第143話 二年次 剣帝杯 4

 月の光が、血に濡れた身を照らしている。


 ガッツの胸から噴き上がる血の噴水。

 傷を負いながらも、剣を振り抜いたのは見事としか言いようがない。

 もしも、しっかりとした力を使えていたなら結末は変わっていたかもしれない。


 剣は、肘と膝で挟み込んで砕いた。


 ガッツは血を流しすぎた。

 いくら再生が出来たとしても、大量の血を瞬時に作りだすことなどできはしない。

 何より、再生という魔法はかなり難しい魔法なのだ。

 バカが使えるほど単純な魔法ではない。


 マルリッタに視線を向ける。

 未だに魔力は戻っていない。

 魔法から解放されて、闘気だけを身体に帯びている状態は、世界から隔離されたような不思議な感覚を味わえた。

 当たり前に身体の中にあった魔力が無くなった。

 マルリッタの属性魔法は、魔力を遮断するような魔法なのだろう。


 世界から隔離される不思議な感覚は、今まで味わったことがない。

 むしろ、遠い記憶の中にある魔法が存在しない世界を思い出した。


 彼らの能力は面白い


 ハヤセの【情報】

 ガッツの【不動】と【再生】

 マルリッタの【魔力遮断】


 もう少し使い道がありそうだが………


「何をしているんだ?」


 問いかけられた声にボクは後ろを振り返る。


 聖剣を握り、近づいてくるダン。


 血塗られたボク。


 いつの間にか時間が経っていたようだ。

 ダンの顔を見れば決勝リーグを勝ち上がったことは理解できた。


 ダンの後ろに見えるタシテ君は、仕事を終えて姿を消した。


「見てわからないのか?」


 悪役を演じるボクにダンが剣を握る。


「ハヤセとガッツさん、それにマルリッタまで」


 ダンの登場によって、マルリッタはボクへかけていた魔法を止めた。身体の中へと戻ってくる魔力……… 

 無くなっていた物が戻ってくる。

 初めて味わう不思議な感覚は面白い。


 マルリッタのおかげで、魔力の重要性を知ることができた。


「ふむ。面白いものだな」

「何が面白いって言うんだ!どうして彼らを傷つけた!意味もなくリュークが戦うとは思わない!説明をしてくれ!」


 ダンは敵対行動を取っているわけではない。

 自分が親しい者達が倒れている光景に怒りを表しているだけだ。


「ダン先輩」


 気を失っていたハヤセが意識を取り戻して身体を起こした。


「くっ!ダン」


 心臓を一突きにされても再生する魔力を持っているのは、さすがとしか言えないな。

 ガッツは完全に回復出来ているわけではないが、ダンの名を呼んだ。


 良い演出だ。


 いくら本人を痛めつけても、ダンの心は折れることはない。

 それは、ある意味でダン自身の覚醒を妨げている。


 挫折………


 主人公に必要なのは、心を完全に折られたとしても立ち上がる必要がある。


 ボクは余計なことを話させないためにハヤセの首を掴んで持ち上げた。


「リューク!ハヤセを離せ!」

「何故だ?ボクを殺そうとしたんだ。殺される覚悟はしていたはずだ」

「事情を聞いてからでも」

「それは一人だけ生き残ればいいだろ?」


 ボクはマルリッタを見た。

 ダンもボクが言いたいことを理解したようだ。


「ハヤセを離せ!リューク!」


 叫びながら、ダンが剣を抜いた。


「ボクと戦うのか?貴様が?」

「殺すのはやり過ぎだ!」

「なら、どうする?お前もボクを殺すのか?」

「いいや、殺さない。それにハヤセも殺させない」


 まだだ。まだ足りない。


「そんな程度の思いでボクを止められるはずがないだろ」


 ボクはハヤセの腕を折った。


「ギャっ!」

「やめろーー!!!」


 ダンが剣を振り上げて、ボクへ迫る。

 ボクは、ハヤセをダンへ投げ捨てて距離を取った。


「ダン先輩」

「ハヤセ。待っていろ。すぐに終わる」

「でも」

「ハヤセが初めて俺に声をかけてくれたときのことを覚えているか?」

「えっ?もちろんっす。先輩が雲を吹き飛ばすような凄い技を使っていたっす!」

「あの技を使う。あの技を使うためには、ハヤセの協力がいるんだ」

「何をすればいいっすか?」

「ハヤセは俺がすきか?」

「なっ、何を言ってるっすか?こんな時に」


 顔を赤く染めるハヤセ。

 ボクはこの茶番を見ないといけないのだろうか?

 バルニャンとの回線も繋がったので、帰りたい。


「俺の剣は【不屈】の聖剣と言う。守りたいと思う心が力となり、相手からも同じだけの思いを受け取ることで、更に強くなる。俺はハヤセが好きだ!」

「ダン先輩!わっ私も好きっすよ!」


 ダンへと光が流れ出して、聖剣の力が解放される。


「ハヤセ、待っていてくれ。リュークは悪いやつじゃない。きっと話し合えばわかり合えるはずなんだ」


 ダンはハヤセを寝かせて聖剣をボクへ向ける。

 その光は眩く聖剣本来の力を解放していた。


「リューク、三人に謝る気はあるか?」

「ないな」

「なら、倒してでも謝らせる」


 全身に闘気と魔力、さらに聖剣の力が加わり


「ブースト!」


 さらに、ダンの属性魔法が付与された。


「こいよ!」


 ボクは、ダンの実力を味わうために魔力と闘気を高めた。


 ダンの覚醒をこの身で受け止めるために……


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 あとがき


 作者のイコです。


 とうとう、体力の限界が来たようです。

 風邪を引きました。

 何話か投稿をお休みするかもしれません。


 カクヨムコンを最後まで2話投稿で走り切りたかったのですが、寒さには勝てませんでした^^;


 いつも楽しで頂いている方には申し訳ないです。

 回復したら、また普通に投稿を開始したいと思います。


 すみません(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

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