第132話 第一王子とは?
モーニングルーティンへ向かう少し前に、エリーナを起こした。
「エリーナ、起きて」
「おはようございます。リューク様」
「おはよう」
ボクに起こされたエリーナは恥ずかしそうに顔を洗いに行った。顔を洗っただけでもエリーナは綺麗だ。
本人は少し恥ずかしそうにしていたので、椅子に座らせて髪を梳かしてあげる。
「リューク様は手慣れているのですね」
「自分の髪をするからね。エリーナの髪は透き通っていて綺麗だよ」
「お恥ずかしいです。王族特有の銀髪が珍しいでしょ?」
「それも含めて綺麗だ。柔らかくてボクは好きだよ」
「ありがとうございます。リューク様と、こういう関係になるなど思いもしませんでした」
ボクも思っていなかったよ。
君はダンのヒロインだからね。
相性的にも最悪だと思っていたから、絶対にないと思っていた。
ベッドで眠るアンナを見る。
イレギュラーがあるとすればアンナの存在だろう。
昨日の晩も、アンナがいなければ互いの結びつきはないに等しかった。
ガッツの件があり、エリーナと話したいと思っていた。そんな矢先にアンナが誘いに来た。
こちらの欲しいタイミングでやってくる。
ボクの気持ちを先読みしているのかと思ってしまう。
「さぁ、温かいハーブティーを淹れたよ」
エリーナと話をするために準備をした。
「アンナが起きないのは珍しいです」
「ボクの魔法で眠ってもらっているからね」
「魔法?アンナは大丈夫なんですよね?」
「もちろん、あと三時間ほどしたら起きるよ」
ボクは自分で入れたお茶を口にする。
ハーブティーにしてよかった。
やっぱり気持ちが落ち着いていい。
「エリーナは、兄とは仲がいいの?」
ボクの質問に対して、エリーナは考える素振りを見せた。質問の意図について考え何を伝えるのか整理をしてからエリーナは目を開く。
恋愛に関してエリーナはポンコツだ。
だが、こういう話に対しての彼女は優秀と言える。
「ユーシュン兄様の使者としてガッツ殿が来られたのですね」
「ああ、そうだ」
ボクの質問でガッツがやってきた理由まで思考の論理を組み上げたのだろう。
「ユーシュン兄様は、優秀です。
頭が良くて人を使うのが上手い方です。
現在の王国運営は王である父ではなく、そのほとんどユーシュン兄様が行なっています。
また、デスクストス公爵様への対抗が出来ているのも、王権派の人材をユーシュン兄様が操りだしたからです」
ユーシュン・ジルド・ボーク・アレシダス第一王子。
兄へ対するエリーナの評価はかなり高い。
実際にゲームでも、公爵家が王国転覆をする際に、マーシャル家が最後まで抵抗できた理由として、エリーナの存在と、ユーシュンの存在が大きい。
第二王子であるムーノも戦闘では活躍するが、大規模な戦いは、一個一個の小さな戦闘の勝利では決着がつかない。互いが争えるための頭脳となる者がいなくならなければ、瓦解することはないのだから。
貴族派のトップがデスクストス公爵であり、またそれを継ぐ存在がテスタだったとした時。
王権派のトップは王であり、後を継ぐのがユーシュンということになる。
貴族派には実行部隊が数多くいるのに対して、戦闘ができるマーシャル家のみで対抗しているユーシュンは本当に優秀な男なのだろう。
もちろん、ゲームなのでダンの活躍が反映されるのは当たり前だが、軍と政治を仕切る別の人物が必要になる。
軍を背負うのがマーシャル家であるなら、政治は取り仕切るのはユーシュンということになる。
エリーナがダンと共に旗になり、ユーシュンは裏方として最終的に王になる。
そして、エリーナ編では、ユーシュンは役目を終えて殺されてダンが王になる。
現状は、ボクがエリーナの恋人になった。
だが、ボクは王になるつもりはない。
ボクの将来のためには、必要な人間になると言うことか。
「ユーシュン兄様に会うのですか?」
不安そうな顔でこちらを見るエリーナ。
「何か心配事でもあるのか?」
「ユーシュン兄様は、確かに優秀な人で、人を使うのが上手いです。ですが、冷静で冷徹な人でもあります」
「……そうか。人を使うんだ。人情を持ち出すようなタイプではないんだろう。盤上の駒を動かすように人を見ているのかもしれないな」
ガッツを切り捨てでも、ボクとの交渉場を設けようとした時点で、そういう人物かもしれないとは思っていた。
「多分ですが…… ユーシュン兄様は、生きることに興味のない人間なのです。自分の役割を全うできれば、他のことなどどうでもいいと考えています」
「うん?すまない。どういう人間なのか、よくわからない」
「はい。私も言っていてよくわかりません。ただ、それがユーシュン兄様です」
ガッツも言っていた。
王子に仕える価値があるかと聞いた時に……
「優秀な男であることは事実。然れど、私程度では計れませぬ。どうかご自身の目で見て判断してくだされ」
ガッツもわからないから見てくれと言っていた。
エリーナから、多少はどんな人間なのか予習しようと思ったが、ますますわからなくなったな。
「一つだけ……ユーシュン兄様に会われるのであれば、瞳を見ないようにお気をつけください」
「瞳?」
「はい。瞳を見つめていると、余計なことを話してしまうことがあるのです」
属性魔法の一種なのだろうか?手札を知らないのは、ますますめんどうだ。
「そろそろボクは行くよ」
「あっ!」
「ふふ、また来てもいいか?」
手を伸ばそうとしたエリーナの手を掴んで抱き寄せる。
「もちろんです。私はあなたの物になるのですから。好きにしてくださいませ。んん」
ボクは可愛いエリーナの唇を奪う
「これからもボクを助けてくれ。エリーナ」
「もちろんです。私のリューク様」
恥ずかしそうにしながら、エリーナの方からキスを返してきた。
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