差しで二つ名をつけたぁ〜!!!」

【解説】「どうやら女性を敵に回してしまったようですね」


 全くなんなんだ。勝ったのに納得できない。

 控え室に戻るとリンシャンがこちらを見ている。


「……ダン。強く生きろ」

「うん?何をだ?」

「なっ!全く気にしていないのか?」

「なんのことかわからないな。俺はただ、魔法を使っただけだぞ。

 それよりもノーラ・ゴルゴン・ゴードンとの試合はかなり厳しいだろう。頑張れよ」

「あっ、ああ。ダンほどではないと思う。それではな」


 リンシャンは驚いた顔をしていた。

 何をそんなに驚くことがあるっていうんだ?確かにアイリス嬢との戦いは、自分でも覚えていない。

 だが、今回はちゃんと戦って相手が勝手に逃げ出しただけじゃないか。


「《変態駄犬》殿、少し宜しいか?」


 そう言ってボクに話しかけてきたのは、タシテ・パーク・ネズールだった。


「うん? タシテ?」

「あっ! あれだけの……いえ、さすがは《不屈》その聖剣に選ばれた人物ということなのでしょう」

「だからなんなんだよ」

「いえいえ、すいません。先ほどハヤセ殿がリューク様に会いに来られて、二人で特別会場の方へ行かれたのです。ダン殿は気になりませんか?」

「ハヤセがリュークと?」

「ええ。ダン殿とハヤセ殿は、最近仲良くされているように感じましたので」


 ハヤセがリュークに何のようだ?取材とかかな?

 でも、俺の試合は見てくれるって言っていたのに、どうしてこのタイミングなんだ?それに二人きりでって言うのは気になるな。


「私もリューク様のことが気になりますので、一緒に行きませんか?」

「なっ、秘密の話をしているんじゃないのか?」

「闘技場のことは気にしないのに、そこは気にするんですね。

 ですが、リューク様がハヤセ殿を手籠にしようとするかもしれませんよ」

「なっ!」

「リューク様は《覇麗夢王》ですからね。女性の扱いはお手のものですよ」

「リュークがハヤセを!!!行こう!」

「ご案内します」


 タシテに案内されてボクが見たのは……


 倒れたハヤセ。


 リュークに胸を刺されて血を流すガッツさん。


 血に染まって立つリュークの姿だった。

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