第127話 臨時講師
人生とは上手くいかないことばかりだ。
シーラス先生にはあれから距離を取られている。
距離を取っているのに、物陰からこっちを見ているのだから始末が悪い。何を考えているのかわからない。
ダンの方は計画が上手くいっている様子なので、問題ないように思える。だか、彼女たちが何を考えているのか、ボクが理解することはできない。
彼女たちも、彼女たちで思惑があって行動していることだろう。
本当にダンを好きになるのかなんてわからない。
出来ることをしなくてはいけない。
何をしても上手くいかない…… 行き詰まった状態だ。
どこかのダンジョンにレベル上げにでも行くか?
レベルは99でカンストしてしまうが、成ってみなければわからない。レベルで強くなれる限界はある。
だから他の方法も考えなくてはならない。
バルは今後も増やしていく。
魔力も上げられるところまでは上げる。
数でも魔力でも、レベルでも、個人で出来ることはしておく。
大罪魔法……ボクは《怠惰》の本当の危険性をわかっていなかった。
黒龍との戦いで、無理やり大罪魔法を使った反動は思っていたよりも大きかった。
魔力が枯渇するほど《怠惰》を使ったことで、倦怠感が取れない。
今までは敵が弱かったこともあって、魔力を消費する量が少なかったから気付いていなかった。
《怠惰》は相手に《怠惰》を与えるだけじゃない。
自分にもまた……《怠惰》が襲ってくる。
黒龍を倒してから、ずっとやる気が起きなくて、何をするのも気怠い。
「リューク様」
「クウか……すまないが肩を貸してくれるか」
「はい」
1日に何度も眠気が襲ってくる。眠らなくては活動することも辛い。
「大罪魔法か……」
「えっ?」
「いや、何でも無い」
クウに支えられて、バルの上で横になる。
自立型にしているバルだからこそ、どこにいても寝ていられる。
どうにかして……シーラス先生の力を手に入れなければ…… 時間が無い。
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ボクは授業中でもバルに乗って横になるようになった。
一日の半分は眠っている。
「本日より剣帝杯が終わるまでの間、臨時講師としてガッツ・ソード・マーシャル様が、皆さんの実技訓練を指導して頂くことになりました」
シーラス先生の紹介で、0クラスの教室へ入ってきたのは、ガッツ・ソード・マーシャルだ。
リンシャンの兄であり、現王国騎士団第一隊隊長を務めている。その実力は、父であるマーシャル公爵を除けば、騎士団で1、2位を争うと言われている。
「このような形で後輩たちの指導が出来ることを心から嬉しく思う。ガッツ・ソード・マーシャルだ。
まだ私個人としては騎士の位しか持ち合わせていない。だから、呼び方は好きに呼んでくれて構わない」
マーシャル派と王権派は、ガッツの挨拶に好意的な拍手を送って出迎える。
ボクはどうでもいいと思って、眠りに落ちることにした。
「リューク様」
ボクが目を覚ますと、そこは闘技場の景色が広がっていた。
「リベラ?」
「申し訳ありません。リューク様はお疲れで眠っていると断ったのですが……」
いつも付けているはずのメガネを付けていない。
表情もどこか疲れた顔をしているリベラ。
向かいには、ガッツ・ソード・マーシャルが剣を構えて立っていた。
「ふむ……」
ボクはなんとなくではあるが、状況を理解した。
観客席にはリンシャンやエリーナが見える。
彼女たちも傷付き、申し訳なさそうな顔をしている。
ルビーやアカリは怒った顔で、ミリルは悲しそうにガッツを見ていた。
「ガッツ」
「ガッツさんだろ?リューク・ヒュガロ・デスクストス!」
剣を肩に担いだガッツさんが威圧を飛ばしてくる。
「お前に一つ聞いておきたい」
「いいだろう。なんだ?」
「寝ている人間を無理やり闘技場に連れ出して、クラスメイトの半分がお前に反感を感じているようだ。何を言ったんだ?」
王権派の数名と、マーシャル派の人間はボクに敵意を向けている。
ダンは、この状況に戸惑った顔をしていた。
タシテ君は傷付き、ボクに対して申し訳なさそうな顔をしている。
「別に難しいことではないさ。あまりにも弱い0クラスだったのでな。正直にお前たちは弱いと告げただけだ」
「……そうか」
もう一度クラスメイトたちを見ればルビーやアカリも傷を負っていた。
すでにガッツを止めるために一戦交えた後なのだろう。
「でっ?殺されたいのか?」
「出来るのか?お前に?二年次0クラス成績ランキング1位、リューク・ヒュガロ・デスクストス。
貴様が私に負ければ、0クラスは剣帝杯が終わるまで私の奴隷として命令に従ってもらう」
「ふむ。ボクが勝てば?」
「別に、貴様の命令でもなんでも聞いてやろう」
何もおかしなことはない。
リンシャンの兄であるガッツは熱心な騎士だ。
例え人に強要してでも、正しいと思えば押し倒す。
「ハァ、興味のない話だ」
「いいのか?貴様が断れば、その時点で負けと判断させてもらうぞ?貴様らには地獄が待っていると思ってもらって結構だ」
威圧に含まれる異常な殺気。
余りにも圧力が強く、闘技場にいる者の数名が息ができなくなっている。
「そうだ、リューク。お前のレベルはいくつなんだ?教えておいてくれ。殺さないように手加減が必要になるかもしれないからな。ちなみに、私はこの間99になってね」
自らの腕についたマジックウォッチの表示を見せるガッツ。
ボクはマジックウォッチを起動する。
名前:リューク・ヒュガロ・デスクストス
年齢:17歳
レベル 84
魔物討伐数 18375030
所属、0クラス
実技評価 SS評価
学科評価 S評価
魔法評価 SSS評価
成績ランキング 1位
取得魔法
無属性魔法
・生活魔法
・強化魔法
・支援魔法
・回復魔法
・再生魔法
・解除魔法
・自立自動人形魔法
属性魔法
《睡眠》魔法
《怠惰》魔法
加護
???
「84だ」
「ほう、良く鍛えているじゃないか」
ボクも久しぶりに見て、自分のステータスに驚いてしまう。魔物討伐数のほとんどは、バルがやったものだ。
バルの功績が全てボクの物になっている。
「クラスの中で一番高いとはな。寝てばかりだと聞いていたのに、いったいどうやって鍛錬をしているんだ?」
「さぁな、寝ている間に倒しているんじゃないか?」
「ふざけた奴だ。お前が、トップでいるアレシダス王立学園など底が知れる」
ガッツという男は、ゲームの中に登場する。
ダン側の最強のカードとして……
テスタを倒すための切り札になる男だ。
王国転覆を企てたデスクストス家を憎んでいて、テスタとライバルとしていがみ合っている。
強さを求め、強さを手に入れた本当の強者であり、最初の頃に出会ったリンシャンや、ダンの思考を持ったまま強くなったような男だ。
二年次で講師として現われたのか……正直、覚えていない。ゲームでそんなイベントがあったのかもしれないが…… 最近の気怠さで、記憶が曖昧になっている。
「俺と戦え、ランキング一位」
どうせ戦わなければめんどうなことになるのだろう。
何より、今のボクは試したいことがある。
最強に属する者に対して、《怠惰》を使わないでどこまで通用するのか……
「いいだろう。ルールは?」
「もちろん。何でもありだ。殺すのは禁止。相手が戦闘不能になれば勝ちだ」
「いいだろう」
ボクはバルを武器へと変形させる。
「それがお前の武器か?面白い」
別に武器なんてなんでもいい。
ボクの身体に巻き付くようにバルは鎧へと変形した。
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