第123話 モテ期?

《sideダン》


 ハヤセに出会ってから、俺の生活は一変した。

 気持ちが明るくなって、今まで以上に訓練にも身が入るようになった。

 リュークが言っていた。


 誰かを守りたいと思う心…… 今なら分かる気がする。


 今までの俺はリュークに勝つことや、自分が強くなることばかり考えてきた。

 それは魔法の勉強や剣の鍛錬、闘気やレベル上げなど。

 自分だけの世界で全てが完結してしまっていた。


「ダン先輩。どうしたっすか?人の顔をじっと見て」


 首を傾げるハヤセは、俺が訓練しているとやってきて一緒に訓練したり、こうやって俺の訓練を観察したりしている。


「お前こそ、俺の訓練を見ていても強くなれないぞ」

「はは、そうっすね。でも、私がピンチのときはダン先輩が助けに来てくれるっすよね?」


 俺からすれば小柄で、女の子らしいハヤセ。

 髪が短いのでボーイッシュに見えて、出るところは出ているのでつい見てしまう。


 女の子なんだよなぁ。


「おっ、おう。まぁそのときは助けてやるよ」

「なんすか?照れてるんですか?ダン先輩!」

「ばっ、お前、女子が気軽に男子に触るなよ!」


 バシバシと俺の背中を叩くハヤセ。

 クソッ!嫌な気がしないじゃないか……


「もうダン先輩、何を言ってるっすか?私たちは成人を迎えているんすよ。大人の男と女っす」


 耳元で囁くように言われて一気に体が熱くなる。


「ばっ!バカなこと言うなよ」


 ハヤセはこうやってほとんど毎日俺をからかいに来る。

 からかわれているのは分かるが、ハヤセに対して悪い気はしない。

 それに最近の俺には心の癒しがハヤセ以外にもある。


 俺が訓練中に怪我をしたときに医務室に行ったら……


「あ~、ダン先輩。また~ケガですか〜?」


 フワフワとした優しい雰囲気で、俺を出迎えてくれるのはナターシャちゃんだ。

 他の生徒にも人気がある保健室の天使だ。

 平民で無属性の回復魔法を得意としている。

 属性魔法は、ヒドイケガを治しているところを見たことがある。


「ちょっと訓練を頑張りすぎて」

「ふふふ、気を付けて~くださいね~」

「おっ、おう!ちょっと近くないか?」

「え~そうですか~ふふ」


 いつもニコニコしていて、それでいて可愛いのだ。


 ハヤセが、からかってくる可愛い後輩なら。

 ナターシャちゃんは、心を癒やしてくれる天使的な後輩だな。


「でも~ダン先輩は、私が~ちゃんと治してあげますよ~」


 温かい光が俺を包み込んで、傷が治っていく。

 魔法も上手いので本当にありがたい。

 白くて綺麗な手に触れられるだけで、癒やされるってもんだ。


 ただ、厄介な後輩もいる。


「ダン先輩!今日も勝負してもらう!」


 同じマーシャル領から出てきた、マルリッタだ。

 踊り子の母と、剣士の父を持ち。

 訓練をしている俺に決闘を申込んでくるんだ。

 筋は悪くない。

 さすがは、平民で0クラスに入っただけのことはある。


 だが、剣帝アーサー師匠に比べれば……


「くっ!また負けた」

「マルリッタ、君は筋がいい。ちゃんとした師匠についてもらった方がいいんじゃないか?」

「だから、言っているだろ。私のような平民にちゃんとした師など、ついてくれる人などいない。ダン先輩が師匠になってくれと言っただろ」

「俺はダメだ。まだまだ未熟で自分のことで精一杯なんだよ」

「わかっている。だからこうして毎日戦いを申込んで鍛えて貰っているんだ!」


 そういって剣を持って立ち上がるマルリッタ。

 本当に綺麗に剣を構える。

 踊り子の訓練を受け来たこともあり、身体の柔軟性が高く、思わぬ角度から鋭い剣を放ってくる。

