第129話 憂さ晴らし
最近はストレスが溜まっていた。
身体の倦怠感。
シーラス先生との進展不足
ゲームの強制力への不安
ストレスを解消するためにボクはガッツをボコボコにした。もう容赦がないほどボコボコにしてやった。
少しだけ溜飲を下げたところで、シーラス先生から話しかけられた。ただ、契約の話は保留にされて有耶無耶のまま終わってしまった。
ガッツが、最強の一角足り得る属性魔法を所持しているのを知っているので容赦なくボコボコにした。
あれだけボコボコにしても、次の日にはケロッとした顔でガッツはボクの前に現れた。
【不動】のガッツ。
属性魔法【不動】と【再生】の二属性持ちで、倒れない男として知られている。
「ガハハハハハハハ、負けた!負けたぞ。リューク・ヒュガロ・デスクストス!」
昨日のことが嘘のような快活な態度で話し出したガッツ。ボクの記憶では、ゲームに登場するガッツはこういう奴だ。
「黙れ。奴隷!」
「リューク!待ってくれ。兄上は少し頭がおかしいんだ」
ガッツの横にはリンシャンが付き従っていた。
二人で貴族寮にやってきていた。
「酷いぞ。リンシャン!何もリュークが言っていることは間違っていない」
「なっ、何を言っているのですか!!兄上はリュークの奴隷になるのですか?」
「それはリューク次第だな。俺はリュークの命令を聞くと約束した。男に二言はない!」
「リューク!待ってくれ。これでも我がマーシャル家の次期当主なんだ!」
リンシャンが兄を守るために必死に願い出ている。
「兄を許してくれるなら私を好きにしてくれて構わない。どんなことでも言うことを聞く!結婚しろと言うならこの身を捧げる!」
途中からは嬉々として申し出るリンシャン。
少しだけ思惑が透けて見えてしまうぞ。
「それはダメだ!リンシャン。これは俺とリュークの間で交わされた貴族としての約束だ。いくらお前でも割り込む権利はない」
何故…… マーシャル家の兄妹に朝早くからギャアギャアと寮の前で騒がれなければならないんだ。
ボクはそれでなくてもダルくて眠いのに……
「なんの騒ぎですの?ここが黒の塔と知ってのことですの?」
また、面倒な人がやってきた。
「おお!これはアイリス嬢ではないか、久しいな」
「えっ?ガッツ先輩ですの?どうしてここにいるんですの?」
「ガハハハハ、実はリュークに決闘で負けてな。
命令を聞くためにやってきたんだ。
もしかしたら奴隷になるかもしれん!」
あっけらかんとした態度を取るガッツの態度に、アイリス姉様が凄い目でボクを見る。
「どういうことですの?」
ボクは大きく息を吐いた。
物凄くめんどうだ。
今日に限ってリベラが先に行っていることを恨みたくなる。
「もうどうでもいい。ガッツはボクの部屋に来い。リンシャンはアイリス姉様に説明をしてくれ」
「えっ!私か?」
ボクは頭を抱えてガッツを自分の自室へと招き入れた。
クウへお茶を入れるように頼んで、バルの上で頭を抱えて横になる。
「何が目的だ?」
「何を言っている?俺は……」
「そういうのはもういい。お前は頭が使える奴ではないだろう。どうせ誰かの差し金でここにきて、クラスメイトを威圧でもして挑発しろとでも言われたんだろ」
ボクの言葉に驚いた顔を見せるガッツ。
戦うこと、軍を指揮することに関してはこの男は優秀な男なのだ。ただ、根回しや裏工作は一切できない。
今回も言われたままの演技をしたに過ぎない。
そして、この男に奴隷になってもいいと言わせる人物をボクは一人しか特定できない。
「第一王子の差し金か?」
「!!!」
ボクの言葉に驚いた顔をするガッツ。
これ以上聞く意味は無い。
「ご明察…… リューク殿。
どうか我が主君に会っては頂けませぬか?私の身はいかようにして頂いて構いません。
我がマーシャル家にはリンシャンが居ります。
ダンと夫婦になれば、二人がマーシャル家を継いでくれる!我が身などどうでも良いのです!」
立身出世パートの重要人物……それは第一王子に他ならない。
「王権派はマーシャル公爵家とチリス侯爵家が中心に王家をお支えしている所存。
貴族派に比べれば派閥の貴族は少なく、今後を思えば力を持つ者を味方につけたい」
そこで目をつけたのが、ボクと言うことか……
「リューク・ヒュガロ・デスクストス殿、貴殿の力は昨日の戦いで見せてもらった。
互いに加減をしていた戦いであったとしても貴殿の力が、我と同等かそれ以上であったことは理解できる。
何よりも、貴殿はテスタとは違う!
戦ったことで理解できた。どうか我が主君に会って話を聞いてほしい!」
マーシャル家特有の戦闘で会話するというやつだ。
それにしても……
ガッツをくれてやるから、味方になれということか……
第一王子……
気に入らないな。
ボクは誰かを道具として差し出すことは、貴族の思想として間違っているとは思わない。
だが、第一王子にとって唯一の手駒であり親友を差し出すという。
大切な者を簡単ではないにしろ、手放すのはボクにとって許せる話ではない。
「会いたいならお前が来いと伝えろ。ボクから出向いてやるつもりはない」
「それは!王子が来れば会ってくださるのですか?!」
「ガッツ、お前に聞いておきたい。お前の命を差し出してまで、仕えるだけの価値のある者なのか?」
ボクは第一王子のことを実はあまり知らない。
ゲームの視点はダンの目から見た世界なのだ。
ダンが選んだヒロインによって第一王子は役目を変えていく。
リンシャンを選べば、マーシャル家の後ろ盾になって、第一王子はガッツを通して指示を出すだけの存在だった。
エリーナを選んだときには、デスクストス家によって殺されていて、ダンが王になるシナリオが用意される。
他のヒロインを選んでも、ほとんど第一王子と関わることはないのだ。
リュークとして、今のボクは、第一王子が協力を求めるに足る人物だと判断されたということだ。
なんともめんどうで厄介なことだ。
「わかりませぬ」
「わからない?」
「はい。優秀な男であることは事実。
然れど、私程度では計れませぬ。
どうかご自身の目で見て判断してくだされ」
なるほど…… ガッツはバカだったな。
「ふっ、なるほどな。ならば命令だ」
「はっ!なんなりと!」
「いつか求めた際に力を貸せ」
「求めた際に力を?」
「そうだ。今すぐはお前に命令することはない。
お前を奴隷にしても何の価値もない。
ならば、ボクが本当にお前の力を欲しいと感じたときに命令をする。それでいいな?」
公爵家の力を持たせている方が利用価値がある。
ガッツは座っていたらソファーから降りて膝を突いた。
「そのご命令!しかと承った!ガッツ・ソード・マーシャルの名において必ず」
他の誰にも見られることのない。
マーシャル家次期当主の命令権を手に入れた。
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