 闘気は荒削りだが、訓練次第で強くなる今後が楽しみな逸材だ。

 だからこそ、ちゃんとした指導者についてほしい。

 それまでは俺に出来ることはしてやりたい。


「はっ!」

「くっ!」


 彼女の剣をたたき落として決着をつける。


「打ち込みが甘い。身体の柔軟性に頼りすぎて曲剣を鍛えるのは良いが、基本を疎かにするな!」

「ハァハァハァ。分かった!素振りからしてくる」


 剣を持ち上げて、立ち去ったマルリッタは真面目な奴だ。少しだけリンシャンの面影を感じる。

 一緒にいるのは色々と思い出してしまうが、これはこれで楽しいと感じてしまう。


「ダン先輩!」

「おっ?ああ、ハヤセか。どうした?」

「マルリッタちゃんを見つめて、イヤらしいっす」

「なっ!そんなんじゃねぇよ!俺はただ、マルリッタほどの才能があれば、誰か師匠につけば、もっと強くなるのにって思ってただけだ!」

「本当っすか?マルリッタちゃん、凄く美人でスタイルもいいっすよ。ダン先輩がスケベな目で見ても仕方ないと思うっす」


 ハヤセの顔を見ればニヤニヤとした顔をして、俺をからかっている。一気に肩の力が抜けて脱力してしまう。


「お前なぁ~報道部の方はいいのか?最近、俺のところにばっかり来てるだろ?」

「まぁ、そうっすね。でも、学園で取材をして面白い人って限られて居るっす」

「限られているのか?」

「はいっす」

「ちなみに誰なんだ?」

「そうっすね」


 ハヤセから出てきた名前は……


 ・聖女アイリス

 ・ハーレム王、リューク・ヒュガロ・デスクストス

 ・最年少S級冒険者ダン

 ・ネズール&マイド商店の新商品


 などなど、俺の知っている人物たちが連想できるものばかりだった。


「俺も入っているのか」

「それはそうっすよ。今、アレシダス王立学園では話題の人ですから。三強っす」


 全然嬉しくない。

 三強に選ばれていることに、俺はガッカリしてしまう。


 デスクストス家の二人は、呼ばれるのに相応しい実力を兼ね備えている。

 だが、俺は二人に肩を並べられるほどのレベルに達していない。不安でしかない。


「ダン先輩は自信がないんすね?」

「えっ?」

「話題に上がって喜ぶんじゃなくて、不安そうな顔をしていたっす」


 鋭い観察力に驚いてしまう。

 ハヤセは情報を扱うことに長けている。

 さすがの観察眼だ。


「そうかもしれないな。二人ほど、俺は強くないからな」

「う~ん、いいことを思いついたっす」

「いいこと?」

「はいっす。もしも、ダン先輩が剣帝杯で優勝出来たなら、私がダン先輩と付き合ってあげるっす。彼女っすよ」

「なっ!何言ってるんだよ!もっと自分を大切にだな」


 彼女?ハヤセが?それは……いいのか?いやいや、俺なんて優勝できるはずが……


「ダン先輩は、私じゃイヤっすか?」


 大きな胸が当たっている!


 上目遣いで見上げられるって……


 可愛い!!!ヤバい!!!


「イヤじゃない」

「えっ?」

「イヤじゃないって言ったんだ」

「ふふ、落ちたっすね。なら、絶対に優勝してくださいっす」


 すっと離れていくハヤセの感触が名残惜しくて、手を伸ばしてしまう。


「うん?どうしたっすか?」

「あっ、いや……ハァ、わかった。俺は今年の剣帝杯で優勝する。リュークにも勝つ」

「その意気っす!」


 いつかは越えなければならない。


 それが…… 誰かを守る…… いや、手に入れるための戦いでもいいじゃないか……

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